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本編
五十七話 あの部屋の前
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薄いカーテン越しに入る穏やかな日差し満ちている廊下の、ちょっと曰くつきの部屋の前。
みんなでやってきて、なんの変哲もない扉の前で僕は高揚感を胸に高ぶらせて、高ぶらせて、ちょっと冷静になろうとして、にっこりにやけちゃって、いけない、いけない。
「へへへ」
ながーい真っ白な髪を後ろにひとつまとめて、寝巻っぽいだぼだぼな服から動きやすいシャツに着替えて。
ベッドの上の生活とおぞましい注射のお陰なのか細いけどちゃんとうごける、のかもしれない足には動きやすい靴と補助布をつけて、これはもう走ってくださいだよね、え? ちがう? 歩いてください、了解です~。
まったりした服だとまったりしてしゅっとした服だとしゅっとしたい気分。
これはもう秘密基地を探検する少年の気分なのではないかといま考えついた、うん、適当、でも楽しい。
なにを言いたいかと聞かれたら、うーん、なんかわくわくして楽しい! これに尽きる。
口にだして歌いたいくらい、なにかを言いたいくらい、なにを言いたいのか分からないけどなにか、楽しいことを言いたい。
ああ、でも、楽しい事だけは、こういう愉快な気持ちは口にだした方が良いのかしら。
「エウァルドさんエウァルドさん、なんか楽しいです」
「そうか」
「わくわくしますね! 」
「それはよいことだ、目がキラキラしているぞ」
「ですかねぇー? 初めてですよこの気持ちー」
「お父様はそんなことないのだけどねえ、なぜ元気になるのか、理解ができない」
そんな自分なんだけども、その問題の部屋の前の廊下の空気は、あんまり明るくない、主にお父様が。
怒ったようなそうじゃないような感じのかおで扉を睨んで、深くため息を吐いて、また睨んで、首を横に振ってどんよりした顔して僕を見てバツの悪そうな顔をして言った。
「やはりやめないかね? うむ、そうだ、あれに行くより外に出たほう良いぞ、部屋に行くのは健康になってからでも遅くはないと 「公爵」 むぅ、分かっている、ただの悪あがきだ」
「分かって言っているのなら尚悪いですよ、さあニッキー様、こちらを腰につけてください」
「ん? ロープ? 」
いつの間にやらダンさんの手に束になった茶色いヒモ、じゃなくてロープが。
「細くて丈夫な崖を登るようのものをお持ちしました」
「ほほう」
「長さ30メートルありますので部屋の探索には支障はないかと、これを腰に巻いてわたしめがきつく結んでから探索にでて頂ければと」
これを、巻いて、中に。
「……なるほど? 」
「もしもの時に強引にでも戻せるようにしないと我々が安心できないのだよ、我慢しておくれ」
「なるほど~」
「なあダン」
「なんでしょう公爵」
「やはり辞めないか、私と共に王城に連れてった方が 「ロープで縛りあげて窓から投げ飛ばしますよ?」 なんてこと言うのだね……はあ、ニッキーは、見ての通りか」
ため息をついたお父様の淀んだ視線の先は当然、僕なわけです。
「楽しみですけど? ここで止められれたらキレ散らかす自身ならあります、えへへ」
部屋のことを考えてうっかり口角が上がっちゃう、なにがあるんだろうとそういう好奇心が満たされるかもっていう期待とあとは、あ、先にお父様との会話が先だ、いっけない。
「えへへじゃあないのだよ そうだな、うむ。そうだ、すまないなニッキーこんな父で」
「? 特に不満とかは無いですけども、こちらこそこんな僕ですいませんというかごめんなさいと言いますか」
注射が嫌なこと以外は特に暗い感情はないと思う、むしろ美味しいもの作ってくれるし、真剣に僕を治そうとしてくれるしなにより、優しいしだから、またそんな悲しそうな顔して欲しくないなあって。
「こんなところでそんな話をしたらまるでお別れのようではないですか、やめてください本気で投げ飛ばしますよ公爵」
「う、うむ、すまん……はぁ、不安だ」
にっこり、お父様と僕はちょっと笑って、お父様がまたため息をついた。
これはあれだ、話してたら中々いけないやつ、埒があかないってやつだ。
「大丈夫です、たぶん、少なくともお父様達を置いてどこか行くとかはないので、たぶん! 」
「多分!? 」
「なんでもないですー! 」
お父様の悲鳴をちょっと面白いな、と思いながら、ダンさんにロープを結んでもらって、ドアノブを掴んで捻って、ゆっくり開けて。
そのさきは真っ暗っだった。
「……よし」
暗いのはちょっと怖い、でも勇気をだして一歩、部屋に踏み入れたら。
何にもしていないのにパッと明かりがついた。
「……」
広い部屋、真ん中の大きなベッド、壁の大きな本棚。
前と変わらない、"夢"と一緒の光景が目の前に広がっている。
はて? 夢をなんでいま思い出したんだろ。
部屋、は暖かくて、ベッドには誰もいなくて。
じゃああの声は、あの人は?
「やあニッキー、こんなところで奇遇だね」
そう、この声が、夢で。
みんなでやってきて、なんの変哲もない扉の前で僕は高揚感を胸に高ぶらせて、高ぶらせて、ちょっと冷静になろうとして、にっこりにやけちゃって、いけない、いけない。
「へへへ」
ながーい真っ白な髪を後ろにひとつまとめて、寝巻っぽいだぼだぼな服から動きやすいシャツに着替えて。
ベッドの上の生活とおぞましい注射のお陰なのか細いけどちゃんとうごける、のかもしれない足には動きやすい靴と補助布をつけて、これはもう走ってくださいだよね、え? ちがう? 歩いてください、了解です~。
まったりした服だとまったりしてしゅっとした服だとしゅっとしたい気分。
これはもう秘密基地を探検する少年の気分なのではないかといま考えついた、うん、適当、でも楽しい。
なにを言いたいかと聞かれたら、うーん、なんかわくわくして楽しい! これに尽きる。
口にだして歌いたいくらい、なにかを言いたいくらい、なにを言いたいのか分からないけどなにか、楽しいことを言いたい。
ああ、でも、楽しい事だけは、こういう愉快な気持ちは口にだした方が良いのかしら。
「エウァルドさんエウァルドさん、なんか楽しいです」
「そうか」
「わくわくしますね! 」
「それはよいことだ、目がキラキラしているぞ」
「ですかねぇー? 初めてですよこの気持ちー」
「お父様はそんなことないのだけどねえ、なぜ元気になるのか、理解ができない」
そんな自分なんだけども、その問題の部屋の前の廊下の空気は、あんまり明るくない、主にお父様が。
怒ったようなそうじゃないような感じのかおで扉を睨んで、深くため息を吐いて、また睨んで、首を横に振ってどんよりした顔して僕を見てバツの悪そうな顔をして言った。
「やはりやめないかね? うむ、そうだ、あれに行くより外に出たほう良いぞ、部屋に行くのは健康になってからでも遅くはないと 「公爵」 むぅ、分かっている、ただの悪あがきだ」
「分かって言っているのなら尚悪いですよ、さあニッキー様、こちらを腰につけてください」
「ん? ロープ? 」
いつの間にやらダンさんの手に束になった茶色いヒモ、じゃなくてロープが。
「細くて丈夫な崖を登るようのものをお持ちしました」
「ほほう」
「長さ30メートルありますので部屋の探索には支障はないかと、これを腰に巻いてわたしめがきつく結んでから探索にでて頂ければと」
これを、巻いて、中に。
「……なるほど? 」
「もしもの時に強引にでも戻せるようにしないと我々が安心できないのだよ、我慢しておくれ」
「なるほど~」
「なあダン」
「なんでしょう公爵」
「やはり辞めないか、私と共に王城に連れてった方が 「ロープで縛りあげて窓から投げ飛ばしますよ?」 なんてこと言うのだね……はあ、ニッキーは、見ての通りか」
ため息をついたお父様の淀んだ視線の先は当然、僕なわけです。
「楽しみですけど? ここで止められれたらキレ散らかす自身ならあります、えへへ」
部屋のことを考えてうっかり口角が上がっちゃう、なにがあるんだろうとそういう好奇心が満たされるかもっていう期待とあとは、あ、先にお父様との会話が先だ、いっけない。
「えへへじゃあないのだよ そうだな、うむ。そうだ、すまないなニッキーこんな父で」
「? 特に不満とかは無いですけども、こちらこそこんな僕ですいませんというかごめんなさいと言いますか」
注射が嫌なこと以外は特に暗い感情はないと思う、むしろ美味しいもの作ってくれるし、真剣に僕を治そうとしてくれるしなにより、優しいしだから、またそんな悲しそうな顔して欲しくないなあって。
「こんなところでそんな話をしたらまるでお別れのようではないですか、やめてください本気で投げ飛ばしますよ公爵」
「う、うむ、すまん……はぁ、不安だ」
にっこり、お父様と僕はちょっと笑って、お父様がまたため息をついた。
これはあれだ、話してたら中々いけないやつ、埒があかないってやつだ。
「大丈夫です、たぶん、少なくともお父様達を置いてどこか行くとかはないので、たぶん! 」
「多分!? 」
「なんでもないですー! 」
お父様の悲鳴をちょっと面白いな、と思いながら、ダンさんにロープを結んでもらって、ドアノブを掴んで捻って、ゆっくり開けて。
そのさきは真っ暗っだった。
「……よし」
暗いのはちょっと怖い、でも勇気をだして一歩、部屋に踏み入れたら。
何にもしていないのにパッと明かりがついた。
「……」
広い部屋、真ん中の大きなベッド、壁の大きな本棚。
前と変わらない、"夢"と一緒の光景が目の前に広がっている。
はて? 夢をなんでいま思い出したんだろ。
部屋、は暖かくて、ベッドには誰もいなくて。
じゃああの声は、あの人は?
「やあニッキー、こんなところで奇遇だね」
そう、この声が、夢で。
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