燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

断章 騎士の暖かな記憶の結論

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硬い人生であることは理解している、つまらない男だとも、そうだとも、だがそれがどうした、俺は、俺は。


――エウァルド・ディウエクチアという男は騎士にならなければいけない。

深い意味はない、何もない。

ただディウエクチアという名の家に生まれたから、親に言われたからという幼稚なもの、いや、当然の理由であるのだから。

どんな時でも俺は騎士になるための事を、ただ騎士になるためにすべてを……いや、それを言う資格は俺にはない。

ただ、積み重ねただけだ、鍛錬を。

月の獅子に愛された国、アスラン。

獅子に見守られていたとしても、戦いからは逃れられない、厄災からは逃れられない。

故にこそ、ディウエクチアは武を磨く。

騎士の基本を、戦いの基本を、戦場で生き抜く術を、あらゆる武を身につけるために国内外問わず派遣され、時には重症を負ったが、すべてそういうものかと受け入れた。


何故なのか、それは光を照らすものを見届けたのが者の血筋、ディウエクチア家の人間として生を受けたのなら騎士となる他あるまい。


獅子の祝福 妖精の祝福 大地の祝福、3度の祝福を越え光を照らした王のため、盾として、剣として牙として誰よりも強き存在になれと言葉を重ねられたのならその都度頷き、鍛錬を重ね、実践を重ねた。


祝福とはなんなのか、何故そこまでして騎士にならなければ行けないのか疑問に思わなかったと言えば嘘になるが深くは知る術はなく何より、無理を通すほどの興味がなかった。


物心のついたあの日からずっと、そういうものなのかと受け入れてきた今、必要か不要か、それ以上の思考は必要ないと切り捨てた。

だが。

時間を使い権力を使い、騎士への道を作る過程で学園生活を終えた瞬間あっさりと、求めていた称号を手に入れた。

国王からその証を受け取り父親にお褒めの言葉を頂いた、達成感はなかった。

そうか、なったのかと、それだけだった。


王に忠誠を誓い騎士として恥じぬ働きを見せ、親の期待そのままに年月を重ねていくのだろう。
親が認める存在になるだろう。


ならば問題はないと納得しかけたときにふと、不満げな顔で五個目のケーキを頬張っていた婚約者の顔を思い出し、疑問が生まれた。

騎士になり家の義務を終えたら俺は何をすれば良いのだろうか。

不思議な事に結論は出なかった、わからなかった。

それはなぜか、なぜなのか、


騎士になることに集中していたからか? 違う。

騎士になることしか頭になかったからか? 間違ってはいないがそれだけじゃあない、ようはあれだ、興味が無かっただけなのだ。

観劇も美食も快楽も、騎士に対してさえも、特別な感情とやらは感じなかった、好きなものが無かっただけなのかもしれない。

実に面白みのない男だ、義務が無ければきっと腐っていただろうと我ながら疑ってしまう。

目標とは、好きなことから始まると師匠から聞かされた、俺にはそれがない。

ただの騎士になるのも構わないが、それではつまらないと感じる程度には感情がある。

そうだ、せめて何か、小さなことでもいい次の目標を決めねば……。


結論はあっさりでた、簡単な話だった。 

ニッキー・クロトゥラン。


そうなのだ、騎士になった俺にはもとより、いずれ当主となるあの男が、婚約者がいたのだった。

遠くのものばかり見ようと難しく考えていたがすぐそばに何より大事なものがあったのだと、研究室から出てこない婚約者を見にいった時にふと思った。


月に一度の茶会、月に数回の手紙、生存確認のために観察する程度、時には護衛の兵に差し入れも渡す程度の薄い関係だが、少なくない年月の仲ではあると自負している。

騎士を目指した俺が唯一、それ以外の俺として向き合った男。

ものぐさで短絡的かと思えば臆病で、楽観的で少し根暗な婚約者をずっと、ずっとみてきたのだ。

そうだつまり俺は、その男に……興味を抱いている、生活に、趣味嗜好に関心を持っている。

何より俺とあの男は婚約者、いずれは結ばれるのだ、ならば容易い。

近頃は研究室に篭もりきりで体調が心配だが、普段は寝具に溶けて無くなりそうなほど怠惰なあの男の世話をしたい、共にいれば少なくとも目標が無くなることはない、筈だ、共に居たい、側に寄り添いたい。



こう思考を巡らせてみれば不思議だ、俺は何を悩んでいたのか、婚約者とは伴侶とはすなわち、大事にするものだ。

普段は睡眠だの暴食を優先している婚約者が今は何かを成そうと研究に没頭している、今は差し入れを贈ることしかできないが、ずっと、ずっと、あの男の側にいればいいのだと、一ヶ月の悩みに結論をつけた。

騎士に向けた集中力をそのまま婚約者に、あの男のためにこの人生を捧げる、簡単な話ではないか有意義な話ではないか素晴らしい。

なにより物事を極端に考える俺には婚約者のような男がいないときっと困るはずだ、きっとな。

結論は出た、ならば行動に移すのみである。

あいつが研究を終えた時改めてこの気持ちを伝えよう。

きちんと伝えなければいけない、共にいて欲しいと。

納得させなければならない、俺と共にいる事の有用性を。

婚約者が伴侶となるように、愛人も別居もせぬよう言葉を重ねて、重ねて。



……頷いてくれるだろうか。





どう反応してくれるか、どう丸めこみ文句を言ってくるか、楽しみで仕方がない。


どうか婚約者と末永く暮らせるよう、獅子にでも祈っておこう。






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