燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

五十話 食後の散歩 うたた寝に変わる

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にしても、と。

なにかを頭におもい浮かべて、満腹のおなかにじゃまされる。

勝手に邪魔な思考を回すこともなく、なにをどう動こうかなんて満腹のまえではなんたらうんとか。



あぁー、いっっぱい、食べた、ほんとに食べた。

コロコロと、ギシギシと、車椅子が動けば聞こえる音は心地良い……かもしれない。

……うとうと、うとうと、良い音と、あと一欠片のパンで苦しくなるけど、まだギリギリ満腹の心地好さが顔を出している。


「ニッキー、ニッキー? 寝るのか? 」
「んぬ? 」
「案内をするとダン殿が言っているが寝るのなら寝室に戻ろう」
「んー……」
もどる、戻るかあ……もどるぅ?

「食後の休みをかねての案内ですのでこのままで良いでしょう、エウァルド君の案内も兼ねてますし、エウァルド君あなた、ニッキー君が行くべき場所しかしらないでしょう? 」
「……あぁ」
世間話はぜんぜんオーケー、心地好いいから。

うとうとしながら聞ける音は、全部オーケー、このうとうとは、たぶん、多分、10分、30分、1時間、まあ2時間も寝こければきっと。

眠いときにはねむいことを、満腹な時はまんぷくなことを考える、うん、普通のことふつうのこと。

「……ちょっとだけ寝ますね」
「わかりました、背もたれを動かしますね」
「あいー」
僕を気遣う声と、カクンと椅子が音を立てて目に見えたのは天井、赤い文字。

落ち着いて、ほどよく静かで、ほどよく話し声が聞こえて、別にほどよくないお腹のなかはともかく、目を閉じて、耳を勝手に研ぎ澄まして。



「あれが客室、20もありますが私が来てから使われたことはありませんのでお気になさらずに」
きゃくしつ。

「ああ、わかった」
「いまこの屋敷にはわたしとメルディアとエウァルド君、公爵と公爵が招いた24人の兵士が専用の宿舎で寝泊まりし屋敷内すべての警備を交代であたっています」
ほんほん。

「なるほど、理解した」
「基本エウァルド君はニッキー様専属の護衛と婚約者、まあ語彙を下げればおはなし相手をしてくださると嬉しいです」
「その点に関しては拙い知識しかない故、ご教授願いたい」
そうか、エウァルドさんおはなし相手なのか、なるほどなるほど……うん、言葉の意味どわすれした、なるほどしてない。

「もちろん……これは忘れていいのですが、ニッキー様と公爵を護るにしてはいささか警備が多すぎる節があるのですが、エウァルド君的はどう感じます? 」
へえー、多いのかしら、ダンさんが言うのなら間違いないけど、エウァルドさんも騎士って言ってたしきっと頭いいこと聞けるはず。

「ニッキーを護るのだから24人は妥当なのでは? 」
うそん。

「ふふ、えぇそうですね、公爵は何かを想定しているのでしょう、話は中断してエウァルド君、あちらが――」
ダンさんわらってるからまあいいのかね、うん、そういうことにしておこう、うむ。

もう少し耳立てていたいけど……まだ眠い、大人しく寝て……もちょっとだけ耳を集中してみたり……。

ダンさんの声もエウァルドさんの声も除外して、ちょこっとだけ本気だしてみて、耳にぐぐっと力を入れて。


「……が……る、寝てるな、よし」
だーれ?  この声。


もう少し聞けばどうにか………やる気なくなっちゃった、ねよ。



すやぁっと。


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