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本編
断章 騎士の暖かな記憶の定着
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17の歳、騎士になった後はどうするのかと、親に尋ねられた。
親が求める理想の騎士になることがエウァルド・ディウエクチアの目標だが、今のまま鍛練していけば問題無く就任することがてきるだろう。
驕りでも、傲慢でもない、実績が積み上がればいずれ届くものだと知っている。
既に俺は兄と互角に打ち合えるようになった、後は応用ができるか否か、それも時間をかけ模索すれば良い。
難航すれば師を探し頭を下げ教えを乞う、その繰り返し、単純な話だ、だが簡単なものでもない。
問題は騎士になった後。
騎士の中の騎士に、人として強く正しくあれと唱える親の言葉に従うが、それだけではいけないと師たちは言っている。
生きる上での大きな目的が果たされて、その後はどう生きるのか、どう人生を積み上げていくのかを、知らないものだ。
深く考えなければならない。
騎士として生き、騎士として散れば良いとは思うが、それでは恐らく納得しないだろう。
少しばかり……答えを出すのが遅れそうだ。
「ねえーなんか更にでかくなってなーい? 」
何処か気の抜けた顔の婚約者が、肘をテーブルにつけ俺の顔を見て言った。
「なにがだ」
「身長だよ~、何センチ~? 」
「測ってないからわからん」
「うわ嫌味~」
「意味がわからん」
「んもー、エウァルドはすごいよねー、剣術? の大会で優勝したんだって? やばいねー」
「……まあな」
わざわざ二人で会うのだからと婚約者の侍女が用意した、広い庭園の茶席。
手間が省けると有り難く使わせてもらっているが、不機嫌な顔を隠しもしない婚約者の言葉にはついつい思考が鈍る。
「……アイス食べたい」
「食べれば良いだろう、侍女か執事にでも頼めば取り寄せることも容易い筈だ」
「そういうのじゃーないんだよーわかってないねー」
「なにがだ? 」
「今のはなんとなく言っただけだからそこまで食べたいわけじゃないんでーす」
「……話にならんな」
この生き物は相変わらず良く分からん。
貴族らしい振る舞いも、教育の行き届いた知性も持っている筈なのだが、何処か思考がずれている節がある。
「ああー……ココアおいしいぃ~」
「寝そべりながら飲むなばかもん」
「だってえ~」
もう少し努力すれば平べったくなれそうな勢いでテーブルに突っ伏す婚約者に己が課題に難航していたことが馬鹿らしく思えてくる。
「時期当主が聞いて呆れるな、全く」
「ええー、まあ、べっつにぃー? サボってる訳じゃないですしー? おじ様から出される課題が鬼だから疲れてるだけだしい」
「なにをしているのかは知らんがいずれは一族の長となるのだ、それくらいこなして見せろ」
「んー、わかってるけどさー、やるけどさー……めんどいよねー」
「それに関しては知らん、理解できん」
「ひどーい」
「ひどくて結構、ところであまり学園に顔を出していないと聞くが課題とやらが原因か? 」
「んー? 一応いるよー? 山籠りとか遺跡探索とか前はしてたけどおじさまもういないし、研究室に住んでるだけ」
「…………研究室は住む場所ではない」
「正論はね、人を傷つけるんだよ? 」
「知らんな」
「悲しいからケーキ食べる、氷で冷やした冷たいやつ、これ、美味しい」
「食べるのは勝手だが姿勢をどうにかしろ、喉が詰まってもしらんぞ」
「あーい」
「……はあ」
「たーめーいーきーつーかーなーいーでー」
「黙って食ってろ」
「うぎー」
頬に菓子を詰め込んで唸る婚約者、未だ理解ができない生き物だが7年も共にいれば慣れるというもの。
遠くない未来籍を入れ式をあげ共に暮らすことになるが、そうなると……俺が婿に入るのか、そうか、なるほど。
当主になり平たくなる婚約者の尻を叩きながらこの先を生きていくのか、そうか……わるくないな、じつにわるくない。
もし、この生き物が仮に当主を降りると仮定するならば。
課題に追われ逃げようとする婚約者の機嫌をとりながら騎士として過ごすと考えて……それもわるくないと思った。
特段不満点も無い、騎士になり生きていくという目標とも食い違わない、ならば、ならば……。
「……そうだな」
「エウァルドもケーキ 食べる? 」
「いらん、お前のために用意されたものだ、残さず食え」
「あーい、なんか考え事してたー?」
「いいや? なんでもない」
「そっかー」
何か良い案が浮かびそうになったが……やはりこの生き物といると考えが鈍る、この感覚を不快では無いと思うのが始末に悪い、気を引き締めねば。
とにかく今は、目の前の婚約者の姿勢を正すことから始めよう、それがいい。
親が求める理想の騎士になることがエウァルド・ディウエクチアの目標だが、今のまま鍛練していけば問題無く就任することがてきるだろう。
驕りでも、傲慢でもない、実績が積み上がればいずれ届くものだと知っている。
既に俺は兄と互角に打ち合えるようになった、後は応用ができるか否か、それも時間をかけ模索すれば良い。
難航すれば師を探し頭を下げ教えを乞う、その繰り返し、単純な話だ、だが簡単なものでもない。
問題は騎士になった後。
騎士の中の騎士に、人として強く正しくあれと唱える親の言葉に従うが、それだけではいけないと師たちは言っている。
生きる上での大きな目的が果たされて、その後はどう生きるのか、どう人生を積み上げていくのかを、知らないものだ。
深く考えなければならない。
騎士として生き、騎士として散れば良いとは思うが、それでは恐らく納得しないだろう。
少しばかり……答えを出すのが遅れそうだ。
「ねえーなんか更にでかくなってなーい? 」
何処か気の抜けた顔の婚約者が、肘をテーブルにつけ俺の顔を見て言った。
「なにがだ」
「身長だよ~、何センチ~? 」
「測ってないからわからん」
「うわ嫌味~」
「意味がわからん」
「んもー、エウァルドはすごいよねー、剣術? の大会で優勝したんだって? やばいねー」
「……まあな」
わざわざ二人で会うのだからと婚約者の侍女が用意した、広い庭園の茶席。
手間が省けると有り難く使わせてもらっているが、不機嫌な顔を隠しもしない婚約者の言葉にはついつい思考が鈍る。
「……アイス食べたい」
「食べれば良いだろう、侍女か執事にでも頼めば取り寄せることも容易い筈だ」
「そういうのじゃーないんだよーわかってないねー」
「なにがだ? 」
「今のはなんとなく言っただけだからそこまで食べたいわけじゃないんでーす」
「……話にならんな」
この生き物は相変わらず良く分からん。
貴族らしい振る舞いも、教育の行き届いた知性も持っている筈なのだが、何処か思考がずれている節がある。
「ああー……ココアおいしいぃ~」
「寝そべりながら飲むなばかもん」
「だってえ~」
もう少し努力すれば平べったくなれそうな勢いでテーブルに突っ伏す婚約者に己が課題に難航していたことが馬鹿らしく思えてくる。
「時期当主が聞いて呆れるな、全く」
「ええー、まあ、べっつにぃー? サボってる訳じゃないですしー? おじ様から出される課題が鬼だから疲れてるだけだしい」
「なにをしているのかは知らんがいずれは一族の長となるのだ、それくらいこなして見せろ」
「んー、わかってるけどさー、やるけどさー……めんどいよねー」
「それに関しては知らん、理解できん」
「ひどーい」
「ひどくて結構、ところであまり学園に顔を出していないと聞くが課題とやらが原因か? 」
「んー? 一応いるよー? 山籠りとか遺跡探索とか前はしてたけどおじさまもういないし、研究室に住んでるだけ」
「…………研究室は住む場所ではない」
「正論はね、人を傷つけるんだよ? 」
「知らんな」
「悲しいからケーキ食べる、氷で冷やした冷たいやつ、これ、美味しい」
「食べるのは勝手だが姿勢をどうにかしろ、喉が詰まってもしらんぞ」
「あーい」
「……はあ」
「たーめーいーきーつーかーなーいーでー」
「黙って食ってろ」
「うぎー」
頬に菓子を詰め込んで唸る婚約者、未だ理解ができない生き物だが7年も共にいれば慣れるというもの。
遠くない未来籍を入れ式をあげ共に暮らすことになるが、そうなると……俺が婿に入るのか、そうか、なるほど。
当主になり平たくなる婚約者の尻を叩きながらこの先を生きていくのか、そうか……わるくないな、じつにわるくない。
もし、この生き物が仮に当主を降りると仮定するならば。
課題に追われ逃げようとする婚約者の機嫌をとりながら騎士として過ごすと考えて……それもわるくないと思った。
特段不満点も無い、騎士になり生きていくという目標とも食い違わない、ならば、ならば……。
「……そうだな」
「エウァルドもケーキ 食べる? 」
「いらん、お前のために用意されたものだ、残さず食え」
「あーい、なんか考え事してたー?」
「いいや? なんでもない」
「そっかー」
何か良い案が浮かびそうになったが……やはりこの生き物といると考えが鈍る、この感覚を不快では無いと思うのが始末に悪い、気を引き締めねば。
とにかく今は、目の前の婚約者の姿勢を正すことから始めよう、それがいい。
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