燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

文字の大きさ
上 下
70 / 118
本編

五十七話 あの部屋の前

しおりを挟む
薄いカーテン越しに入る穏やかな日差し満ちている廊下の、ちょっと曰くつきの部屋の前。

みんなでやってきて、なんの変哲もない扉の前で僕は高揚感を胸に高ぶらせて、高ぶらせて、ちょっと冷静になろうとして、にっこりにやけちゃって、いけない、いけない。

「へへへ」
ながーい真っ白な髪を後ろにひとつまとめて、寝巻っぽいだぼだぼな服から動きやすいシャツに着替えて。

ベッドの上の生活とおぞましい注射のお陰なのか細いけどちゃんとうごける、のかもしれない足には動きやすい靴と補助布をつけて、これはもう走ってくださいだよね、え? ちがう? 歩いてください、了解です~。

まったりした服だとまったりしてしゅっとした服だとしゅっとしたい気分。

これはもう秘密基地を探検する少年の気分なのではないかといま考えついた、うん、適当、でも楽しい。

なにを言いたいかと聞かれたら、うーん、なんかわくわくして楽しい! これに尽きる。

口にだして歌いたいくらい、なにかを言いたいくらい、なにを言いたいのか分からないけどなにか、楽しいことを言いたい。

ああ、でも、楽しい事だけは、こういう愉快な気持ちは口にだした方が良いのかしら。

「エウァルドさんエウァルドさん、なんか楽しいです」
「そうか」
「わくわくしますね! 」
「それはよいことだ、目がキラキラしているぞ」
「ですかねぇー? 初めてですよこの気持ちー」
「お父様はそんなことないのだけどねえ、なぜ元気になるのか、理解ができない」
そんな自分なんだけども、その問題の部屋の前の廊下の空気は、あんまり明るくない、主にお父様が。

怒ったようなそうじゃないような感じのかおで扉を睨んで、深くため息を吐いて、また睨んで、首を横に振ってどんよりした顔して僕を見てバツの悪そうな顔をして言った。


「やはりやめないかね? うむ、そうだ、あれに行くより外に出たほう良いぞ、部屋に行くのは健康になってからでも遅くはないと 「公爵」 むぅ、分かっている、ただの悪あがきだ」
「分かって言っているのなら尚悪いですよ、さあニッキー様、こちらを腰につけてください」
「ん? ロープ? 」
いつの間にやらダンさんの手に束になった茶色いヒモ、じゃなくてロープが。


「細くて丈夫な崖を登るようのものをお持ちしました」
「ほほう」
「長さ30メートルありますので部屋の探索には支障はないかと、これを腰に巻いてわたしめがきつく結んでから探索にでて頂ければと」
これを、巻いて、中に。

「……なるほど? 」
「もしもの時に強引にでも戻せるようにしないと我々が安心できないのだよ、我慢しておくれ」
「なるほど~」
「なあダン」
「なんでしょう公爵」
「やはり辞めないか、私と共に王城に連れてった方が 「ロープで縛りあげて窓から投げ飛ばしますよ?」 なんてこと言うのだね……はあ、ニッキーは、見ての通りか」
ため息をついたお父様の淀んだ視線の先は当然、僕なわけです。

「楽しみですけど? ここで止められれたらキレ散らかす自身ならあります、えへへ」
部屋のことを考えてうっかり口角が上がっちゃう、なにがあるんだろうとそういう好奇心が満たされるかもっていう期待とあとは、あ、先にお父様との会話が先だ、いっけない。

「えへへじゃあないのだよ そうだな、うむ。そうだ、すまないなニッキーこんな父で」
「? 特に不満とかは無いですけども、こちらこそこんな僕ですいませんというかごめんなさいと言いますか」
注射が嫌なこと以外は特に暗い感情はないと思う、むしろ美味しいもの作ってくれるし、真剣に僕を治そうとしてくれるしなにより、優しいしだから、またそんな悲しそうな顔して欲しくないなあって。

「こんなところでそんな話をしたらまるでお別れのようではないですか、やめてください本気で投げ飛ばしますよ公爵」
「う、うむ、すまん……はぁ、不安だ」
にっこり、お父様と僕はちょっと笑って、お父様がまたため息をついた。

これはあれだ、話してたら中々いけないやつ、埒があかないってやつだ。

「大丈夫です、たぶん、少なくともお父様達を置いてどこか行くとかはないので、たぶん! 」
「多分!? 」
「なんでもないですー! 」
お父様の悲鳴をちょっと面白いな、と思いながら、ダンさんにロープを結んでもらって、ドアノブを掴んで捻って、ゆっくり開けて。


そのさきは真っ暗っだった。


「……よし」
暗いのはちょっと怖い、でも勇気をだして一歩、部屋に踏み入れたら。


何にもしていないのにパッと明かりがついた。

「……」

広い部屋、真ん中の大きなベッド、壁の大きな本棚。

前と変わらない、"夢"と一緒の光景が目の前に広がっている。


はて? 夢をなんでいま思い出したんだろ。

部屋、は暖かくて、ベッドには誰もいなくて。

じゃああの声は、あの人は?




「やあニッキー、こんなところで奇遇だね」

そう、この声が、夢で。








しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...