燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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完結編 月の獅子の目は彼の者に

九話 前線基地のお話

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「昔設けた飲みの席でぼやいてましたよ、”変な貴族がきた”と」
「うそだあ」

 知らない自分の過去の噂話。

 気になると同時に良い悪い関係なく頭の後ろがムズムズする錯覚に陥る。

聞きたいけど聞きたくないの正体は多分これ……ちょっとあれだ、意気地無しとかってやつ。

だからこういうときは、自我を抑える、客観的になるのが大事。


むんむん。


「大昔、かつてアスランよりも栄えた王国の元領土だった土地の境界線に設置された前線基地にはですね、高頻度に化け物がなだれ込んできてアスランのみならずヴァロンに面する各国も大困り」
説明を受けながらテーブルの上に地図を広げて見せてもらう。

現在地がここで、王都がそこで、



 温かいお茶を淹れ直し椅子に座って、昔話を語るように優しく、ダンさんは話をはじめた。
 茶々? もちろんいれますとも。

「……化け物とは? 」
「伝承になぞりますと、妖精と手を取り繁栄した王国末期、共生ではなく利用を選んだ結果王国ヴァロンは妖精の怒りに触れ滅んだ、そして犠牲になった妖精の死体から今もなお発せられる怒りに触れた獣や虫は気が触れ異形と化す、これらを魔獣と近年までは呼んでいたのですが、どうもそれとは違うようです、そうですねアルゴス」
なんか難しい話になってきたぞ?

「おう、魔獣ってのはニッキーサマ用に例えると獣版の魔術師みてえなものだ、厳密には全く違うがな」
「へぇー」
 またお勉強が始まった?

「魔獣ってのは体のほとんどが魔力に依存して心臓の代わりに魔力の結晶があったりして調べてみると中々おもしれえ、んで異形のほうはただでかくなった、よくわからねえ部位が生えていたり魔力に依存せずに化け物になっているってわけだ、ほいダンちゃん続き」
「どうも、今回はちゃんよびは見逃しましょう」
「よっしゃ」
 ぐっとプチガッツポーズをしてるアルゴスさんをちらりとひとつ、はて。

「そんな場所で僕はなんで変な貴族扱いされてたんでしょうね? 」
ワッツ?

「さあそこまでは、そうですね確か……”なにを考えてるのかわからねえ”や”権力バチクソすげえから居てくれる分には厄介な坊っちゃんなだけで他所からちょっかいかけられなくなる”、”おねだりすれば薬取り寄せてくれてありがてえがなにしてんのかわかんねえ”などを言ってましたね、人柄は悪くないようでなによりです」
「ほへえー」
「そして”ずっと時間がないと焦っていた”、”フィールドワークだの言ってヴァロンに飛び出した挙げ句傷だらけで帰ってくるのマジでやめてくれ” ヴァロンというのは荒野の名前ですね」
「なんだと……?! 」
 ヤダぁ……ただでさえ低かったエウァルドさんのさらにオクターブひっくい声。
 いやあやめてずもももと近づいてこないで。

「”毒持ちの魔獣の住処どこにあるのか、など警備から帰ってきた兵士に聞いてきたり重症者運ばれてくるとキラキラした目で群がってくるのやめてくれ”、”血まみれで砦の中徘徊しないでくれマジでこわい”…………ええたしか、”傷だらけの次の日にケロッとしてるのマジでこわい”……おやニッキーサマ、どうされましたか? 」
「いや、あの……エウァルドさんが」
「エウァルドくんが? 」
「ちかいなあ?? なんて? ねえ? 」
 見ないようにしてるけど椅子ずらしてくっついてきてるよこの人、視線バリバリ感じるからガン見してきてるよこの人。

じーっと、じーっとぶつかりそうな勢いで見てくるの、何か言えよって言いたいの。


「婚約者ですものね、その程度当たり前です、以上の友人からの証言と医療に長けているクロトゥラン家の長男であるニッキー様をあわせますと、常日頃重症者の絶えぬ砦で新薬の開発をしていたのではないかと、そしてその薬はなんなのか、これも予想がつきます」
「………なるほどー? 」
「おうニッキーサマよ、そのなるほどはちゃんとわかってるなるほどかあ? 」
「半分ノーコメントですねー」
「だと思った」
 やや呆れた声をするアルゴスさんにはいつかピーマンをあげようとおもうニッキーなのであった。

「もし機会があればその砦に出向いてみるのも手ですねニッキー様ならきっと歓迎されますから」
「へぇー? ……なんでです?」
 歓迎、とても素敵な響きの言葉、でも皮肉の意味での歓迎かもしれない。

「開発したであろう薬が大活躍しているのですよ、どう対策しても出てしまう怪我人に”あの”薬は効果てきめんです」
「……あのくすり?」
 特に頭使ってるわけじゃないからなんにもわからん。

「……もしかしたらなにか思い出すやもと考えましたがそうでもなさそうですね」
「ピンとはこないですね、もったいぶらずにお願いします」
 ちょっとガッカリしてらっしゃるダンさんには悪いなーとはおもうけど、嘘を言ってもしょうがない。

「それはそれで結構、では……何を作っていたのか……それはきっと痛覚を麻痺させる薬でしょう」
「……痛覚? 」
 痛みをなくす? なんで?

「さあ? なんででしょうね」
訝しむ僕にニッコリと、優しくダンさんは微笑んだ。











「おう、おうおうちょっと待てやオメーら」
「む? 」
「なんですアルゴス、折角意味ありげな空気を醸し出してニッキー様の記憶が戻るかもしれかいとっかかりを作ろうとしたところなのに」
「え? 」
なんかすごいこと言ってるこのひと。

「ばかやろーニッキーサマがんな難しいこと理解できるわけねえだろ、んなことよりもだ、なんだよここは、謎が多いんだよ」
「ねえエウァルドさんこの人さりげなく僕のことバカにした」
「そうだな、だが事実だ」
「あんですって……!? 」
みんなひどい、扱いが……もっとこう、理知的なかんじの扱いされたい。


「おうニッキーサマもここは聞いてくれや、まずだ、ニッキーサマは十年前に死んだ筈なのにここでピンピンしている、ここはまあいい、貴族ならまあまああることだ」
「ふむ」
「つぎ、その死んだことにされてる息子をわざわざ公爵家の当主が出向いて手厚く面倒を見ているのはなんでだって話だ」
「たしかに?」
ダンさんが手紙送ってすぐ来たからね?

「んで、記録を軽く見ただけでも公爵家の長男は全員不審死、病死、突然死してまともに生きてたって記録が残ってねえ、それを何故この国の人間が不審がらねえるだよ、毎回毎回大々的に葬式やってりゃ誰か疑問に持つだろ普通」
「………うん? 」
ちょっとニッキー、思考が……。


「かるーく調べて建国神話だのと公爵家の歴史てらしゃ出てくる憶測が人柱だの生贄だのしか出てこねえんだよ」
「あー、それは、あってるかも」
「合ってんのかよ! あーなにか? クロトゥラン家の長男が死ねば国が豊かになるみてえなもんか? 」
「それはチガウ」
「ちげーのかよ」
なんとまあモヒカンを乱してご乱心のアルゴスさん。

それをじーっと観察しているダンさんとエウァルドさん。


「不可解すぎる点が多いのにそれが解消される気配が全くねえのが気持ち悪いの! 俺は! 」
「……ふむ」
「ふむじゃねえよ当人なんだからもっと自覚もてや、ふつーこの俺様がきたら謎なんてとっくに解消してんだよ、クーちゃんもいねえし! そろそろなんか一個は解決しろって感じ! 」
ぜはぜはしながら言い切ったアルゴスさんに対してこの僕ニッキーが感じたことは。


「…………へいアルゴスさん」
「あんだー? 」
「あんまり騒ぐと血圧あがるよ」
「やかましい! 」


特に何も。


なぜここにきて感情を爆発させたのかという疑問と、大きな声でうるさいなーくらい。




おかしいかな? おかしいかも。


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