82 / 118
本編
断章 騎士の暖かな記憶の結論
しおりを挟む
硬い人生であることは理解している、つまらない男だとも、そうだとも、だがそれがどうした、俺は、俺は。
――エウァルド・ディウエクチアという男は騎士にならなければいけない。
深い意味はない、何もない。
ただディウエクチアという名の家に生まれたから、親に言われたからという幼稚なもの、いや、当然の理由であるのだから。
どんな時でも俺は騎士になるための事を、ただ騎士になるためにすべてを……いや、それを言う資格は俺にはない。
ただ、積み重ねただけだ、鍛錬を。
月の獅子に愛された国、アスラン。
獅子に見守られていたとしても、戦いからは逃れられない、厄災からは逃れられない。
故にこそ、ディウエクチアは武を磨く。
騎士の基本を、戦いの基本を、戦場で生き抜く術を、あらゆる武を身につけるために国内外問わず派遣され、時には重症を負ったが、すべてそういうものかと受け入れた。
何故なのか、それは光を照らすものを見届けたのが者の血筋、ディウエクチア家の人間として生を受けたのなら騎士となる他あるまい。
獅子の祝福 妖精の祝福 大地の祝福、3度の祝福を越え光を照らした王のため、盾として、剣として牙として誰よりも強き存在になれと言葉を重ねられたのならその都度頷き、鍛錬を重ね、実践を重ねた。
祝福とはなんなのか、何故そこまでして騎士にならなければ行けないのか疑問に思わなかったと言えば嘘になるが深くは知る術はなく何より、無理を通すほどの興味がなかった。
物心のついたあの日からずっと、そういうものなのかと受け入れてきた今、必要か不要か、それ以上の思考は必要ないと切り捨てた。
だが。
時間を使い権力を使い、騎士への道を作る過程で学園生活を終えた瞬間あっさりと、求めていた称号を手に入れた。
国王からその証を受け取り父親にお褒めの言葉を頂いた、達成感はなかった。
そうか、なったのかと、それだけだった。
王に忠誠を誓い騎士として恥じぬ働きを見せ、親の期待そのままに年月を重ねていくのだろう。
親が認める存在になるだろう。
ならば問題はないと納得しかけたときにふと、不満げな顔で五個目のケーキを頬張っていた婚約者の顔を思い出し、疑問が生まれた。
騎士になり家の義務を終えたら俺は何をすれば良いのだろうか。
不思議な事に結論は出なかった、わからなかった。
それはなぜか、なぜなのか、
騎士になることに集中していたからか? 違う。
騎士になることしか頭になかったからか? 間違ってはいないがそれだけじゃあない、ようはあれだ、興味が無かっただけなのだ。
観劇も美食も快楽も、騎士に対してさえも、特別な感情とやらは感じなかった、好きなものが無かっただけなのかもしれない。
実に面白みのない男だ、義務が無ければきっと腐っていただろうと我ながら疑ってしまう。
目標とは、好きなことから始まると師匠から聞かされた、俺にはそれがない。
ただの騎士になるのも構わないが、それではつまらないと感じる程度には感情がある。
そうだ、せめて何か、小さなことでもいい次の目標を決めねば……。
結論はあっさりでた、簡単な話だった。
ニッキー・クロトゥラン。
そうなのだ、騎士になった俺にはもとより、いずれ当主となるあの男が、婚約者がいたのだった。
遠くのものばかり見ようと難しく考えていたがすぐそばに何より大事なものがあったのだと、研究室から出てこない婚約者を見にいった時にふと思った。
月に一度の茶会、月に数回の手紙、生存確認のために観察する程度、時には護衛の兵に差し入れも渡す程度の薄い関係だが、少なくない年月の仲ではあると自負している。
騎士を目指した俺が唯一、それ以外の俺として向き合った男。
ものぐさで短絡的かと思えば臆病で、楽観的で少し根暗な婚約者をずっと、ずっとみてきたのだ。
そうだつまり俺は、その男に……興味を抱いている、生活に、趣味嗜好に関心を持っている。
何より俺とあの男は婚約者、いずれは結ばれるのだ、ならば容易い。
近頃は研究室に篭もりきりで体調が心配だが、普段は寝具に溶けて無くなりそうなほど怠惰なあの男の世話をしたい、共にいれば少なくとも目標が無くなることはない、筈だ、共に居たい、側に寄り添いたい。
こう思考を巡らせてみれば不思議だ、俺は何を悩んでいたのか、婚約者とは伴侶とはすなわち、大事にするものだ。
普段は睡眠だの暴食を優先している婚約者が今は何かを成そうと研究に没頭している、今は差し入れを贈ることしかできないが、ずっと、ずっと、あの男の側にいればいいのだと、一ヶ月の悩みに結論をつけた。
騎士に向けた集中力をそのまま婚約者に、あの男のためにこの人生を捧げる、簡単な話ではないか有意義な話ではないか素晴らしい。
なにより物事を極端に考える俺には婚約者のような男がいないときっと困るはずだ、きっとな。
結論は出た、ならば行動に移すのみである。
あいつが研究を終えた時改めてこの気持ちを伝えよう。
きちんと伝えなければいけない、共にいて欲しいと。
納得させなければならない、俺と共にいる事の有用性を。
婚約者が伴侶となるように、愛人も別居もせぬよう言葉を重ねて、重ねて。
……頷いてくれるだろうか。
どう反応してくれるか、どう丸めこみ文句を言ってくるか、楽しみで仕方がない。
どうか婚約者と末永く暮らせるよう、獅子にでも祈っておこう。
――エウァルド・ディウエクチアという男は騎士にならなければいけない。
深い意味はない、何もない。
ただディウエクチアという名の家に生まれたから、親に言われたからという幼稚なもの、いや、当然の理由であるのだから。
どんな時でも俺は騎士になるための事を、ただ騎士になるためにすべてを……いや、それを言う資格は俺にはない。
ただ、積み重ねただけだ、鍛錬を。
月の獅子に愛された国、アスラン。
獅子に見守られていたとしても、戦いからは逃れられない、厄災からは逃れられない。
故にこそ、ディウエクチアは武を磨く。
騎士の基本を、戦いの基本を、戦場で生き抜く術を、あらゆる武を身につけるために国内外問わず派遣され、時には重症を負ったが、すべてそういうものかと受け入れた。
何故なのか、それは光を照らすものを見届けたのが者の血筋、ディウエクチア家の人間として生を受けたのなら騎士となる他あるまい。
獅子の祝福 妖精の祝福 大地の祝福、3度の祝福を越え光を照らした王のため、盾として、剣として牙として誰よりも強き存在になれと言葉を重ねられたのならその都度頷き、鍛錬を重ね、実践を重ねた。
祝福とはなんなのか、何故そこまでして騎士にならなければ行けないのか疑問に思わなかったと言えば嘘になるが深くは知る術はなく何より、無理を通すほどの興味がなかった。
物心のついたあの日からずっと、そういうものなのかと受け入れてきた今、必要か不要か、それ以上の思考は必要ないと切り捨てた。
だが。
時間を使い権力を使い、騎士への道を作る過程で学園生活を終えた瞬間あっさりと、求めていた称号を手に入れた。
国王からその証を受け取り父親にお褒めの言葉を頂いた、達成感はなかった。
そうか、なったのかと、それだけだった。
王に忠誠を誓い騎士として恥じぬ働きを見せ、親の期待そのままに年月を重ねていくのだろう。
親が認める存在になるだろう。
ならば問題はないと納得しかけたときにふと、不満げな顔で五個目のケーキを頬張っていた婚約者の顔を思い出し、疑問が生まれた。
騎士になり家の義務を終えたら俺は何をすれば良いのだろうか。
不思議な事に結論は出なかった、わからなかった。
それはなぜか、なぜなのか、
騎士になることに集中していたからか? 違う。
騎士になることしか頭になかったからか? 間違ってはいないがそれだけじゃあない、ようはあれだ、興味が無かっただけなのだ。
観劇も美食も快楽も、騎士に対してさえも、特別な感情とやらは感じなかった、好きなものが無かっただけなのかもしれない。
実に面白みのない男だ、義務が無ければきっと腐っていただろうと我ながら疑ってしまう。
目標とは、好きなことから始まると師匠から聞かされた、俺にはそれがない。
ただの騎士になるのも構わないが、それではつまらないと感じる程度には感情がある。
そうだ、せめて何か、小さなことでもいい次の目標を決めねば……。
結論はあっさりでた、簡単な話だった。
ニッキー・クロトゥラン。
そうなのだ、騎士になった俺にはもとより、いずれ当主となるあの男が、婚約者がいたのだった。
遠くのものばかり見ようと難しく考えていたがすぐそばに何より大事なものがあったのだと、研究室から出てこない婚約者を見にいった時にふと思った。
月に一度の茶会、月に数回の手紙、生存確認のために観察する程度、時には護衛の兵に差し入れも渡す程度の薄い関係だが、少なくない年月の仲ではあると自負している。
騎士を目指した俺が唯一、それ以外の俺として向き合った男。
ものぐさで短絡的かと思えば臆病で、楽観的で少し根暗な婚約者をずっと、ずっとみてきたのだ。
そうだつまり俺は、その男に……興味を抱いている、生活に、趣味嗜好に関心を持っている。
何より俺とあの男は婚約者、いずれは結ばれるのだ、ならば容易い。
近頃は研究室に篭もりきりで体調が心配だが、普段は寝具に溶けて無くなりそうなほど怠惰なあの男の世話をしたい、共にいれば少なくとも目標が無くなることはない、筈だ、共に居たい、側に寄り添いたい。
こう思考を巡らせてみれば不思議だ、俺は何を悩んでいたのか、婚約者とは伴侶とはすなわち、大事にするものだ。
普段は睡眠だの暴食を優先している婚約者が今は何かを成そうと研究に没頭している、今は差し入れを贈ることしかできないが、ずっと、ずっと、あの男の側にいればいいのだと、一ヶ月の悩みに結論をつけた。
騎士に向けた集中力をそのまま婚約者に、あの男のためにこの人生を捧げる、簡単な話ではないか有意義な話ではないか素晴らしい。
なにより物事を極端に考える俺には婚約者のような男がいないときっと困るはずだ、きっとな。
結論は出た、ならば行動に移すのみである。
あいつが研究を終えた時改めてこの気持ちを伝えよう。
きちんと伝えなければいけない、共にいて欲しいと。
納得させなければならない、俺と共にいる事の有用性を。
婚約者が伴侶となるように、愛人も別居もせぬよう言葉を重ねて、重ねて。
……頷いてくれるだろうか。
どう反応してくれるか、どう丸めこみ文句を言ってくるか、楽しみで仕方がない。
どうか婚約者と末永く暮らせるよう、獅子にでも祈っておこう。
24
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる