燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

文字の大きさ
上 下
54 / 118
本編

四十三話 夢の目覚めと 朝のひと手間

しおりを挟む
起きたら目の前に、エウァルドさんのキリッとしたかおがすぐ近くに。


「ふむ」
「お……おはようございます? 」
「顔がむくんでいるなよし冷水で顔を洗え」
「んえ? ……んんん? 」
「朝だ」
「あさ……ああ、はーい」
いつもならゆったりと起きるのに、今日に限っては夢見が悪かったのか気分が悪い。
あたまが重いような、体が怠いような、ついついボーっとしてしまうような、シンプルに言えば寝起きが悪い。

「……ふう、ありがとうございますエウァルドさん」
「あぁ、おはようニッキー、まずは水を飲め、そこからだ」
「はーい」
椅子に行くのも億劫、足を動かすのも億劫、更に言えば体を起こすことすら面倒だと感じているしまつ、健康で外は晴れているのに体は重いとはこれいかにとな。

んん~……、まあ、こういう日もあるということで、のんびりすればいいのかしら、なんて思っておこうかな、なんて、えへへ。

なんでじぶんに言い訳してるんだろうね、やだね。

「起きないのか? 」
「んえ? 」
「二度目の睡眠は水を飲んでからにしろ、喉を傷める」
「いえ……起きます、よい、しょ」
のろのろと起きて、そのままの薄っぺらい気力でベッドから降りまして、鈍足な足取りで椅子に移動しまして、ここで鼻から思い切り空気を出して一息。

「水だ、氷も浮かしてある」
「わあ嬉しい、どうもどうも」
「ゆっくり飲むといい、ゆっくりだ」
「はい~」
「……ふむ」
「? エウァルドさん? 」
ゆっくり飲め言われたとおりに冷たい水を飲みほして、なんとなく横をみたらエウァルドさんの真顔のドアップひとつ見えましてまあ、びっくりするよねと。

「今日は調子が悪いようだがどうした」
「? いえそんな……調子が悪いわけではないんですよねぇ」
「ではなぜ浮かない顔をしているんだ? 」
「……うかないかお」
「ああ」
浮かない顔、うかないかお。

頭が重くて気持ちがよくないから、なんで頭が重いのかは、寝覚めが悪いから、いつも安眠寝起きもばっちり夢見も最高な自分が、今日はわるかった、うーむ? わかんないね、だからエウァルドさんに言えるのは。

「んー、わかんないですねー……」
目を閉じて、眠った後と、起きる前の記憶にもならないおぼろげな夢を思い出して、思い出して……なにかヤなことがあった気が、なにか誰か、だれか? よく理解できないもやもやが頭の中にできててほんとにやな感じ。


「ニッキー」
「はーい? 」
「それで俺が納得するとでも? 」
「やだこわ」
真横の顔のしわがふえてくふえてく、朝にそんな顔しちゃだめよ。

「隠しているお前が悪い」
「別に隠してるわけじゃあ 「今すぐ吐け」 そんな無茶な」
ほんとに無茶なだよ。

「ならなぜ落ち込んだ顔をしているのか納得できるものをだしてくれ、それで手を打とう」
「ええ~……」
そ、そんな無茶な話あるう? 

「いや、あのー」
「隠していないのなら言える筈だろう、言え」
ぴったりと横に座って腕組んで威圧たっぷりにみてくるエウァルドさんのなんとこわいこと、朝に見て良いものじゃないやつよこれ絶対。

「う、うーん、あのー」
「ニッキー」
「そう言われましてもねー」
「ニッキー、目を逸らすな」
ぎろりと睨まれたらそりゃあねえ? 綺麗な壁も見たくなるよね! うん! ……もういいか、観念しよ。

「あのですねエウァルドさん」
「なんだ」
「単にですね、単にですよ? 夢見が悪くて寝起きが最悪だっただけで別になんでもないです」
「……ふむ」
「ほんとですよ? 」
「ならば、そうか、信じよう」
「やたっ」
これで誤解も解けて変なわだかまりも生まれなくて双方ハッピー、だよね! 

「よし、マッサージでもするか? 血流をほぐせば気分もよくなる」
「いえゆっくりしたいのでお気持ちだけもらいます」
「ふむ、そうか……仕方ない」
「はいー」
時間を置けば改善する、それだけは分かるからここはのんびりとお茶でも飲んで、ん? 

おや? おやおや?

「ちょっと、エウァルドさん? 」
「なんだ」
「なぜ僕をお姫様抱っこしているのでしょう」
「お前を安全に運ぶにはこれが最適だからな」
「ふむ? それじゃあ何故僕をベッドに戻してるのでしょうかね」
「それが最善だからだ、うつ伏せにするぞ」
「はええー? わっぷ 」
そしてそして、僅か数歩、大きなしっかりした足取りでそれはそれは丁寧な所作で寝かされてうつ伏せにベッドに沈む僕の出来上がり、じゃないよおバカ、なんですかねこれ! 


「ではマッサージをはじめる」
「いやいやいや、お気持ちだけって言いましたよね?! 」
「そうだな」
「ならして貰わなくても……」
「これが最善だと判断したため確認だけした、以上だ」 
「はあああいぃ?! どういう思考してるんですあなたは! あ、ちょ」
「マッサージの腕には自信がある、寮で叩き込まれたからな」
「そういうはなしじゃ、あ、きもちい、すね」
「だろう? ……寝たな」
寝ちゃったね。

「すや……」
わずか十秒にも満たないマッサージにやられて二度寝をはじめたベッドの主と誇らしげな顔をするエウァルド君、そしてそして、タイミングよく扉が開いて館の主をしてる者がやってきた。


「君たちはなにをしているのかね」
「マッサージです」
「みればわかるよ、いや、下手に聞くのも馬鹿馬鹿しいな、はあ……」
邪悪な注射片手にやってきた父親が心底あきれた顔でやってきてため息ひとつ零してにっこり笑うと彼のマッサージをしていた男に声をかけた。

「背中をむいているのはちょうどいい、注射を打つから服をめくるの手伝っておくれ」
「御意」


あの子が朝の恐怖から逃れられたのを知ったのは大分後だったとかなんとか。




ずいぶんと面白いことをしているねあの子たち、羨ましいねぇ。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...