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本編
七十話 おやつとペンダントと謎ばかり
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気長に待ちましょう、なんて言われた三日前、いつも通りまったりと外を眺めたり歩いたり、色々食べたり、飲んだりした三日間を過ごしていた四日目のお昼。
その日も変わらず、窓辺に椅子をひいて日向ぼっこしながらお茶とお菓子に舌鼓みをうって……なんとも自堕落な生活をしていた。
「お寛ぎのところ失礼致します、少しよろしいですか? 」
「大丈夫ですー」
おやつの時間、十枚目のクッキーに手を伸ばしたときに、扉のノックと共にダンさんがやってきた。
「つい先程、友人から手紙が届きましたので、内容の報告に参りました」
「おぉ! ……なんか怒ってません? 」
「いいえ? ぜんぜん? 」
ニコニコしているのにダンさんが何故か青筋立てながら歩いてきてるではありゃあしませんか、
「”今アスランの王都で盛大に接待されてるから一週間まて”だとよぉ……あの野郎」
「ダン様、ダン様、口調! 口調が荒ぶってます! ニッキー様の前ですよ」
「おっと失礼、おほんおほん、どうやら友人がこちらに来るにはもう少し時間がかかるようでしてははは……つかえねえな」
ぐしゃぐしゃの紙切れを握りしめてピキピキしているダンさんの後ろでメルディアさんがオロオロしている。
「エウァルドさん、エウァルドさん、ダンさんってたまにお口が悪くなりますよね、面白い」
「特段止められてないから言うが、この部屋以外はかなり荒々しいぞダン殿は」
「エウァルド君、ニッキー様の教育に悪いことは控えて頂きたい 」
「それ遠回しに自分の事教育に悪いって言って、いいえぇ?? 完璧従者なダン様素敵だな~?! って! えぇ! 」
なんか面白そうなことしてるなぁ。
ダンさんの後ろ向いてメルディアさん相手にずももって重たいオーラ出してるよ。
「はぁ……、公爵に怯えてまともにニッキー様の前に来てなかった人にとやかく言われる筋合いは無いですねえ、てことではい、報告」
「はい! ではまずはニッキー様! 街に行ったときのお土産です! 」
「おお? お? 」
「ふむ、大丈夫だな、」
ダンさんの掛け声的な言葉に弾かれるように笑顔のメルディアさんが前に出てきて、手乗りサイズの紙袋をエウァルドさんが中身を確認して渡してくれた。
「ありがとうございます、どれどれ……お? おぉ、首飾りだ」
ゆっくりと袋からだしたそれは綺麗な綺麗なペンダント。
銅色のチェーンと翡翠色のひし形で、窓からの光に反射してキラキラと光って見える。
「月に一度の市を覗いた際にニッキー様に似合うかもと思いまして! 良ければつけて、いえ側に置いてくれたら嬉しいなーなんて」
「とても嬉しいです、大事にしますね」
「やったー! 」
緑色、翡翠色のペンダント、贈り物は、大事にしたい、すぐ手に取れる場所に置いて眺めたい。
「それでですね! ニッキー様さえ良ければ今度 「そこまで」 あらやだ」
「メルディア、他に報告することは? 」
「あ、はい、えーっと、あっ、そういえば街中をのんびり散歩してたらやけに気配消して歩いてる人が何人かいて不審だな~と思いました」
「成程、それて? 」
そういえば、メルディアさんあんまり見ないなと思ってたら街とかに行くのね。
「? 以上です」
「………後で私の執務室に来るように、お説教です」
「え!? なんで!? 」
「なんでじゃありません、何年公爵家の侍女をしているんですが貴女は、これから大事な話をしますので少し下がって……いえ、調理室にケーキがあるので持ってきてください」
「かしこまりましたー」
心底面倒そうな顔のメルディアさんが廊下に向かってく背中を見送って視線をダンさんに戻せば、ダンさんは近くの椅子に腰掛けて真剣な顔で僕を見ていた。
「つかえないご友人を待っていると年単位かかりそうなので予定変更です」
「……なるほど? 」
「まずは知識の浅い私から見て分かる、ニッキー様の異変や不可解な点をご指摘します、よろしいですか?」
「えーっと、少しだけお待ちを、真面目な体制になります」
「手伝おう」
こんなお茶とお菓子片手に聞いてお話じゃない気がする。
気がする? なんか変な言葉だな。
「いえ、そのままで大丈夫です、形式など結構、ただひとつお願いしたいのは、私の゙この言葉をできるだけ覚えていて頂きたい」
ニコリともせず、怒った顔でもなく、真剣な顔で。
「これは貶す意味でも嘲笑する意味でもないことを前提に聞いて欲しい……恐らく貴方様の中身の何かがズレて歪んで、混ざっている」
まってまって、もう少しで実感ができる、きちんと思考ができる。
頭の中でダンさんの言葉を二回三回反芻して。
よし。
「……どういうことです? 」
「精神や記憶の゙領域になり専門外ではありますが、素人目でもわかるのです、時折ニッキー様は別人のような顔をしている」
「べつじん」
それは、どういうことだろうか。
「それに記憶が無いというのに月の獅子やこの国の歴史に関しては神官達のように詳しく勉学や会話には支障はない、なのに”どこで”覚えたか”どのように”それらを培ったかがわからない、そうですね? 」
「……たしかに? 」
確信を持った声に首を傾げて、考える、考える。
………、わからない。
「然るにニッキー様は”思い出”が欠落している」
「おもいで」
「そも、何故貴方様が”あの”部屋で満身創痍になり記憶を失っていたのかすらわかっていない」
「それは、僕も分かってないです、そういえばそう、そうてす、なんであの部屋にいたのか分かってないですね」
「ええ、こればかりは専門家をお呼びして調べなければ、ならねえのですが……先程伝えた通り彼はもうしばらくしないときやがらねえので」
「また口調が乱暴になってますよダン様、あとこちら、警備の方たちの視線を奪ってたケーキでーす」
「おっといけない、そちらに置いといてください」
ダンさんの口調は乱暴なのは全然いいのだけど、いいのだけど。
分からないが増えただけでは……?
つまりは、なんだ? 思い出が無くて、僕はなんかズレていて何か変なのが混じって? うん?
「改めて聞きたいことがある」
「おやエウァルド君、なんでしょうか」
「”あの”部屋とはそもそもなんなんだ? 」
「……それも全くわかってないんですよねえ」
”あの”部屋。
それはわかる。
「そうか、謎ばかりだな」
「あ、えっとエウァルドさん、”あの”部屋が何なのかはわかります……たぶん」
「ほう」
「詳しく」
おっと、きつい視線が一心だよ、恥ずかしい。
……そういうことじゃないか、うん。
「なんでできたのかは知りませんがあそこはですね、クロトゥラン家の長男が最後に研究する場所、です」
ディフラカンから移した病の研究を命が尽きるギリギリまで、心ゆくまでする、クロトゥラン家の長男の゙ためだけの部屋。
たくさんたくさん研究をして、たくさんたくさん休んで、痛みに耐えながら、苦しみに耐えながら乱暴に、切実に、楽しく。
たくさんたくさんメモしたものを本棚に収めて、ベッドに眠る。
ただそれだけの部屋。
その日も変わらず、窓辺に椅子をひいて日向ぼっこしながらお茶とお菓子に舌鼓みをうって……なんとも自堕落な生活をしていた。
「お寛ぎのところ失礼致します、少しよろしいですか? 」
「大丈夫ですー」
おやつの時間、十枚目のクッキーに手を伸ばしたときに、扉のノックと共にダンさんがやってきた。
「つい先程、友人から手紙が届きましたので、内容の報告に参りました」
「おぉ! ……なんか怒ってません? 」
「いいえ? ぜんぜん? 」
ニコニコしているのにダンさんが何故か青筋立てながら歩いてきてるではありゃあしませんか、
「”今アスランの王都で盛大に接待されてるから一週間まて”だとよぉ……あの野郎」
「ダン様、ダン様、口調! 口調が荒ぶってます! ニッキー様の前ですよ」
「おっと失礼、おほんおほん、どうやら友人がこちらに来るにはもう少し時間がかかるようでしてははは……つかえねえな」
ぐしゃぐしゃの紙切れを握りしめてピキピキしているダンさんの後ろでメルディアさんがオロオロしている。
「エウァルドさん、エウァルドさん、ダンさんってたまにお口が悪くなりますよね、面白い」
「特段止められてないから言うが、この部屋以外はかなり荒々しいぞダン殿は」
「エウァルド君、ニッキー様の教育に悪いことは控えて頂きたい 」
「それ遠回しに自分の事教育に悪いって言って、いいえぇ?? 完璧従者なダン様素敵だな~?! って! えぇ! 」
なんか面白そうなことしてるなぁ。
ダンさんの後ろ向いてメルディアさん相手にずももって重たいオーラ出してるよ。
「はぁ……、公爵に怯えてまともにニッキー様の前に来てなかった人にとやかく言われる筋合いは無いですねえ、てことではい、報告」
「はい! ではまずはニッキー様! 街に行ったときのお土産です! 」
「おお? お? 」
「ふむ、大丈夫だな、」
ダンさんの掛け声的な言葉に弾かれるように笑顔のメルディアさんが前に出てきて、手乗りサイズの紙袋をエウァルドさんが中身を確認して渡してくれた。
「ありがとうございます、どれどれ……お? おぉ、首飾りだ」
ゆっくりと袋からだしたそれは綺麗な綺麗なペンダント。
銅色のチェーンと翡翠色のひし形で、窓からの光に反射してキラキラと光って見える。
「月に一度の市を覗いた際にニッキー様に似合うかもと思いまして! 良ければつけて、いえ側に置いてくれたら嬉しいなーなんて」
「とても嬉しいです、大事にしますね」
「やったー! 」
緑色、翡翠色のペンダント、贈り物は、大事にしたい、すぐ手に取れる場所に置いて眺めたい。
「それでですね! ニッキー様さえ良ければ今度 「そこまで」 あらやだ」
「メルディア、他に報告することは? 」
「あ、はい、えーっと、あっ、そういえば街中をのんびり散歩してたらやけに気配消して歩いてる人が何人かいて不審だな~と思いました」
「成程、それて? 」
そういえば、メルディアさんあんまり見ないなと思ってたら街とかに行くのね。
「? 以上です」
「………後で私の執務室に来るように、お説教です」
「え!? なんで!? 」
「なんでじゃありません、何年公爵家の侍女をしているんですが貴女は、これから大事な話をしますので少し下がって……いえ、調理室にケーキがあるので持ってきてください」
「かしこまりましたー」
心底面倒そうな顔のメルディアさんが廊下に向かってく背中を見送って視線をダンさんに戻せば、ダンさんは近くの椅子に腰掛けて真剣な顔で僕を見ていた。
「つかえないご友人を待っていると年単位かかりそうなので予定変更です」
「……なるほど? 」
「まずは知識の浅い私から見て分かる、ニッキー様の異変や不可解な点をご指摘します、よろしいですか?」
「えーっと、少しだけお待ちを、真面目な体制になります」
「手伝おう」
こんなお茶とお菓子片手に聞いてお話じゃない気がする。
気がする? なんか変な言葉だな。
「いえ、そのままで大丈夫です、形式など結構、ただひとつお願いしたいのは、私の゙この言葉をできるだけ覚えていて頂きたい」
ニコリともせず、怒った顔でもなく、真剣な顔で。
「これは貶す意味でも嘲笑する意味でもないことを前提に聞いて欲しい……恐らく貴方様の中身の何かがズレて歪んで、混ざっている」
まってまって、もう少しで実感ができる、きちんと思考ができる。
頭の中でダンさんの言葉を二回三回反芻して。
よし。
「……どういうことです? 」
「精神や記憶の゙領域になり専門外ではありますが、素人目でもわかるのです、時折ニッキー様は別人のような顔をしている」
「べつじん」
それは、どういうことだろうか。
「それに記憶が無いというのに月の獅子やこの国の歴史に関しては神官達のように詳しく勉学や会話には支障はない、なのに”どこで”覚えたか”どのように”それらを培ったかがわからない、そうですね? 」
「……たしかに? 」
確信を持った声に首を傾げて、考える、考える。
………、わからない。
「然るにニッキー様は”思い出”が欠落している」
「おもいで」
「そも、何故貴方様が”あの”部屋で満身創痍になり記憶を失っていたのかすらわかっていない」
「それは、僕も分かってないです、そういえばそう、そうてす、なんであの部屋にいたのか分かってないですね」
「ええ、こればかりは専門家をお呼びして調べなければ、ならねえのですが……先程伝えた通り彼はもうしばらくしないときやがらねえので」
「また口調が乱暴になってますよダン様、あとこちら、警備の方たちの視線を奪ってたケーキでーす」
「おっといけない、そちらに置いといてください」
ダンさんの口調は乱暴なのは全然いいのだけど、いいのだけど。
分からないが増えただけでは……?
つまりは、なんだ? 思い出が無くて、僕はなんかズレていて何か変なのが混じって? うん?
「改めて聞きたいことがある」
「おやエウァルド君、なんでしょうか」
「”あの”部屋とはそもそもなんなんだ? 」
「……それも全くわかってないんですよねえ」
”あの”部屋。
それはわかる。
「そうか、謎ばかりだな」
「あ、えっとエウァルドさん、”あの”部屋が何なのかはわかります……たぶん」
「ほう」
「詳しく」
おっと、きつい視線が一心だよ、恥ずかしい。
……そういうことじゃないか、うん。
「なんでできたのかは知りませんがあそこはですね、クロトゥラン家の長男が最後に研究する場所、です」
ディフラカンから移した病の研究を命が尽きるギリギリまで、心ゆくまでする、クロトゥラン家の長男の゙ためだけの部屋。
たくさんたくさん研究をして、たくさんたくさん休んで、痛みに耐えながら、苦しみに耐えながら乱暴に、切実に、楽しく。
たくさんたくさんメモしたものを本棚に収めて、ベッドに眠る。
ただそれだけの部屋。
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