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本編

二十四話 進展は少し だが好転は無く

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しっかりと構えなければいけないのに、どうしようもない甘い考えをしてしまう。

……とりあえずいいか。




「記憶が無いと聞いたが……本当か」
何を聞きたいのだろうか、その質問に僕は満足の行く答えが出せるのか。


真剣な顔のエウァルドさんとぼんやりと頭の片隅で考え事をしつつ雑な返事を僕はする。

「ああはい、無いです」
「どれ程だ?」
「……はい?」
「どれ程、どの程度……忘れているんだ?」
「……うーんと」
大変難しい質問じゃあないか、どうすんのこれ。



僕の手を包んで絶対離さない手をちょっと見て、熱い気持ちだけは伝わるけど、それ以上は特に思うところはなし。

あるのは逃避したい欲と少しの迷惑な気持ち、これまたどうしようも無いことに迷惑ではあるけど嫌ではない……手遅れだなぁ。



「二、ニッキー……!」
「はい何でしょう」
「何か少しでも……引っ掛かりや、何か……覚えている事があれば……教えてくれ」
「……ええっと」
少しわかりづらい言葉に理解が遅れつつ、力強いエウァルドさんの目に耐えられず目を剃らして考える……何を考えろと言うのかさっぱりわからん。



「頼む」
「……少しお待ちを」
どうしよう……手短に終わらせて欲しいなんて最低な事考えてるぞ自分。


楽をしたい怠惰の本音はお茶を飲み喉を潤して誤魔化して。

ちょっとの嫌悪感は甘いお菓子で舌を喜ばせてどうにかする。

エウァルドさんに不満があるわけでもこの今の状況に不平がある訳でもなくて。

余裕からくるどうしようも無い我が儘をぐっと頭の隅に押して抑えて、よし。



「覚えている……というと、具体的には」
「全部だ」
「ごめんなさいそれだと分からないです」
首と腰の力を抜くことを意識してリラックス……眠くなってきた、却下。




「そう、だな……なんと言えばいいか」
厳めしい顔をして考え始めるエウァルトさんを見つつ、少し僕も考える。



そもそもその答えを出すには僕には材料が少ない、いやほとんど無いに等しい。


覚えていることを教えてくれと言われたけれど教えられる事と言えば……なんだろうか。

ここでの穏やかな生活の記憶と言うにはなんて事無いもの。

それ以外となると、あのベッドと本棚しかない部屋の、ただひたすらに苦しかった記憶。

それ以外……それ以外は……特に……うん。

今考える事でもないし、違う所で考えてもしばらく落ち込むだろうから無かった事にしよう、うん。


……まってなんか揺すられてない?


「ニッキー……ニッキーっ!」
「あ! はいすいません考え事してました! 」
「……大丈夫か?」
「ええ大丈夫です、問題無いです」
ちょっと顔色の悪くなったエウァルドさんが僕の肩を掴んでいる。

……ちょっと思考の世界に行きすぎてた、危ない危ない。


「体調が悪ければこの話は次回にするが……」
「ああいえ、その必要はないです」
「本当か……?」
「本当です」
恐る恐る訪ねてくるエウァルトさんににっこり今できる最大限のスマイルを返して居ずまいを正す。


「ええと、何処まで覚えているか、何か覚えてる事は無いかという質問で間違いないですね?」
「っ、 そうだ!  」
部屋に響くエウァルドさんの声に圧されてたじろぎつつ。

「先に断言させて頂くとですね、何もありません」
後の事は全く考えず、ただ今のこの雰囲気が保てればいいやという邪な気持ちを隠して最大限のスマイルをそのままに僕は答える。


「全く、欠片もピンと来るものも無ければ多分、面識のあったであろうエウァルドさんの事もさっぱりわからないですね」












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