燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

五十三話 明確に辿り 明快を求め明晰に めいせきに

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今日は夢をみなかった、そんな気がする。

良い夢をみたときはすっきり目覚めて、悪い夢ならその逆。

いまは、すっきりとまではいかない、ノーマルな、まあまあな目覚めを、ぼんやりとした頭で少し斜め上な思考を走らせながら迎えて、はたと我に帰る。

「…… んん、ん? 」
真っ暗だった。

目が見えなくなったとかじゃなく、部屋が暗かったのだ、不思議なことに。


「…………」
昼間にいくら眠ろうが仮眠を貪ろうが夜はぐっすり日が昇るまでは起きない僕にしては珍しい、すごくめずらしい、ほんとに。

今までこんなことは……無かったのかな?  わからない、わからない。

頭の中に同じ言葉を繰り返して、自分自身に確認を繰り返して、馴染ませて、うん、答えを探すことが癖になっているのかも、うん、うん。

以前の自分はどうだっただろう、こんな癖はなかったかもしれない、けれど、けれど……止められないのだから仕方ない、仕方ない。

なんせだって、そうしないとそうしなければ自分は、自分の……個性、自我は。

うん、これはネガティブなことだやめよう、そうしよう、楽しいことをかんがえよう……愉しいこと、わかんない。

これは、あれだ、埒があかない。

横になってても答えが浮かばないやつ、起きよう、よーいしょ。


「……おきるか」
「おきるのか」
「んむ? 」
「手伝おう」
おや、おや?  

「……ふむ 」
起きようと身を起こそうとして、少し浮いた背中に大きな手が差し込まれて、ひょいっと。

「……あら」
「明かりつける、少し待て」
「あ、はい」
何がなんだか、て訳じゃないけどテキパキと話されて動かれると口を挟む暇がないもの、とぼんやりと頭の片隅で考えて、はてと考えてああと納得する。

「寝てなかったんですねエウォルドさん」
「ん? あぁ、ダン殿と交代で仮眠をとっている、安心しろ」
「へぇー」
体持たなそう、て言うのは介護されてる側が言うとちょっとあれだし、また今度何かお返ししよう、うむ。

「ところでニッキー、起きるには些か早いと思うが……顔色は悪くないな、食べすぎか?」
「いえ別にお腹壊してる訳じゃないです、なんか目が覚めちゃいまして」
「そうか」
ベッド横の明かりが灯って、その光に照らされながら座ったエウォルドさん、否定も肯定もしない返事がちょっと心地良いかもしれない。


……ふう。

「冷めてはいるがミルクがある、飲め」
「はいー」
「菓子は……あまり与えるなと言われている、すまない」
「お構い無く~」
「……そうか」
別にそんな四六時中何か食べないといけないわけじゃないからね、名残惜しそうな顔はなんだいエウォルドさん、ん?  引き出しに菓子の詰め合わせがある? 後で食べるね。

「……なにしようとしたんだっけ」
「ん? 」
こう、なんか目的を持って起きたはず、和んだこの一瞬でどわすれした……だと。

あ、待って思い出せそう。

「んーと、ええっと……」
「おかわりか?  いいぞ」
ミルクはおいしいー、うむ、違う。

「……ええっとお」
頭のこう、あと二、三歩位で正解になりそうなこの感覚、うむむ。

目を瞑って、額に指をトントンして、思考に集中、集中。

「ニッキー、悩みがあるなら聞くぞ」
「いや悩みとかじゃ……悩み、かもですけども? 」
「言え」
「その悩みを思い出そうと悩んでます、あと少しで思い出せそうなんですけど……」
「すむ、そうなのか」
「そうなんです」
あとちょっと、もうちょっと、痒いところをいまかけてる感覚、う、うおぉ。

「ん? 悩みなのなら思い出す必要性を感じないが」
「何てこと言うんですかあなた、この数分が無駄になるでしょう 」
「……考え方から変えた方が良いと思うが、それも余計か?  」
「感情論的にアウトですね! 」
「……理解できん」
「方向性の違いですね、残念です」
人それぞれのなんとやら、なんとやらの中身は言葉に表せれない、どわすれだ。

「合理的とは言えんが、お前が言うのならそうなのだろう」
「うむ、よろしい」
無表情のエウォルドさんの頭に疑問符が浮かんでる気もしないでもないけど……まあ、いいよね! 

「それで、思い出せたのか? 」
「え、あぁ、思い出せて……あ」
「ん?  」
何かの閃き、重いなにかが取れたような、一種の快感。
これは……あぁ、ん? あぁ……ん? 良くわからない、よく理解できないされども。

あるいは、おおよそ? 吹っ切れた。

「……思い出せはしなかったですが、ちょっと、なんでしょう、悟り? みたいな」
「悟るほどのあたまが……いや、なんでもない」
「今バカって言おうとしました? 」
「違う、言葉のあやというものだ、違う」
「はーん?  まぁ良いでしょう、たった今新しい悩みができたのでそれを聞いてください、それでチャラって奴です、いいですねー? 」
「それが無くとも聞くが、後で何か用意する」
「いや別にそういう重いやつじゃ 「さぁ、聞かせてくれ」 あ、はいぃ」
なんか一瞬だけ優位に立てた気がした……気がする?  おっとと、また雑な思考に走っちゃう

「悩んでること、って言えばわがままかもしれないんですけど、僕の記憶といいますか、自分自身のこと、なんですけど」
「あぁ、無理に思い出す必要は無いと結論がでたが」
真っ直ぐにエウォルドさんと目を合わせて、布団を握りしめて……。

「でた、んですけど……やっぱり気になりますし、多分、恐らくですよ? 」
「? 」
何か、何かがおかしいような、何かを思い出せそうなこの取っ掛かり。

「 なんとなく、お父様は僕の記憶か、それに近いなにかで大切なことを隠してると思うんです」
「ふむ、そんな素振りは見えんが」
「勘みたいなやつです」
「かん……?  そ、そうか勘か」
「信じてもらえてないのは後で怒りますね」
「む」
「その大切なことは多分、僕の記憶というから……なんでしょう、もっと大きいことだと思うんですけど……なんだろう……んんんー」
「悩んでいるな 」
「なやんでますとも……はっきり言った方が楽なんでしょうかね、んんー」
答えは、こたえが……怖いかも、そうじゃないかも、んんー。

おっと、頭の上に手が。

「言え」
……決心ついた。


「あのこれ、思い出したい記憶じゃ、ないかも」
「……どういう意味でだ?  」
「えーっと……、正確には違うかもですが、誰かの記憶があるみたいな、明らかに僕のものじゃないって確信だけはある、ような ないような」

悩みだなんて無理矢理言葉にしたけど、どちらかと言えば嬉しいの感情に近くて、けれども取り返しのつかないかもしれない怖さも。

「曖昧な事しか伝わらなかったが、公爵に伝えた方が、いや、先にダン殿に伝えた方が良いだろう、あの方なら分かりやすく整理してくれるだろう」
「すんごいあやふやですからねえ」
僕はいい加減な事しか分からなくて、それを聞いたエウォルドさんは更に分からない。

ならば頭の良い人に伝えてどーにかこーにか良い感じにしてもらおう。



………。


……………ン。

「……そろそろ寝ますね」
「あぁ、それが良いだろう、続きは日が昇ってからにしておけ」
「今の会話覚えてなかったら言ってくださいね」
「勿論だ、横になれ」

分からないことだらけ、変なことだらけの中に理解してしまうこともあってしまう。

エウォルドさんにちょっと聞いてもらって整理できた、気がする。


僕はなんなのかっていう悩みを後回しにする悩みができちゃった、それだけ、それだけ。


クロトゥラン、クロトゥラン、クロトゥラン。

身勝手な者、捧げ続ける者、取り返しのつかない記憶。

理解している、己の成すべきことを

分かっている、それがしてはいけないことと。

拒否している、それをするとお父様達が悲しむから。

塵のように積もるこの気持ちは……僕の気持ちじゃない、知らない、知らない。


知らない、けど心地が良い。





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