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本編
三十一話 目覚めて再開、理解を少し
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とても愉快な気持ちになっている。
とても喜んでいる。
とても参考になっている。
暗い暗い部屋のなかの大きな大きなベッド、綺麗に照らされた真っ白なベッドに寝かされた真っ白な人間。
今まで見たことの無い症例だ。
今まで見たことの無い検体だ。
観察しなければ、観察をしたい、させて欲しい。
容体は? 状態は? 痛みは?
記録に収めたい――それは叶わない願いだね。
未来に活かしたい――それはどうだろう、わからないね。
ならなんで僕はこれを見ているの? ――では逆に聞こう、何故君は”また”ここに来ているのだね? うーん、ちょっといけないよ? 君はまだこっちに来るには早いんだけどね……さて困った。
良い夢なのか、悪い夢なのか。
悪夢なのかそうでないかは分からないけれど、目覚めはすっきり、いい感じの夢を見た気がする、もう一回みたい。
ダンさんにぐっすりと寝かしつけられて快眠を味わってふわふわな日の光にゆっくり目を開けるとそこには笑顔のダンさん……ではなく。
「起きたか」
仏頂面のエヴァルドさんの顔があった。
「わあ」
わあ……。
心の声がそのままでてしまった、わあ。
「む、どうした?」
「……うーんと、とりあえず顔近いです」
不思議そうな顔で近づいてきたエヴァルドさんに反射的に手でガードをしてしまう。
「うむ、すまない」
離れていく無表情。
そして……そして。
「…………」
「…………」
目が合ったまま固まる。
「…………」
「…………」
なんとも言えない圧を感じながら横になるこの瞬間、なにか良い感じの返し、言葉を出せれば良いのだけれども……。
うーんうーん。
ど、どうしろと?
純粋な目で見れば寡黙でクール、ストレートに言えば何を考えているのかわからない。
イケメンなのは認めよう。
とても精悍でちょっと目元に皺が出来てるのも良いなとは思うけども、けども。
何故僕はこんなにもエヴァルドさんを観察出来ているのだろうか……うん、それはね、エヴァルドさんが僕の事を観察してるからだよ……。
僕がエヴァルドさんを観察して、エヴァルドさんは僕を観察している、この状態を数分……どうすれば良いのかね、これ。
「………どうした」
「はい? 」
「なにか動揺しているようだが……もしや記憶が戻ってきたか」
「いえそれはないです」
記憶とか重要な重たい話じゃないのよね……、なんて伝えればいいのやら。
「そうか……ふむ」
ちょっと悲しそうな顔をするエヴァルドさんにこちらもちょっと後ろめたく感じるけど、……どうしたものかと考える。
伝える言葉……言いたいこと……何故ここにいるのか?
あ、そうよ、なんでこの人ここにいるの、紛うことなき謎よ、まず考えなきゃいけないことじゃんそれ、何でエヴァルドさんいるのを受けいれてるの。
「あの……」
「どうした」
「エヴァルドさんはどうして僕の部屋にいるのかなーと思いまして…… 」
「……いてはいけないのか? 」
「いえそういう事ではななく……」
「いてもいいのか?」
「まぁ、はい、単純に疑問に思っただけで、特に深い意味はないです」
「…………そうか? 」
「そうです」
「ならいい」
うーん、うーん。
「あの、エウァルドさん」
「エウァルトだ」
「あ、はい、エウァルドさんと呼ばせていただき」
「エウァルドと呼べ」
「あー……慣れたら、で」
「……そうか」
残念そうに眉を下げたエウァルドさんはそのまま僕を見ている……見ている……みている。
「……」
「……」
気まずさと言ったら、かなりのものよ、これ。
「あの、エウァルドさん」
「なんだ」
目が合って数分、無表情のエウァルドさんにたまらず声をかけた。
「ずっと僕の顔を見ているようですが……なにかあるのかなあ、と思いまして」
「そうか」
「……なにか考えてます? 」
良く言えば、く、くーる? オブラートに包めばちょっと話辛いというかぁ、ストレートに言うと怖い、うん。
「特別なにかを考えているわけではないが、ひとつ言うならば、お前の事を考えている」
「……エウァルドさん? 」
「エウァルドと呼んでくれ」
「ああ、はい」
「……そうだな、ああ、お前の事を考えているとも」
「えっと」
会話がずれてる気がする、微妙に噛み合ってない気がする。
「例えば」
「ああ、はい」
「お前が今、なにを考えているのか気になっているな」
「……というと? 」
「今何を思って俺と会話をしているか教えてくれ」
……んんん、ん~?
う、うん、ちょっと理解した。
「先に、起き上がってもいいですか? 」
「手伝おう」
多分というか絶対この人は良い人だと思うから、仲良くなれたらいいなあ。
とても喜んでいる。
とても参考になっている。
暗い暗い部屋のなかの大きな大きなベッド、綺麗に照らされた真っ白なベッドに寝かされた真っ白な人間。
今まで見たことの無い症例だ。
今まで見たことの無い検体だ。
観察しなければ、観察をしたい、させて欲しい。
容体は? 状態は? 痛みは?
記録に収めたい――それは叶わない願いだね。
未来に活かしたい――それはどうだろう、わからないね。
ならなんで僕はこれを見ているの? ――では逆に聞こう、何故君は”また”ここに来ているのだね? うーん、ちょっといけないよ? 君はまだこっちに来るには早いんだけどね……さて困った。
良い夢なのか、悪い夢なのか。
悪夢なのかそうでないかは分からないけれど、目覚めはすっきり、いい感じの夢を見た気がする、もう一回みたい。
ダンさんにぐっすりと寝かしつけられて快眠を味わってふわふわな日の光にゆっくり目を開けるとそこには笑顔のダンさん……ではなく。
「起きたか」
仏頂面のエヴァルドさんの顔があった。
「わあ」
わあ……。
心の声がそのままでてしまった、わあ。
「む、どうした?」
「……うーんと、とりあえず顔近いです」
不思議そうな顔で近づいてきたエヴァルドさんに反射的に手でガードをしてしまう。
「うむ、すまない」
離れていく無表情。
そして……そして。
「…………」
「…………」
目が合ったまま固まる。
「…………」
「…………」
なんとも言えない圧を感じながら横になるこの瞬間、なにか良い感じの返し、言葉を出せれば良いのだけれども……。
うーんうーん。
ど、どうしろと?
純粋な目で見れば寡黙でクール、ストレートに言えば何を考えているのかわからない。
イケメンなのは認めよう。
とても精悍でちょっと目元に皺が出来てるのも良いなとは思うけども、けども。
何故僕はこんなにもエヴァルドさんを観察出来ているのだろうか……うん、それはね、エヴァルドさんが僕の事を観察してるからだよ……。
僕がエヴァルドさんを観察して、エヴァルドさんは僕を観察している、この状態を数分……どうすれば良いのかね、これ。
「………どうした」
「はい? 」
「なにか動揺しているようだが……もしや記憶が戻ってきたか」
「いえそれはないです」
記憶とか重要な重たい話じゃないのよね……、なんて伝えればいいのやら。
「そうか……ふむ」
ちょっと悲しそうな顔をするエヴァルドさんにこちらもちょっと後ろめたく感じるけど、……どうしたものかと考える。
伝える言葉……言いたいこと……何故ここにいるのか?
あ、そうよ、なんでこの人ここにいるの、紛うことなき謎よ、まず考えなきゃいけないことじゃんそれ、何でエヴァルドさんいるのを受けいれてるの。
「あの……」
「どうした」
「エヴァルドさんはどうして僕の部屋にいるのかなーと思いまして…… 」
「……いてはいけないのか? 」
「いえそういう事ではななく……」
「いてもいいのか?」
「まぁ、はい、単純に疑問に思っただけで、特に深い意味はないです」
「…………そうか? 」
「そうです」
「ならいい」
うーん、うーん。
「あの、エウァルドさん」
「エウァルトだ」
「あ、はい、エウァルドさんと呼ばせていただき」
「エウァルドと呼べ」
「あー……慣れたら、で」
「……そうか」
残念そうに眉を下げたエウァルドさんはそのまま僕を見ている……見ている……みている。
「……」
「……」
気まずさと言ったら、かなりのものよ、これ。
「あの、エウァルドさん」
「なんだ」
目が合って数分、無表情のエウァルドさんにたまらず声をかけた。
「ずっと僕の顔を見ているようですが……なにかあるのかなあ、と思いまして」
「そうか」
「……なにか考えてます? 」
良く言えば、く、くーる? オブラートに包めばちょっと話辛いというかぁ、ストレートに言うと怖い、うん。
「特別なにかを考えているわけではないが、ひとつ言うならば、お前の事を考えている」
「……エウァルドさん? 」
「エウァルドと呼んでくれ」
「ああ、はい」
「……そうだな、ああ、お前の事を考えているとも」
「えっと」
会話がずれてる気がする、微妙に噛み合ってない気がする。
「例えば」
「ああ、はい」
「お前が今、なにを考えているのか気になっているな」
「……というと? 」
「今何を思って俺と会話をしているか教えてくれ」
……んんん、ん~?
う、うん、ちょっと理解した。
「先に、起き上がってもいいですか? 」
「手伝おう」
多分というか絶対この人は良い人だと思うから、仲良くなれたらいいなあ。
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