燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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完結編 月の獅子の目は彼の者に

六話 それはまるで煙のようで

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|は考える。


は夢想する。



僕は孤独のなかにいる、そんなわけもないのに。
そう分かっていながら、暗闇にいる私は手を伸ばす、くだらない妄想を胸に。



戦場の只中で見つけた一輪の花を見つけたような気分を、私は求める。
酷く疲れ切って指一本すら動かすのもしんどい時に訪れた安らぎを与えたい。

あの光に魅せられた時の感動のような体験を、いまいちど、もう一度。


孤独の中差し伸べられたいと思いたいと。


くだらない、くだらない。



もしくは、救いたいのかも。

完璧な光が、完璧で無くなるその数少ない時に一度だけ、一度だけ、助けたいなぁ、なんて思うのです。

実に頭の悪い、実に幼稚で、実に自分勝手な願望、これを、なんて言うんだっけ、悲劇のヒロイン症候群?もしくはかまってちゃん?

あぁ……うん、吐き気がする、本心ではそう願っている自分に。

ああ本当に救いようがない、|現実が見えていない、妄想に取り憑かれている自分に嫌気が差しているのに、時折怒りよりも願いが勝ってしまう。

そんな自分が心底嫌で、いやで、いやで……たまらない。

けれど、けれども。
そんな嫌いな僕を助けようとしてくれる人達が、力を尽くしてくれているのだから、自暴自棄になってどうする。

だからどうするのが最適解なのか、頭の良くない自分がだした逃げ策は……ぼんやりと、ぼんやりと、頭の中でこうするべきだと急かす心の私を煙に巻くことなのです。


なにも悪くない、なにもよくない、あの方を救えない、誰も幸せにならない。

あの方って誰なんだろうね、分からない。



この悪循環を自覚して過ごすのは少しばかり……しんどい、これもまた自分勝手な感情だなあ、なんて、ははは。





※※※


「でですね~ニッキー様、最近黒い外套の人たちをちらほら見かけるですよー」
「へぇー」
今日はすこし暑いらしい、だから紅茶に氷を浮かべて冷たく頂いている。

そしてお茶受けは氷菓子、ミルクとか色々混ぜて冷やして固めたらしい、甘くて大変美味しい。

受け取ったときチラつと「まあ無断で持ってきちゃったんですけどね」とか聴こえたけど……まあ怒られるのはメルディアさんだし。

「街の方でも噂になってましてねー、買い物にでれば嫌でも耳に入るんです、何をしてるんだかさっぱり……予想くらいはできますけども」
「へぇー」
「あ、見てくださいニッキー様、その時の買い物で購入したガラスのペンダント! この形が良くてですね! 光に当てるとキラキラして素敵なんですよー! 」
「ほんとですねー」
ダンさんとアルゴスさんがノシノシとごはんを作りに行って体感数分、眠気がやや覚めて来た頃ティーセット片手にメルディアさんがやってきてニコニコとはじまったのはもちろん……世間話? かな

うん、うん、いいと思う、良いと思う。


僕にはこういうのが必要なのかもしれない……必要ないのかも、ううん、だめだめ、そういうのはナシだね、わかってるとも。


日がな一日本を読んで目が疲れたら外を眺めて、時間がくれば目を閉じて睡眠を何回か、そんな生活も悪くはない、なにもしがらみも負い目も無ければ純粋に楽しめたのかもしれないけど、生憎そうはいかない。

いくらうやむやにしても膨らんでくるこの気持ちの整理はとても消化に悪い、何もしていないのに気疲れしてしまう、結果的に何もしていないのに勝手に落ち込む病人もどきの出来上がり。

とっても自分勝手だことで、ほほほ。


「あ、聞いてくださいよニッキー様、今度街で大掛かりな舞台が開かれるらしくって、ニッキー様もお連れしたいんですけど流石に鬼のように怖いダン様に叩き斬られそうなのでグッズとかパンフレットとか買い漁って「誰が鬼だって? 」 あー……はは? 鬼みたいにやさぎゃん! 」
あ、ダンさんって笑顔で暴力できるタイプの人だ。

お茶片手に 楽しそうに話すメルディアさんを余所に音もなく扉が開いて足音立てずにダンさんがすすすって来て気配も気取らせずにメルディアさんの背後に立った、あれはプロだね。

「おまたせいたしましたニッキー様、食堂へ参りましょう」
「はーい」
頭抑えてぷるぷるしてるメルディアさんが視界の隅にちらちらっと、ちょっと愉快。




よいしょっと、よし立てた。

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