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本編
五十九話 宙の獅子 底の黒
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突然だが、よくわかんないことになっている。
なぜなのか、ざざん、ざざんと、海の匂いがする……あの寝室の筈なのに。
寝室に入った、トカゲさんにであった、ベッドに座ってお話を聞こうとした。
聞こえるはずもないのに波の音がする
燻る香りが、海なのに? スモークベーコンみたいな、あえ?
「10年かけて自我を作り献身の心を抑え込む、よい心がけだ、だが獅子の力無しじゃ成立しないとはクロトゥランの一族は相も変わらず中途半端だなぁ」
夢でも見ているのか、砂を踏みしめる音がする、海なんてここにはない筈なのに。
いや、部屋にいたよね、ここどこ?
「王のためだけに人生を捧げるその姿勢は評価するがどうしてそう煮え切らない思考なのか、1000年も続けていればこう、いや人間だしなぁ……気に入らんなあ」
苛ついている、悩んでいる、悲観している、俯瞰している。
聞いたことない声がする、心が冷える音がする。
「ああすまん邪魔するつもりじゃあなかったんだ、戻してやるから歓談を続けてくれ」
まって、あなたは誰。
「オレは勝手に楽しませてもらう、せいぜいすべて終わらせてからこい」
ちょっと、誰よあなた。
「ニッキー、ニッキー? どったの? ねむい? 」
「んえ?」
「あ、起きた、よかったー」
頬をつつかれて、きょとんとした顔のトカゲが目の前にいた。
ベッドの端に座る僕と、僕の顔を覗き込むクアルフおじさん。
ここは海じゃない、寝室だ、うん。
「ぼーっとしてたよ? 」
おじさんになんて言おうか、なにがなんだかわかんないな、うん。
「あーえっと、どれくらい固まってました? 」
「3分ちょっとだね、意識が揺らいでたのかな~だめだねここは早くでなきゃ、あぶないあぶない、早く終わらせよう」
自分はなにをしてたのか、そう、そう、クアルフおじさんから話を聞いてて、なんか、良くわかんない声がした、なによあれ。
…………煮え切らないなぁ、うーん。
「話を最初からするよ、この部屋は死者が行くとされる世界に行く、かもしれない場所、僕たちクロトゥランがながいながい時間をかけて、くだらないことを塵のようにゴミのように積み重ねてできた冥府の扉、なのかも、死者しか通さない……かもしれない危ないところなのさ、ここは」
ほう? うんん?
「流石にあやふや過ぎません? 」
「仕方ないじゃないぼくも詳しくは知らないんだから、絶賛調べてる途中なの」
「つっかえないですねぇ」
「うるさいねぇ! これでも進歩した方なんだよお? ? 」
「自慢できねえじゃないてすか爪こっち向けないでください叩きます」
「いたーい! 」
ぴんっととがった爪のついたひとさし指を僕の鼻先にむけたおじさんをひと睨み、ひとたたき。
そしてにこっと笑顔のトカゲさん、結構あやふやことしか言ってないけど不思議な場所なのはわかったね、お礼を言っておこう、
「まあいいや、ちょっと納得しました、ありがとうございます」
「まあいいやってなによ、あまあいいやって、大まかにいうと人間じゃないぼくは良いけど、生きていて、尚且つクロトゥラン長男のニッキーにはここを離れてもらいたいなあーてのがぼくの願い、どう? 分かってくれた? 」
「オッケーです」
「じゃあもうここでる? 近づかない? 」
「それとこれとはまた話が違いますね」
「えー?? なんでぇ 」
「この部屋の事とか調べるためにきましたし、納得してから帰りたいです」
「えぇー、頑固だなあ、やめて手を振り上げないで! め! 」
お父様を説得してダンさんやエウァルドさんに手伝ってもらってやってきたのだからもうやるだけやりたい。
うじうじと分からないことに悩み抜くニッキー君としては収穫の10個20個100個は欲しいのだよ、頭スッキリ気持ちよくして帰りたいね、うん。
「え? おろ? そういえばこの部屋のこと前教えてなかった? ほらぼくが生きてた頃屋敷を案内したじゃない、 覚えてない? 」
「ないですねぇ、そもそも僕に記憶がないっておじさん知ってるでしょ」
「ええー、学習したことは覚えてるはずだよぉー? 」
「わからないですねー、ほんとこう、空っぽなんですよね、ここで目覚めて、外でダンさんメルディアさん達にお世話して貰ってからが僕の記憶なのでー」
「でも会話とか文字は読めるんだよね? 」
「ですねぇ」
「じゃあこの屋敷については」
「覚えてないですねえ」
「なんでぇ? 」
「さあ……」
二人して首を傾げて、はてと疑問を絞りだす。
「そもそもそういえば、そこらへんどうなってるんですかね、覚えてることと覚えてないことがぐちゃぐちゃで……」
「ぐちゃぐちゃじゃないよう、きみの抱えてることはじつはすんごいシンプルなんだよ、なんでそんなことしちゃったのかは分からないけども」
「しんぷる……んー」
「さては変に難しく考えてたね? まあそういうこともあるさやめて叩く準備しないで! 」
割と重要な部分に触れられてぴきっと来たからにまっとするおじさんに殺意が少し、くわーっと口をあけてのけぞって転がりかけたからいいやってなって、ちょっと気持ちが疲れた。
「はあ……話の続きお願いします」
「はーい、部屋のことで、追加、追加……あ、そうだ、これも教えとくね、大事なことだよ」
「やだ、なんか嫌な気がします、却下で」
もし僕が許容できない場合、そうなると……どうなるんだろう、まず泣いて、塞ぎこむかな。
ちょっと考えるとめんどくさいな、あ、これはもしや聞かずにいた方が精神衛生上良い奴では? ニッキー、理解、えらい。
「なんでよ、却下を却下、きいてきいて」
「うえー」
駄目でした、残念、まあ仕方ない。
「さあニッキー、ぼくはどこまで話したかな? 覚えてる? 」
「ここが月と地底につながっていてなんか、どっかに行けるって覚えとけば良いです? 」
「うんうんそんなかんじでいいよー、いつもは普通の部屋なんだけど、満月の日には獅子の住む月の大地に、月の浮かばない夜には地の底に迷い込む……かもしれない不確定な、不安定な空間なのさここは、気味が悪いでしょ? 」
「へえ、いやでも居心地良いと思いますけどね僕、ただの寝室には見えませんし」
「だよねー、ずっと暮らしてたいもん、でもちょっと寝てたら獅子が目の前にいたりするんだよ? おじさんびっくりしちゃう」
「獅子……月の獅子? 」
「そうそう、ぼくとしてはニッキーには会って欲しくないんだよねー」
「なんでです? 」
「いやね、獅子ってめんどくさい構いかたするから、一度行ったら返して貰えるかわからなくってねー」
「めんどくさい? 」
「例えるなら、そうね、子煩悩の父親? 」
「あー……」
お父様みたいなやつ?
「わかるー? ベッドでごろごろ寝て起きたら目の前にでっかい獅子がいて、1ヶ月くらいなでくり回されて疲れちゃうよね」
「ほへー」
「あーやだやだ、なんかこの屋敷も獅子が作ったらしいし、見守るって本に書かれてたのに普通に手をだすじゃないの」
「へぇー」
屋敷を、獅子が……ねぇ。
むむむ。
「へんなの」
「へんだねー」
赤い線の模様が描かれた壁、ぼんやりと明るい灯り、ふかふかしたカーペットと大きなベッドと、最後に本棚、これも獅子が作ったのかしら。
でも僕は正直獅子のことは良くわからない、そういえば夢の中でもおじさんは獅子がどうのって……。
「危なくはないんです? 獅子は」
「うん、優しいよ、すごく 寿命きたら会わせたいけど、生きてるうちはだめ、地上で幸せになって欲しいんだよ、僕は」
「うーん」
「だから、何度も言ってるけどぼくはね、この部屋にはきちゃいやなの、ニッキーは折角生き残ったんだから楽しんでから来て、おねがい」
まっすぐとした眼で、しっかりとした眼で言われると、弱い、な。
みんな、みんな、まっすぐに僕を見て、似たようなことを言う、僕を案じたことを言う。
弱る……困るなぁ、こまるなあ……なんでこまる? その方が良いって分かってるのに、なんで、なんで……。
「納得はしてないですが……わかりました」
「よーし、じゃあ最後に本棚についてだね、ええとねー 「ん? 」 ん? どったの? 」
いとりあえずその考えは置いとこう、考えるのはまた今度、今は、今は、気がついてしまった矛盾に気がついた、気づいちゃった。
「ええ、とおじさん」
「なんだい? 」
「この部屋にいると、どっかに飛ばされるんですよね? 」
「うん、そうだよ、月に二回、扉が開くの」
「ですよね……」
うんうん、うん?
「その考えだとちょっとおかしいかもです」
「んん? なにがだい? 」
「僕がここで目が覚めたとき、少なくとも何ヵ月かはベッドの上にいたと思うんですけど、どこかに行ったとかそういうのはなかった筈なんですよね……あれなんですかね? 」
「あ~なるほどそうなるとうんうん……え? なんだいそれ 」
「ん? 」
何回か頷いたおじさん、口開いて固まっている。
「あれなんか理由みたいのがある的な……もしかして、なかったり? 」
「ごめんわかんないそれ、こわ」
「んえ? 」
「起きてすぐに部屋の外に行ったと思ってたけどニッキーきみもしかしてここで寝てたの? ずっと? 」
「立ち上がって最低限動けるまでずっとです」
「なんで? 」
「いや体ボロボロで動けなかったしぃ……」
「そ、そっか……そりゃそうだけど、え、なんでおかしなことになってないの、月に行ってたら獅子が吠えてるし底にいるならここにいないし……」
「わかんないから聞いてるんですけど? 」
「ぼくもわかんないね? 」
「ダメじゃないですか」
「だねぇ、えぇー? 」
お互い首を傾げて、むむむと悩んで……うん。
「これ多分、悩むの無駄ですかね」
「だね、一旦この問題は置いとこう、それはこっちで調べとくよ」
「わっかりましたー、お願いします」
「きみはとりあえず楽しいことを、する、オーケー? 」
「オーケー」
にっこりサムズアップしたおじさんにとりあえずサムズアップをお返し、けっ。
納得したことより良くわかんないことが増えたのはどゆことなのよ。
んんー……頭の後ろがむずむずするなーやだなー……うえー。
そろそろまあいいかって流すのも限界よー?
……うん、限界かも。
なぜなのか、ざざん、ざざんと、海の匂いがする……あの寝室の筈なのに。
寝室に入った、トカゲさんにであった、ベッドに座ってお話を聞こうとした。
聞こえるはずもないのに波の音がする
燻る香りが、海なのに? スモークベーコンみたいな、あえ?
「10年かけて自我を作り献身の心を抑え込む、よい心がけだ、だが獅子の力無しじゃ成立しないとはクロトゥランの一族は相も変わらず中途半端だなぁ」
夢でも見ているのか、砂を踏みしめる音がする、海なんてここにはない筈なのに。
いや、部屋にいたよね、ここどこ?
「王のためだけに人生を捧げるその姿勢は評価するがどうしてそう煮え切らない思考なのか、1000年も続けていればこう、いや人間だしなぁ……気に入らんなあ」
苛ついている、悩んでいる、悲観している、俯瞰している。
聞いたことない声がする、心が冷える音がする。
「ああすまん邪魔するつもりじゃあなかったんだ、戻してやるから歓談を続けてくれ」
まって、あなたは誰。
「オレは勝手に楽しませてもらう、せいぜいすべて終わらせてからこい」
ちょっと、誰よあなた。
「ニッキー、ニッキー? どったの? ねむい? 」
「んえ?」
「あ、起きた、よかったー」
頬をつつかれて、きょとんとした顔のトカゲが目の前にいた。
ベッドの端に座る僕と、僕の顔を覗き込むクアルフおじさん。
ここは海じゃない、寝室だ、うん。
「ぼーっとしてたよ? 」
おじさんになんて言おうか、なにがなんだかわかんないな、うん。
「あーえっと、どれくらい固まってました? 」
「3分ちょっとだね、意識が揺らいでたのかな~だめだねここは早くでなきゃ、あぶないあぶない、早く終わらせよう」
自分はなにをしてたのか、そう、そう、クアルフおじさんから話を聞いてて、なんか、良くわかんない声がした、なによあれ。
…………煮え切らないなぁ、うーん。
「話を最初からするよ、この部屋は死者が行くとされる世界に行く、かもしれない場所、僕たちクロトゥランがながいながい時間をかけて、くだらないことを塵のようにゴミのように積み重ねてできた冥府の扉、なのかも、死者しか通さない……かもしれない危ないところなのさ、ここは」
ほう? うんん?
「流石にあやふや過ぎません? 」
「仕方ないじゃないぼくも詳しくは知らないんだから、絶賛調べてる途中なの」
「つっかえないですねぇ」
「うるさいねぇ! これでも進歩した方なんだよお? ? 」
「自慢できねえじゃないてすか爪こっち向けないでください叩きます」
「いたーい! 」
ぴんっととがった爪のついたひとさし指を僕の鼻先にむけたおじさんをひと睨み、ひとたたき。
そしてにこっと笑顔のトカゲさん、結構あやふやことしか言ってないけど不思議な場所なのはわかったね、お礼を言っておこう、
「まあいいや、ちょっと納得しました、ありがとうございます」
「まあいいやってなによ、あまあいいやって、大まかにいうと人間じゃないぼくは良いけど、生きていて、尚且つクロトゥラン長男のニッキーにはここを離れてもらいたいなあーてのがぼくの願い、どう? 分かってくれた? 」
「オッケーです」
「じゃあもうここでる? 近づかない? 」
「それとこれとはまた話が違いますね」
「えー?? なんでぇ 」
「この部屋の事とか調べるためにきましたし、納得してから帰りたいです」
「えぇー、頑固だなあ、やめて手を振り上げないで! め! 」
お父様を説得してダンさんやエウァルドさんに手伝ってもらってやってきたのだからもうやるだけやりたい。
うじうじと分からないことに悩み抜くニッキー君としては収穫の10個20個100個は欲しいのだよ、頭スッキリ気持ちよくして帰りたいね、うん。
「え? おろ? そういえばこの部屋のこと前教えてなかった? ほらぼくが生きてた頃屋敷を案内したじゃない、 覚えてない? 」
「ないですねぇ、そもそも僕に記憶がないっておじさん知ってるでしょ」
「ええー、学習したことは覚えてるはずだよぉー? 」
「わからないですねー、ほんとこう、空っぽなんですよね、ここで目覚めて、外でダンさんメルディアさん達にお世話して貰ってからが僕の記憶なのでー」
「でも会話とか文字は読めるんだよね? 」
「ですねぇ」
「じゃあこの屋敷については」
「覚えてないですねえ」
「なんでぇ? 」
「さあ……」
二人して首を傾げて、はてと疑問を絞りだす。
「そもそもそういえば、そこらへんどうなってるんですかね、覚えてることと覚えてないことがぐちゃぐちゃで……」
「ぐちゃぐちゃじゃないよう、きみの抱えてることはじつはすんごいシンプルなんだよ、なんでそんなことしちゃったのかは分からないけども」
「しんぷる……んー」
「さては変に難しく考えてたね? まあそういうこともあるさやめて叩く準備しないで! 」
割と重要な部分に触れられてぴきっと来たからにまっとするおじさんに殺意が少し、くわーっと口をあけてのけぞって転がりかけたからいいやってなって、ちょっと気持ちが疲れた。
「はあ……話の続きお願いします」
「はーい、部屋のことで、追加、追加……あ、そうだ、これも教えとくね、大事なことだよ」
「やだ、なんか嫌な気がします、却下で」
もし僕が許容できない場合、そうなると……どうなるんだろう、まず泣いて、塞ぎこむかな。
ちょっと考えるとめんどくさいな、あ、これはもしや聞かずにいた方が精神衛生上良い奴では? ニッキー、理解、えらい。
「なんでよ、却下を却下、きいてきいて」
「うえー」
駄目でした、残念、まあ仕方ない。
「さあニッキー、ぼくはどこまで話したかな? 覚えてる? 」
「ここが月と地底につながっていてなんか、どっかに行けるって覚えとけば良いです? 」
「うんうんそんなかんじでいいよー、いつもは普通の部屋なんだけど、満月の日には獅子の住む月の大地に、月の浮かばない夜には地の底に迷い込む……かもしれない不確定な、不安定な空間なのさここは、気味が悪いでしょ? 」
「へえ、いやでも居心地良いと思いますけどね僕、ただの寝室には見えませんし」
「だよねー、ずっと暮らしてたいもん、でもちょっと寝てたら獅子が目の前にいたりするんだよ? おじさんびっくりしちゃう」
「獅子……月の獅子? 」
「そうそう、ぼくとしてはニッキーには会って欲しくないんだよねー」
「なんでです? 」
「いやね、獅子ってめんどくさい構いかたするから、一度行ったら返して貰えるかわからなくってねー」
「めんどくさい? 」
「例えるなら、そうね、子煩悩の父親? 」
「あー……」
お父様みたいなやつ?
「わかるー? ベッドでごろごろ寝て起きたら目の前にでっかい獅子がいて、1ヶ月くらいなでくり回されて疲れちゃうよね」
「ほへー」
「あーやだやだ、なんかこの屋敷も獅子が作ったらしいし、見守るって本に書かれてたのに普通に手をだすじゃないの」
「へぇー」
屋敷を、獅子が……ねぇ。
むむむ。
「へんなの」
「へんだねー」
赤い線の模様が描かれた壁、ぼんやりと明るい灯り、ふかふかしたカーペットと大きなベッドと、最後に本棚、これも獅子が作ったのかしら。
でも僕は正直獅子のことは良くわからない、そういえば夢の中でもおじさんは獅子がどうのって……。
「危なくはないんです? 獅子は」
「うん、優しいよ、すごく 寿命きたら会わせたいけど、生きてるうちはだめ、地上で幸せになって欲しいんだよ、僕は」
「うーん」
「だから、何度も言ってるけどぼくはね、この部屋にはきちゃいやなの、ニッキーは折角生き残ったんだから楽しんでから来て、おねがい」
まっすぐとした眼で、しっかりとした眼で言われると、弱い、な。
みんな、みんな、まっすぐに僕を見て、似たようなことを言う、僕を案じたことを言う。
弱る……困るなぁ、こまるなあ……なんでこまる? その方が良いって分かってるのに、なんで、なんで……。
「納得はしてないですが……わかりました」
「よーし、じゃあ最後に本棚についてだね、ええとねー 「ん? 」 ん? どったの? 」
いとりあえずその考えは置いとこう、考えるのはまた今度、今は、今は、気がついてしまった矛盾に気がついた、気づいちゃった。
「ええ、とおじさん」
「なんだい? 」
「この部屋にいると、どっかに飛ばされるんですよね? 」
「うん、そうだよ、月に二回、扉が開くの」
「ですよね……」
うんうん、うん?
「その考えだとちょっとおかしいかもです」
「んん? なにがだい? 」
「僕がここで目が覚めたとき、少なくとも何ヵ月かはベッドの上にいたと思うんですけど、どこかに行ったとかそういうのはなかった筈なんですよね……あれなんですかね? 」
「あ~なるほどそうなるとうんうん……え? なんだいそれ 」
「ん? 」
何回か頷いたおじさん、口開いて固まっている。
「あれなんか理由みたいのがある的な……もしかして、なかったり? 」
「ごめんわかんないそれ、こわ」
「んえ? 」
「起きてすぐに部屋の外に行ったと思ってたけどニッキーきみもしかしてここで寝てたの? ずっと? 」
「立ち上がって最低限動けるまでずっとです」
「なんで? 」
「いや体ボロボロで動けなかったしぃ……」
「そ、そっか……そりゃそうだけど、え、なんでおかしなことになってないの、月に行ってたら獅子が吠えてるし底にいるならここにいないし……」
「わかんないから聞いてるんですけど? 」
「ぼくもわかんないね? 」
「ダメじゃないですか」
「だねぇ、えぇー? 」
お互い首を傾げて、むむむと悩んで……うん。
「これ多分、悩むの無駄ですかね」
「だね、一旦この問題は置いとこう、それはこっちで調べとくよ」
「わっかりましたー、お願いします」
「きみはとりあえず楽しいことを、する、オーケー? 」
「オーケー」
にっこりサムズアップしたおじさんにとりあえずサムズアップをお返し、けっ。
納得したことより良くわかんないことが増えたのはどゆことなのよ。
んんー……頭の後ろがむずむずするなーやだなー……うえー。
そろそろまあいいかって流すのも限界よー?
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小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
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