燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

五十八話 竜骸病 招かれざる者

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「奇遇だね……とでも言うと思ったかい?! なにここにきてるの! こら! 」

部屋をじっくり見回したかったなあ、としみじみ思う。

そう、目の前の存在が腰に手を当てて怒るさまをぼーと見ながら思うニッキーなのでした。


「いい?ニッキー、この部屋はね、上にも下にもつながってるちょーっと不安定なところなんだよ? あとは死ぬだけのクロトゥランだけがきていいの、ニッキーはあと100年は生きるんだから来ちゃだめなの! わかる? 聞いてるニッキー? 」

こう、じっくりとまではいかないまでも部屋を見て、本棚を調べて気になった本を見せてお父様にっこり、にっこりしたお父様が美味しいものつくって僕もにっこり、てやつをちょーっと考えてなくもなかったような。

そうだ、お父様今日どっか行くんじゃん、悲しい……。

はい、現実逃避してました。

「ねーねー、ニッキー、ニッキ~?! きいてるー?! 」
「んー、聞いてない、ねー」
「うそお~~?!」
まあ、その、こんな独白じみたことしてるときって大体僕ってね、理解しにくいなーとか、わかりたくないなーとか思うの、すごい身もふたもない事言えばどうでもいい、考えたくないって時にしてるんだけど、これはねひとつめとふたつめ、理解しにくいし分かりたくないかもー? てやつ、だって、ねえ。
 
「……ちょっとうるさい」
「はあ~~? 失礼じゃなーい?! 」
どんなにうきうきわくわくしてても目の前にまさか、まさかまさかでっかいトカゲがいたら現実逃避したくもなるかもだよね、うん。

「事実だしい」
「失礼だった! すごい失礼だったね! おじさんショック! 」
「うるちゃいねぇ」
だって、トカゲだよ? トカゲ。

でっかいトカゲが二足歩行してギャーギャーしてるんだよ? いやだあ……あとうるさいし。

「偉大なおじさんを前になんてこというのこの子は! 」
「だって僕記憶ないし、知らないし」
「あ! そうだったね! かなし! 」
声はあの夢の通りちょっと高めの男の声で、違うのはこのやかましさと、見た目が思ってたやつと違ったかんじ。

首とか、頭とか、うろこみたいなとことかも含めて真っ青で茶色いコートを羽織ってて、目がちょっとつぶらで、口をくわってしてる、あとは、そうだね、このトカゲはぞんざいに扱っても良いって本能が言っている。

「て、ちがうちがうちがう、騒ぐためにきたんじゃあないの、お話をしようニッキー、実る会話、大事! 」
「ああ、はい、どうぞ? 」
「塩対応! まあいいや、じゃーベッドに座ってね、疲れるからね、大事だよ」
「はいー」、
「うんうん、いい子いい子、あ、からだも良い感じだね、ここでたときとは大違いだね、さすがルドルフだね、うんうん、どお? 現んきー?」
「よくわかんないですー」
「え!? 」
独特な喋り方だなーと思いつつ、ちょっと離れた所のふかふかのベッドにいって腰をおろすと、にこにこしたトカゲさんがのしのしやってきて顔を目の前にもってきて更ににっこり、変なの。

爬虫類、トカゲ。

ああいうのは嫌いじゃあない、むしろ好きだし可愛いとも思う、けどそう思えるのは大体手のひらサイズだから、小さいから可愛い、て思えるのよ。

小さいから目がつぶらだし、小さいから手とか足とかが可愛く思える、つまりだ、目の前の二メートル弱でうろうろしてるトカゲは控えめに言って可愛くない、むしろ恐怖の対象になりえるけど、あら不思議、何故か親近感がする、なんだこいつってぺちぺち叩きたくなる、エウァルドさんに対する感情のような、でもちょっと変な感じ。


「ところで、聞きたいことがあるのですが」
「んー? なーにー?」
「トカゲさんは僕とどのような関係で? 」
怖くはない、恐ろしくはない、そして、べつにそこまで好きじゃない、けれど知らない人みたいな感じはしない、つまりは多分、知っている人。

「ほう! ほうほううんうん! いいよ、良い質問だねニッキー おじさん嬉しいよーあと質問の答えはシンプルだ僕は君の伯父さん、君は僕の甥、血筋の話だからね? 間違っても不審者なんて言わないよーに」
「言われたんすね」
「うん、言われた、たぶん構いすぎたと思うんだよね、伯父さん反省、よいしょっと、ふう……あ! 忘れるところだった! 」
「わすれる? 」
「自己紹介! 記憶を燃やしちゃったからぼくのこと知らないでしょ、だからもう一度自己紹介、ね? 」
「ねって言われてもねえ」
ふふんとため息をついて床に座ったトカゲさんが僕をにんまりと見ているけど、ちょいと不満点というか、矛盾があるのですよ、トカゲさん。

「なにさ」
「僕とトカゲさんが親戚ってなると僕もトカゲさんになることになるんですけど? うそついてない? 」
「ええー?! 」
むすっと鼻のあたりをしかめてるトカゲさんには申し訳ないとは全く思わないけども、そこをもう少し知りたい。

「ちがうちがう! ぼくのこれ病気! ドラゴンになる病気なの! 」
「ええ? そんな病気聞いたこともないんですけど」
「この大陸にはドラゴンいないからね! あるんだよそういうの!  元々は人の姿だからそんな目で見ないで! 悲しくなっちゃうじゃないか! 」
「ふうん」
「ふーんなの?! やだ!記憶なくてもこの子酷い! 」
「うるちゃいなあ……」
「ひっどい!」
うるさい、うるさい。

頭に響くキンキンする声、とてもとてもうるさい、ああ、うるさい、けれど、別に嫌いではない、煩いからシンプル叩きたいけどなんだろう……まあいいや。

「トカゲさんトカゲさん」
「なんだい?」
「叩いてもいいですか、固いところで大丈夫なので」
「なんでだい?! 」
この感覚がなんなのか考えるには時間が足りないから、まあ、なんだろうね、なにをしたいんだろうね、えい! よし、すっきり。

「いたた、痛くないないけど心がいたい、こんな子に育っちゃっておじさん悲しい、あーやめて! 手をぶんぶんしないの! 」
すっきりするためなら何してもいいと思うの、最低な考え。

……頭疲れてきたね、勝手に現実逃避してる気がする、気のせい、気のせい。

「ああそうだ、名前教えるねニッキー、トカゲさん呼びだと悲しいからね、覚えるんだよ」
「え、あ、はい」
「ぼくはクアルフ、君の先代クロトゥランで、君のお父さんルドルフのお兄ちゃん、改めてよろしくね! 」
「よろです」
「ざつー、まあこれからに構う予定だからいっか! 」
きゃぴきゃぴと楽しそうに、ゆらゆら揺れながらにこにこ言ったトカゲさん、トカゲさん……クアルフさん。

「ところでお父様の名前ルドルフなんですね」
「え? しらなかったの? 」
「お父様と呼べしか言ってなかったしわざわざ聞くのもなんだかなーって思って聞けずじまいな感じでえ」
「変なとこで変な引っ込み思案してるねー……ところでニッキー、なんでこの部屋に来たの? 」
「? あ、ここになにあるんだろーっていう好奇心と、悩みが解けるかなーっていう希望的なあれです」
「ふーん」
「あと、あそこの本棚になにが書いてあるのか読んでみたいです」
ああそうだ、トカゲさんでびっくりしてたけどそもそもここに来たのだって大事な理由があるんだった。

「うーん、そんなに時間は取れないから本はちょっと無理だけど……この部屋がなんなのかとかの説明したら帰ってくれるかい? 」
「ん~」
「悩みとかの相談も聞くから、ほら、ぼくは君のこと外で待機してる人たちより知ってるし、僕らが何なのかとかも教えちゃうよ、どう? お得だよ! 」
お得って言いかたどうなのよ、んんー、まあ、そんな固執することじゃないし、この部屋にこれただけで満足してる部分もあるし、……うん。

「それなら妥協します、教えてくださいトカゲさん」
「トカゲじゃなーいー! クアルフおじさんと呼びなさい! 」
「善処します」
「ぜんしょ?! 」

クアルフおじさん、クアルフさん、うむ、うん、なんでか親近感が沸く、安心する、イライラする。

勝手に親近感もたれても困るだろうしそうだそうだ、そもそも僕は……なんだろう、わからない。


この人も、僕自身も知らないのだし諸々の文句はもうちょっと後に、全部わかったあとに、そうだね、エウァルドさんにぶつけちゃおう。

「さあまずはこの部屋についてです、教えてださいおじさん」
「ああ、うんその呼び方でいいや、……うん、教えるから、今度は記憶を燃やしちゃだめだからね? いいね? 」
燃やすとはなんのことかは分からないけど頷いておく。

ちょっと悲しそうな顔をしたのはよく分からないから黙っとこう、聞こう。


「率直に言って、この部屋は満月の夜に月に行けて、月の無い夜に地底に迷い込む、クロトゥランが死ぬための、死んだあとも別のなにかになれる不可思議な空間、有り体に言えば……地獄の門の前、君みたいなまだまだ生きれる人間が来るべき場所じゃないってことさ」




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