燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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完結編 月の獅子の目は彼の者に

十二話 クロトゥラン達のお守役

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 いつぞやか見たかも、純粋な興味のままアルゴスさんの背中の向こうの廊下の先、腕を組む誰か。


 窓からの光に反射して見えるくすんだ鉄の色とたくさんの傷のついた甲冑の、見たことのあるような誰かと、頭の隙間越しに目があった気かした。

「さて……」
「随分と嗅ぎまわっていたみたいだがなにも答えを得ずか、魔術の者」
「あんだと? 」
 薄暗い廊下を進む甲冑の誰かの声はエウァルドさんに似ていて、それでいて少ししゃがれているような、むむむ。

 ん? アルゴスさんに向かってなんか言ったね。 


「そんで欲を優先して目の前のことしか見えていない小僧……いい加減にしろよ? なあディウエクチア」
「……なにを言っている」
「言葉通りだ、意味がわからなかったのならお手上げだな」
 今度はエウァルドさんに……ちょっと当たりきつい気がする。

「ニッキークロトゥランは……まだ間に合うな」
 なんで僕だけフルネームなのかしら。

「いやまてやおまえ……」
 はて、これは一体どういう状況なのか、空気がひりついてる気がするのはわかる。

「明らかにダンの手駒じゃねえな、いやそもそもお前……人間じゃねえだろ 」
「人間だとも、1000年歳を重ねる過程で体は朽ちたがな」
 ほう、1000年……ほう?

 ほん? 

「嘘言うんじゃねえよ、なんだその魔力は」
「嘘は言っていない、それに無意味に現れたわけでもない、助言をしにきただけだ」
「助言だあ? 」
「聞けガキ共」
 カシャンと、甲冑の人が一歩進んで、エウァルドさんが二歩下がった。

「動くならさっさと動け、二の足ばかり踏んでいれば調べる時間もなくなるぞ、特におい、ディウエクチアの牙を持つ愚か者」
「なんだ」
「 ”貴様の願いはなんだ?” 」
 似たような声がふたつ、正直甲冑の人がちょっとしゃがれてなかったら判別できなかったかも。

「……」
 エウァルドさ?黙っちゃった。

「あー、おいお前、いったい何いって」
「時間がねえんだ、獅子もそろそろ我慢できねえとほざいてやがるしなにより、ニッキークロトゥランの夢が覚めちまう」
「ゆめ? 」
「おまえのだ、ニッキークロトゥラン、他のクロトゥラン達も注力しているがそれも限界がある」
「うん? 」
 固まるアルゴスさんの横を抜け僕とエウァルドさんの前に立った甲冑の誰かは良く分からないことをのたまう。

「ニッキークロトゥラン、生きながらに役目を果たした者よ、お前が見て感じ取るもの全ては夢うつつに変換されるが、現実になればありもしない役目を本能のままに追いかける、それは俺達の望まないことだ」
「うーん? 」
 難しい話をされている。


「おいガキ共、今から言う言葉をダン・オールドにも伝えろ、いいな? 」
「おい、好き勝手喋ってくれてるがなんなんだよお前、訳知り顔で語ってくれるがなんも伝わんねえんだわ」
「俺はクロトゥラン達の世話をしてるもの好きに過ぎん、ニッキークロトゥランも世話する対象内だからこうして出てきた、おかしくないだろ? 」
「……はぁ? 」
「俺もクロトゥランも獅子も、役目を果たして尚生きるクロトゥランに力を惜しまん、お前たちだってそうだろう」
「……人柱か」
「そう思ってくれて構わん、王は必ず一生に一度存続に関わるナニカに襲われる、それを肩代わりするのがクロトゥランの役目らしいな」
「……じゃあクーもそうだったと? 」
「クアフルクロトゥラン、あいつはクロトゥランの中でも特に強大なものを肩代わりした、だからあんな姿になったんだが……本題に戻るぞガキ共、よーく聞け」
 アルゴスさんは背中越しだから顔が見えない、でも声は怒っている。

 エウァルドさんは首動かさないとだから見えない、うむ。

「次の満月の夜、ニッキークロトゥランを月につれていく」
「はぁ!? 」
「つき? 」
「月だ、獅子が会いたがっている、準備はそれまでに済ませておけ」
 つき……つきかあ、準備ってなんだろね。


「前にも言ったが流石に覚えてはないだろう、ニッキークロトゥラン」
「うん」
「だろうな」
 言っているその意味も、なんでここにこの人がいるのかも、ちょっと良くわかってないかもしれない。

「いかせん」
 ………ただ流されてたのが悪いのかな、現実味がない。


 僕達の前に来た甲冑の誰かさんの言葉に、ただ頷いてはいと言うしかできないなあ、なんて頭の片隅で思ったところで、エウァルドさんの声が響いた。

「……エウァルドさん? 」
「行くわけがない、そうだろうニッキー? 俺とニッキーはずっと一緒にいるんだ、何があっても共にいる、そうだろう? 頷いてくれ」
「えっ」
 お腹に回るエウァルドさんの腕がきつく締まる、ちょっと痛い。

「答えをくれ、月になどいかない、俺から離れない、そうだな? 」
「んー? 」
「ただ頷いてくれるだけでいい」
「んー」
これに判断を下せるほど僕は材料を持っちゃいない、ノーと答えてこの先のもしかしたらになるか、イエスと答えてエウァルドさんを安心させるか、これを判断できるほど自分を持っていない。

はてこまった。


「甘ったれたこと言うんじゃねえよ馬鹿が」
「おうふ」
 理解よりも先に、甲冑の誰かの怒号に耳が痛い、エウァルドさんも何を伝えようとしたのか、はて……。

「おめえは自分の欲を押し付けてる自覚はあんのか? 」 
「そんなことは」
「あるだろうが なんで月につれていくかも考えもせず離れたくないだの赤ん坊じゃねえんだぞ」
「……」
 エウァルドさん黙っちゃった。

「置いていかれたくなきゃ自分で追いかけろ、ほれ湖あんだろ、あそこ見てこい、聞いてるかガキ」
「……俺のことか? 」 
「他に誰がいる」
「うそだろ……」
 甲冑の誰かの後ろでアルゴスさんがあんぐり口開けてるね。

 これは……僕は口を挟めないから黙っとこ。

「ニッキークロトゥランはそのまま微睡んでいろ……満月は見るなよ、あれは獅子の目だと思え、そんじゃあな」
「へ? めちゃくちゃにしといてどっかいく気です? 」
 あ、言うだけ言って後ろにいっちゃうやつ……あ、ほんとに行っちゃった。



 カシャンカシャンと鉄の音を響かせて行くその背中を見送って。

「…………くそが」
 エウァルドさんを見れば、なんな眉間のシワよせて怖い顔してる。

「なんなんだあいつ」
「何でしょうねえ」
 悪い印象はない、言葉の意味は特に理解できない、アルゴスさんあたりならそのうちわかるかなと思考は停止しておこうかね、うむ。



「あぁ言い忘れていたが帰ってきたダンオールドが戦鬼の顔でそっちに向かってるぞ」
「は??? 」
 甲冑の誰かさんの声が廊下の向こうから聞こえてきたね。


「はあ!? 」
 なんかめちゃくちゃでかい足音してきたね? おや、廊下揺れてる気がするね??


 あ、甲冑さんが消えた先から見覚えのある声と姿がドドドって。

「てんめえごるぁ!! なにやってんじゃあああああ!! 」

 あ、ダンさんおかえりー。








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