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本編
六十五話 エウァルドさん
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「ホットミルクだ、飲め」
「わーい」
お昼寝は少し中断して、枕を背中に回して、甘いミルクに舌鼓を一つ。
「菓子もあるが、今は駄目だな」
「えー」
「昼寝の時間を終えたら存分に食ってくれ、今はミルクで我慢だ」
「……ちぇー」
エウァルドさんはケチだと思う、今だけケチだね、うん。
ミルク美味しい、おかわり、
「それでな、俺とニッキーについてだが、そうだな、端的に言えば、中々順中だとは思っていたぞ」
「なんで過去形なんです? 」
「途中で婚約関係が消滅したからな、お前がいなくなったからな」
「あー、ごめんなさい? 」
「謝るな、謝ることじゃない」
「あら」
「すまん、話を戻す」
「おぉ、はい」
怖い顔をしちゃったエウァルドさんを前にピシッと背筋を伸ばして、意識をしっかりと向けるよう努力する、むん、むん、ミルクのおかわりだ、やったね。
「物心ついたとき、父親からお前には婚約者がいると聞かされた、確か4歳の時だな」
「はやっ」
「ある程度会話ができるようになればついたと判断されるものだ、誕生日のパーティーの時に実践用の剣を与えられ同時に2歳の婚約者がいると父に言われた」
「へぇー……早い以外の感想しか浮かばないですねえ」
「そうか、だがディウエクチアでは当然のことだ、10の歳を超えるまでに基礎的な事を教えられ成人するまでには騎士になることが掟だ」
「……厳しくない? 」
「言われたことをただこなすだけのシンプルな事だ、簡単だろう?」
「そうかなあ 」
「朝日と共に起きて朝食までストレッチとランニング、昼まで休息を挟みつつ肉体強化、体術の訓練、昼食と休息を取ったら夜まで座学と剣術の修行、この繰り返しだ」
「うわやだそれえ」
「もしも息子ができたら同じように育てるつもりだ」
「えぇやだ、やめたほうがいいよそれ、こわ」
「む、ハラスメントとやらはしないように気をつけて休息と遊ぶ時間もつけるが、駄目か? 」
「あーうんー、駄目というか、やだねーそれ」
「ふむ、やはりそうなのか」
なにそのスパルタ生活、やだそれ、自分だったら絶対絶縁されてるやつ。
やはり?
「やはりってどゆいみですかい」
嫌な想像に気を取られていたけども、仏頂面だけどちょっと納得した雰囲気のエウァルドさんにちょっとむかってよく分からない突っかかった気持ちが少し。
「む? いやな、子供の頃のお前にも似たような事を言われたからな」
「……子供の頃? 」
「あぁ、顔合わせをしてから何年か、俺が学園に通う記念だかのパーティーでな、俺の自室で転がってたお前が今みたいに世間話をしてきたことがあるんだ」
「転がってたってなによ」
「ステーキを食べすぎた~て隅で動けなかったところを俺が運んだんだ」
「エウァルドさんの部屋に? 」
「あぁ、安全で招待客も来ない場所と言えば俺の部屋くらいしかないだろうと判断してな、婚約者なら問題なかろう」
「んー……そういうもんなの? 」
「あぁ、そういうものだ、そこで苦しい腹を忘れる話をしてくれ、て頼まれて仕方なく今までの事を話したらな、驚くことにドン引きされた」
「当たり前だとおもう」
「……そういうものか」
「そういうものなの」
「そうか、あの時と似た言葉を聞けて良かった」
「内容的に喜べないねー」
「個人の意見として受け流そう」
「受け流すんかい」
「あぁ」
「………まあいいや」
力強く頷かれちゃあね、何も言う気が起きなくなっちゃうよ。
「納得してくれたようでなによりだ」
「してないよなんも」
「分かっていて言った」
「ああん? 叩くよ、ぺちんと」
「いいぞ」
いけしゃあしゃあとこの人はなにを言っているのだろうか、とニッキー思うわけ、仏頂面で声のトーンも何もかわらんのにね、なんなんだろうね、この気持ち……純粋な、暴力をしたい、気持ち。
ロクでもないな、うん。
「あれですね、エウァルドさん」
「ん? 」
「変な人ですね、エウァルドさん」
「そうだな、お前が言うのならそうだろうな、喜ばしい限りだ」
「えー……良く分かんない」
良く分かんない、本当に、この人がどんな人なのかわからない、でも嫌いの部類ではない、変なの。
「そうか、そのうち分かってくれれば良いと思っている」
「そのうちー? 」
「あぁそのうちだ、この先ずっと、死ぬまで一緒にいるのだから嫌でも分かる」
「え、死ぬまで、は流石にないでしょうよ、いつかはバイバイしま 「しない」 え、ちょちかいちかい」
「死ぬまで、いいや死んでもだ、なにがあっても何をしても必ず、お前の側にいると決めたんだ、俺は」
空になったカップを握る手に被さるエウァルドさんの大きな掌。
それとずっしりとした言葉。
実感は残念ながら無い、けどもこれに至るまで色々とあったのかなーてのは思う。
まぁ、総じて。
「……重たいねえ」
「分かっている」
すんごい重たい。
「わーい」
お昼寝は少し中断して、枕を背中に回して、甘いミルクに舌鼓を一つ。
「菓子もあるが、今は駄目だな」
「えー」
「昼寝の時間を終えたら存分に食ってくれ、今はミルクで我慢だ」
「……ちぇー」
エウァルドさんはケチだと思う、今だけケチだね、うん。
ミルク美味しい、おかわり、
「それでな、俺とニッキーについてだが、そうだな、端的に言えば、中々順中だとは思っていたぞ」
「なんで過去形なんです? 」
「途中で婚約関係が消滅したからな、お前がいなくなったからな」
「あー、ごめんなさい? 」
「謝るな、謝ることじゃない」
「あら」
「すまん、話を戻す」
「おぉ、はい」
怖い顔をしちゃったエウァルドさんを前にピシッと背筋を伸ばして、意識をしっかりと向けるよう努力する、むん、むん、ミルクのおかわりだ、やったね。
「物心ついたとき、父親からお前には婚約者がいると聞かされた、確か4歳の時だな」
「はやっ」
「ある程度会話ができるようになればついたと判断されるものだ、誕生日のパーティーの時に実践用の剣を与えられ同時に2歳の婚約者がいると父に言われた」
「へぇー……早い以外の感想しか浮かばないですねえ」
「そうか、だがディウエクチアでは当然のことだ、10の歳を超えるまでに基礎的な事を教えられ成人するまでには騎士になることが掟だ」
「……厳しくない? 」
「言われたことをただこなすだけのシンプルな事だ、簡単だろう?」
「そうかなあ 」
「朝日と共に起きて朝食までストレッチとランニング、昼まで休息を挟みつつ肉体強化、体術の訓練、昼食と休息を取ったら夜まで座学と剣術の修行、この繰り返しだ」
「うわやだそれえ」
「もしも息子ができたら同じように育てるつもりだ」
「えぇやだ、やめたほうがいいよそれ、こわ」
「む、ハラスメントとやらはしないように気をつけて休息と遊ぶ時間もつけるが、駄目か? 」
「あーうんー、駄目というか、やだねーそれ」
「ふむ、やはりそうなのか」
なにそのスパルタ生活、やだそれ、自分だったら絶対絶縁されてるやつ。
やはり?
「やはりってどゆいみですかい」
嫌な想像に気を取られていたけども、仏頂面だけどちょっと納得した雰囲気のエウァルドさんにちょっとむかってよく分からない突っかかった気持ちが少し。
「む? いやな、子供の頃のお前にも似たような事を言われたからな」
「……子供の頃? 」
「あぁ、顔合わせをしてから何年か、俺が学園に通う記念だかのパーティーでな、俺の自室で転がってたお前が今みたいに世間話をしてきたことがあるんだ」
「転がってたってなによ」
「ステーキを食べすぎた~て隅で動けなかったところを俺が運んだんだ」
「エウァルドさんの部屋に? 」
「あぁ、安全で招待客も来ない場所と言えば俺の部屋くらいしかないだろうと判断してな、婚約者なら問題なかろう」
「んー……そういうもんなの? 」
「あぁ、そういうものだ、そこで苦しい腹を忘れる話をしてくれ、て頼まれて仕方なく今までの事を話したらな、驚くことにドン引きされた」
「当たり前だとおもう」
「……そういうものか」
「そういうものなの」
「そうか、あの時と似た言葉を聞けて良かった」
「内容的に喜べないねー」
「個人の意見として受け流そう」
「受け流すんかい」
「あぁ」
「………まあいいや」
力強く頷かれちゃあね、何も言う気が起きなくなっちゃうよ。
「納得してくれたようでなによりだ」
「してないよなんも」
「分かっていて言った」
「ああん? 叩くよ、ぺちんと」
「いいぞ」
いけしゃあしゃあとこの人はなにを言っているのだろうか、とニッキー思うわけ、仏頂面で声のトーンも何もかわらんのにね、なんなんだろうね、この気持ち……純粋な、暴力をしたい、気持ち。
ロクでもないな、うん。
「あれですね、エウァルドさん」
「ん? 」
「変な人ですね、エウァルドさん」
「そうだな、お前が言うのならそうだろうな、喜ばしい限りだ」
「えー……良く分かんない」
良く分かんない、本当に、この人がどんな人なのかわからない、でも嫌いの部類ではない、変なの。
「そうか、そのうち分かってくれれば良いと思っている」
「そのうちー? 」
「あぁそのうちだ、この先ずっと、死ぬまで一緒にいるのだから嫌でも分かる」
「え、死ぬまで、は流石にないでしょうよ、いつかはバイバイしま 「しない」 え、ちょちかいちかい」
「死ぬまで、いいや死んでもだ、なにがあっても何をしても必ず、お前の側にいると決めたんだ、俺は」
空になったカップを握る手に被さるエウァルドさんの大きな掌。
それとずっしりとした言葉。
実感は残念ながら無い、けどもこれに至るまで色々とあったのかなーてのは思う。
まぁ、総じて。
「……重たいねえ」
「分かっている」
すんごい重たい。
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