燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

六十二話 そして帰ってきたのです

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そしてそして、ニッキーおこ、となってから数十秒。

「……つかれました」
「ねえちょっと」
一言か二言、もっとしっかりしておくれ、みたいなニュアンスのことを言ったと思う、多分、それで気持ちが満足してしまった。

「もっと怒られる準備してたんだけど、ぼく」
「つかれましたぁ」
どうやら自分、真面目に怒ることに慣れてなかったみたいで、言いたいことを少し言って、怒った気になりましとぇ。

「……ふう」
「なんか勝手に満足してない? 」
「してますねえ、なんか運動したあとのスッキリ感が気持ちいいです、定期的にしたい」
「意味がわからないしやめといたほうがいいよお、それ」
「ええー」
「……まあいいか、たのしそうだし」
「んん? 楽しそうですか?」
「うん、ちょっと笑ってるし」
「……ふむ? 」
「ほら、手を当ててごらん。、にっとしてる」
促されるままに頬に指を当てて、ちょっとびっくりする。

「……あらまほんとだ」
「でしょー? 気づかなかった?」
「ですねえ」
僕としては、主観的なあれとしてはずっと、無表情というか、あんまり顔の筋肉使ってなかったつもりだったけど、そうでもないみたい。

「んん~~、前のニッキーは仕方ないにしても、今のニッキーはもっとこう、エンジョイしてほしいなとおじさん思うわけ」
「はあ」
僕は、自己分析が趣味である、じゃなくて日課になっているようだ。

なぜかと誰かに聞かれたら、どうだろ、一人で考えることが多かったから……とか。

だからいざだれかと会話をするのは多分、ちょっと苦手かもしれない。


「あ、興味ない時のへんじ! 」
「ないっすねー」
くわわっと表情豊かなトカゲさんをぼーっと眺めて、自分と比べてみたら一目瞭然、僕はもっと明るくしなきゃかもと思う、かなりめんどくさい。

己とはなんなのかと自問自答なんて始めた日には部屋の隅でうじうじ張り付くに決まっている、つまりは陰気なせいか……待った、こういうのがいけないのよ、却下却下、きゃーっか。

「んん~? まーた自分の世界にはいってるね? 」
「癖になっちゃってるみたいで、いつか治します」
「そっか、まあ治す気持ちがあるならいいや、よっこいしょ、と、んんー、と」
カーペットから腰を浮かせて、トカゲのおじさんが伸びをする。

「いいかいニッキー」
「おっきいですね、頑張れば天井まで届きそう」
「話を聞きなさい、おじさんはね、ニッキーには幸せになって欲しいの」
「……具体的には? 」
「もっと明るく、もっと楽しく、もっと、もっと生きて欲しいんだよ、たーくさん生きて、たーくさんの経験をして、きちんと寿命で死になさい」
天井に伸ばしていた手がポスンと僕の頭にのって、ちょっとだけいかついトカゲの口がニッコリと笑う。

「……返答に困るなあ」
「あらそうかい? ごめんね、どうしても死人の目線になっちゃうの」
「じゃあ返事は保留で」
「ああうん、それで良いよ、覚えていて欲しいだけだから」
しっかりと返事をしなきゃいけないのだけど、あやふやな事しか分からない、つまりは答えられないと、その思考に決定をつけた。


「うん、あぁそれとね」
「? 」
グッと、顔に影がかかって、トカゲさんとの距離が近くなる。

「間違っても王族に身を捧げようとしないでね」
「それはいやです」
「え」










「てなことがあったのです」
「あったのですじゃないのだが」
帰ってきたのです、いんや、戻ってきました、僕の部屋。



話を終えて、本を持って、今度こそオッケーとあの部屋をでた瞬間、目の前に真っ暗なものがー、て思った瞬間エウァルドさんにガッチリキャッチされて即回収、からのダッシュでお部屋に返されてベッドに強制的にイン。

あっという間の出来事にニッキーびっくりしちゃいますわ。


「……まったくもって意味がわからん! そも私の兄は体長2メートルのトカゲではない! 私と同じ身長のだらしのない男だ」
「まぁ、客観的に見たらなんじゃそりゃですよねー…… 」
おじさんだらしないんだぁ。

いやまあすんごいざっくり言うと部屋に入ったらでっかいトカゲと遭遇して実のおじさんで色々お話ししてました~だもの、現実味が無さすぎる。


中でのことを話したらこれである。

ちょっと汗をかいて髪の毛乱れてるお父様にお説教みたいな感じで怒られて、いつも穏やかなダンさんまでもが、いまは厳つい顔で腕を組んでいる。

やだ、ダンさん怒ってる、こわい。
「……はあ、まあいい、無事に帰ってきてくれただけよしとする、一応な」
「それは、ありがとうございます? 」
「なんだ、もっと怒ってほしかったのか? 」
「いえいえいえ……あっさりと許されてびっくりはしてます」
怖いことにはかわりない、かわりない、けど理由が理由だし甘んじて受けなきゃ、隙を見てにげたい、うう。


「それはだな……ダン、あれを見せてやれ」
「はい」
「あれ? 」
「お前にくくりつけたロープだ」
部屋の外に歩いていくダンさんを見送ってお義父様を見れば、これまた複雑そうな顔をしていらっしゃる。


「こちらです」
すぐに戻ってきたダンさんの手にはあのロープがあるのだけど、太いロープの先端に綺麗な断面、切られたできていた。

「あー……」
「おまえが部屋に入り、扉を少しだけ開けておこうとしたらな、50人は軽くぶら下げる強度のこれがいとも容易くプツン、だ」
「わたしも楽観視していたようで……いたく後悔しております」
そういえば次元がどうのっておじさん言ってた気がするー。

「きちんと戻ったきてくれて良かった、本当に」
複雑な顔をする二人にちょっと、気持ちはわかるけど共感が微妙にできない、かなしい。


そういえばエウァルドさんはなにやってるんだろう、1人だけ静かだけど……ちょっと横に顔を向けて……。


「うわ」
「なんだ」
「近いっす」
「そうか、構わないな? よし」
「よしじゃあないよ」
ベッドに乗り込んで真横に座ってるよこの人。




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