67 / 118
本編
五十四話 獅子に愛されたひと
しおりを挟む
美しいひと、最上のひと、愛されたひと、愛されるべき至高の、至上の………。
……気持ちが悪い。
「夢にいけなくなったからってここにきたのか? ばーか」
吐き気がする。
虫酸が走る、反吐がでる。
いったいだれに対してこんないけない感情を、……あぁ、ぼくじゃん、ぼくの、やってることに対して、あぁあ、ああ。
なんでこんなにも嫌がってるのかは、分からない、わかりたくもない、わかったところでなにも変わらない、手に負えない。
そうするしかなかったからと納得する自分を憎んで、怒って、呪って、呪って、けれどそれを続けることに喜びを見いだして、だから、気持ち悪くて、救いがなくて、そもそもなにに悩んでいるのかもわからなくて。
「……うぇえ」
きもちがわるい。
気持ちの問題だ、なんて言われても、困る、解決策を教えてほしい。
感情というものはほんとうに、いや。
悩むことは大抵どうしようもなくくだらないのにその悩みを勝手に大きく解釈して、間違ってると理解している筈なのにべったりと思考のなかに貼り付いて、大事なものをいつもいつも見失って。
足りない頭と理性で理解している筈なのに、学習できない自分が本当に、大嫌い、そしてなにより、根本的にだ、前提が、そもそもがおかしい。
「……もう、やだね、これ」
この記憶は知らない、僕のじゃないのだよ、なによこれ。
いくら記憶がまっさらだからってね、こんな濃密な感情を10代の子供が持てるかっての、あの人ってだれなんだい、そもそも自分はなんでそんなことしたの、知ってるのに知らない、あーやだやだ。
「なんだ、自我ははっきりしてるんだな、流石あいつの子孫だ」
「んえ? 」
「意識もはっきりしている、なら獅子に頼る必要はねえな、安心した」
「ん? ん? 」
そうだ、そういえばそうだ、僕今車椅子乗ってるんだった、どこにむかってるんだっけ? この声はだれ、エウォルドさん?
「あー、少し時間があるな、ふむ、仕方がねえ」
「ここは……廊下? 」
「おうそうだ、この先をまーっすぐ行けば月にいける、簡単だろ? 」
コロコロ、コロコロ、車椅子が進む音に改めて目が覚めた。
最高の友人、無二の友、生まれてからずっと過ごしたあの記憶。
「ちげえだろ、それはあいつの記憶だ、お前がもってちゃ体に悪い、わすれろわすれろ」
廊下を進んでいる、コロコロと、月に照らされて、青くて綺麗な、光がとても、美しくて。
「ああわるい、そっちもあんまりみないでくれ、我慢ができなくなるかもだ」
「……がまん」
「俺じゃあないぜ? うっかり月に連れ帰りたくなるらしいぜ、あの月そのものが化け物と思ってくれ」
月、つき……大いなる獅子の、ししの。
「獅子だなんてだれが名付けたんだろうな、ありゃあただの神みたいなことができるだけの生き物だ、そんな大層なもんじゃねえ」
「……うん」
だれだろうこのこえ、エウァルドさんにそっくりだけど、エウァルドさんはこんな話し方じゃないし……これはよくない、まあいいかってできない。
「なあ小僧、品種改良ってのを知っているか? 」
「おやさいとかの」
「そうだ、効率良く育てて効率良く糧を得るための研究だ、まあなんだ、お前はそれみたいなものだ、ニッキー」
「むむ、む」
月をみちゃ駄目と、悲しい。
なら青くてふわふわひかってる廊下を、みな、……別に見なくてもいいか、目を閉じてよ。
「そうだ、それがいい、地上まで連れてくから、目閉じてろ、気がついたらベッドの中だ」
「……あなたは」
だあれ?
「俺か? 俺はただの……いや、変に隠す必要もねえな」
ころころ、コロコロ、車輪の音が……ちがう、この人を。
かんがえがまとまらないね、やーね。
「グレイブ、グレイブ・ディウエクチアだ、できれば忘れていろ、いまは夢だからな、覚めたらすっきり忘れている、それでいい」
「ぐれいぶ……ぐれいぶ」
しらないひと、、知っている人間。
「ディウエクチアの神官、小僧の傍にいたいと言っている男の先祖、つまりは」
「つまりは? 」
「ただの亡霊崩れだ……また改めて月の使者として迎えに行くから、それまでのんびりしているといい」
獅子の、使者。
「獅子じゃねえ、"月"の使者だ、そら、折角生き残ったんだ、せいぜい思うままに生きて、生きて、生きて、幸福のままに死ぬといい」
ちょっと、いみがわからない。
カシャンと、金属が擦れるようなおとが……したような。
まあ、いいか……いいのかな。
「いいんだ、じっとしてろ」
良いのか、なるほど。
……気持ちが悪い。
「夢にいけなくなったからってここにきたのか? ばーか」
吐き気がする。
虫酸が走る、反吐がでる。
いったいだれに対してこんないけない感情を、……あぁ、ぼくじゃん、ぼくの、やってることに対して、あぁあ、ああ。
なんでこんなにも嫌がってるのかは、分からない、わかりたくもない、わかったところでなにも変わらない、手に負えない。
そうするしかなかったからと納得する自分を憎んで、怒って、呪って、呪って、けれどそれを続けることに喜びを見いだして、だから、気持ち悪くて、救いがなくて、そもそもなにに悩んでいるのかもわからなくて。
「……うぇえ」
きもちがわるい。
気持ちの問題だ、なんて言われても、困る、解決策を教えてほしい。
感情というものはほんとうに、いや。
悩むことは大抵どうしようもなくくだらないのにその悩みを勝手に大きく解釈して、間違ってると理解している筈なのにべったりと思考のなかに貼り付いて、大事なものをいつもいつも見失って。
足りない頭と理性で理解している筈なのに、学習できない自分が本当に、大嫌い、そしてなにより、根本的にだ、前提が、そもそもがおかしい。
「……もう、やだね、これ」
この記憶は知らない、僕のじゃないのだよ、なによこれ。
いくら記憶がまっさらだからってね、こんな濃密な感情を10代の子供が持てるかっての、あの人ってだれなんだい、そもそも自分はなんでそんなことしたの、知ってるのに知らない、あーやだやだ。
「なんだ、自我ははっきりしてるんだな、流石あいつの子孫だ」
「んえ? 」
「意識もはっきりしている、なら獅子に頼る必要はねえな、安心した」
「ん? ん? 」
そうだ、そういえばそうだ、僕今車椅子乗ってるんだった、どこにむかってるんだっけ? この声はだれ、エウォルドさん?
「あー、少し時間があるな、ふむ、仕方がねえ」
「ここは……廊下? 」
「おうそうだ、この先をまーっすぐ行けば月にいける、簡単だろ? 」
コロコロ、コロコロ、車椅子が進む音に改めて目が覚めた。
最高の友人、無二の友、生まれてからずっと過ごしたあの記憶。
「ちげえだろ、それはあいつの記憶だ、お前がもってちゃ体に悪い、わすれろわすれろ」
廊下を進んでいる、コロコロと、月に照らされて、青くて綺麗な、光がとても、美しくて。
「ああわるい、そっちもあんまりみないでくれ、我慢ができなくなるかもだ」
「……がまん」
「俺じゃあないぜ? うっかり月に連れ帰りたくなるらしいぜ、あの月そのものが化け物と思ってくれ」
月、つき……大いなる獅子の、ししの。
「獅子だなんてだれが名付けたんだろうな、ありゃあただの神みたいなことができるだけの生き物だ、そんな大層なもんじゃねえ」
「……うん」
だれだろうこのこえ、エウァルドさんにそっくりだけど、エウァルドさんはこんな話し方じゃないし……これはよくない、まあいいかってできない。
「なあ小僧、品種改良ってのを知っているか? 」
「おやさいとかの」
「そうだ、効率良く育てて効率良く糧を得るための研究だ、まあなんだ、お前はそれみたいなものだ、ニッキー」
「むむ、む」
月をみちゃ駄目と、悲しい。
なら青くてふわふわひかってる廊下を、みな、……別に見なくてもいいか、目を閉じてよ。
「そうだ、それがいい、地上まで連れてくから、目閉じてろ、気がついたらベッドの中だ」
「……あなたは」
だあれ?
「俺か? 俺はただの……いや、変に隠す必要もねえな」
ころころ、コロコロ、車輪の音が……ちがう、この人を。
かんがえがまとまらないね、やーね。
「グレイブ、グレイブ・ディウエクチアだ、できれば忘れていろ、いまは夢だからな、覚めたらすっきり忘れている、それでいい」
「ぐれいぶ……ぐれいぶ」
しらないひと、、知っている人間。
「ディウエクチアの神官、小僧の傍にいたいと言っている男の先祖、つまりは」
「つまりは? 」
「ただの亡霊崩れだ……また改めて月の使者として迎えに行くから、それまでのんびりしているといい」
獅子の、使者。
「獅子じゃねえ、"月"の使者だ、そら、折角生き残ったんだ、せいぜい思うままに生きて、生きて、生きて、幸福のままに死ぬといい」
ちょっと、いみがわからない。
カシャンと、金属が擦れるようなおとが……したような。
まあ、いいか……いいのかな。
「いいんだ、じっとしてろ」
良いのか、なるほど。
53
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる