燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

七十八話 赤い目の魔術 青い目の魔術

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「改めて名乗らせてもらおう、アルゴス・コルキス・アレクサンドリア十七世 絶賛弟子探し中の花の五十二歳だ」

「は? 」

この”は?”は僕じゃなくてエウァルドさんね、……エウァルドさんが?


「ねえダンちゃん、この男なに? 怖いんだけど」

「ニッキー様の元婚約者、いえ遠くないうちに籍でもいれるんじゃないですか? ねえ? 」

「当然だ」

「なんかややこしいなぁ……ちゃんと面白いのかぁ? なあクーちゃん」

「わかんなーい」

「そうかーわかんないかー、まあいい、さてニッキーサマよ、ちいと調べさせてくれ」

「調べる? 」

初対面の人には猫を被りたい、そんなニッキーなのです。


ただ笑っていたニワトリさんが真顔でこっちを見てくるのはちょっと怖いのです。


「俺が今から左目を赤く光らせた後に、右目を青く光らせる、それを繰り返し点滅させるからじっと、見てくれ、ほれ光らせた」

「お? おおすごい」

「カーテンを閉めておきますね」

「おう、頼むわ 」

暗くされて尚輝く、宝石に太陽を当てたような光。


ひかり、ひかり……ただひとつのひかり。


コレジャナイ。



「真っ直ぐだ真っ直ぐ、そうだ、右、左、右、左、よーしいいぞ」

赤、青、赤、青、明るくなって、暗くなって……明るくなって、くらくなって。


交互に輝くひかりをじっとじっと、じっと。


あぁ……白くないけど、この輝きは美しい……赤、青、赤、青……紫。


…………獅子みたい。


「……いいねえ、おかしくなってる」

「おかしく? 」

「ニッキーサマお前、今なに考えてる? 」

光を、光を、光を。


「綺麗だなと」

「なにがだぁ? 」

「光が」

蝋燭の灯火なんかより強くて、宝石のように綺麗な、素敵な光。


「そうかそうか……で、あんたは誰だ? 」

「? 」

だれ、だ? なに、が?


わたしは、わたしは……。


「おいアルゴス、どういうことだ、説明しろ」

「しらんがな」

「しらんがなってお前な……! 」

「だあから今調べてるんだろうが、待ってろや……ひとつ、ふたつ……みっつう? 人格が揺らいでいる? にしては受け答えが成立している……なら、それなら……あぁ? おいダンちゃん、記憶喪失だとか言ったな」

「ああそうだ」

「本当にこれ記憶喪失か? 随分と記憶の削れ方が綺麗、いやめちゃくちゃ汚いな! 三流の野郎が無理矢理”魔術”で消したみてえな……いや、みてえなじゃねえな、魔術だ」

「アルゴス、俺たちにもわかるように説明しろ、理解ができん」

「お? 一人称もどってるじゃねえか、いいねえ……いや、真面目にやる……解析解析……魔術じゃ足りねえな、呪診を使うか」

声は遠くに、わたしの願いは……違うな、これは違う。


ダンさんの困惑した声がする。



「記憶喪失ってのはな、収まるべき場所にあるはずの記憶が頭のどっかに迷い込んじまうのがほとんどだ、だから俺はいま左目で”体” 右目で”魂”を魔術で視ている、そうすりゃ嫌でも迷子になってる記憶が見つかるんだが、無い」

「ないだと……?! 」

「それらしいものというかだな、こいつの記憶どうなってんだ、戦場の焼け跡じゃねえんだぞ……じっくり、じっくり……視る、光を強めるぞ」

青と赤の光が強く、強く、わたしを強く照らしている。


その光はまるでまるでまるで、アノ時宙からきた大きなナニカ……。


「改めて聞くがニッキーサマ、お前は今何を考えている」

それはもちろん。


「もちろん? 」

「ひかりを」

「ほお? そりゃあどんなひかりだ? 」

「まばゆいばかりの、すべてをてらす、ただひとつの、ひかり」

わたしは何なのか、僕はなんなのか、はてさて……。


考えない、考えない……かんがえたら、ネガティブになる。



「……面白えな」

「おもしろくなど、なかったのです」

「へえ? 」

「おもしろかったら”わたし”は存在せず……うーんと……」

「続けろ、聞かせろ、貴方はなにを考えている? 」

「……贖いを」

「ダン、メモを取れ」

「分かった」

「さあ教えてくれ、貴方は何を考えている? 」

考えるな、考えるな……考えるな。


赤と青のヒカリなど、求めていない、唯一の白き光だけが、望ましい。


「ディフラカンへの、贖いを」

「ディフラカン、ふむ、アスランの王族名じゃねえか……なぜ贖いを? 」

「罪ヲ、犯したのです、私は、取り返しのつかない愚を……だから、だから、? 」

「お? どうした」

「なぜ、罪を犯したのでしょう、私であって私じゃない、過去の話なのに何故……”僕”はこんなに、償いたいと思っているのか……わからないなぁ……、気持ち悪い」

「なんだ引っ込んじまったか……もう少し出てもよかったのによ」

そう、そうだよ、おかしいよ。


なにがどうって言えないけど、おかしい。


「……つかれた」

「おう、お疲れさま、目を閉じてリラックスしてくれや」

モヒカンの目の光が無くなって、暗くなった部屋の中で、ニヤけるモヒカンの口元に眉をひそめつつ言われた通り、ソファーに身を預ける。


「なにを、したんです? 」

「敬語は好かん、ありのままで話してくれや」

「タメ語は苦手なので嫌です」

「けっ」


頭がぼんやりする、頭が重たい気がする。


私とはなんなのか、僕はなんなのか、考えるだけネガティブになるのだから、考えないに良いに決まっている。


決まっている……けど、逃げてばかりじゃ駄目なのかもしれない。


やだなあ……辛いのやだなあ。



「すまないが、アルゴス殿」

「あん? なんだ怖いの」

「二、三発殴らせてくれ、腹か顔で構わない」

「は? ぐお!?! 」

「アルちゃん!? 」

なんか風圧とか唸り声したな。


「……どうしました? 」

「なんでもありません、ニッキー様はそのまま、目元を冷やすものをお待ちしますね」

「いやでも「是非そのままに、ね? 」 あ、はい」

目元に無骨な手の感触が。


「二発目失礼」

「えっ、待てやこら……!! 」

「アルちゃん……!! そんなひどいっ! 」

「因果応報なのでトカゲ様はそのままに」

「えー……」

わたしとは一体何なんだろうか、はてさてはてさて。


頭が痛くなるかもなあ。



………しかたないよなあ、罪を犯したんだもの。




なんのかな。




 

※※※
本編はこれにて、次話より完結編となります









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