燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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※※※






物心がつき騎士を目指そうと志した時、婚約者を紹介された。

生まれた時から決まっていたようだがなんと男、しかも跡取りとなる筈の長男だ。


日々勉学に勤しみ、厳しい鍛錬をする隣でいつの間にか現れ寛ぎ、勝手に居場所を作るが決して煩わしくない猫のような婚約者に何度癒され救われてきたか。

個人の意思を無視して突然できた男の婚約者に当初拒絶の気持ちが強かったが、馴染んでいくうち自然と気にならなくなった。

花は好まないが甘い蜜は好み、賑やかな場は好きだがその輪に入るのは躊躇う、それでいてちゃっかりと美味しいものは得ていくようで、少しだけ損をしている男に名前のつかない気持ちが蓄積され、いつかはその鬱憤を晴らしてやろうと心の奥底に収め、訓練を続ける。

今自分がすべきことは、国のため、家のため己を鍛え、騎士になる。

騎士になり安定した時には、図々しくも芯は太い婚約者と暮らしていけば良いと、考えている。

煩わしいものを好まない自分と、良くも悪くも自己完結している奴との相性は悪くないと見ている。



そして騎士となった今。

周りでは愛や恋と惑う者が多いが強烈な恋というものを経験してないからか、未だ理解ができていない。

だが経験を積み重ね幾ばくかの余裕のできた今。
今年卒業を迎える学生の身の婚約者の事が頭から離れず、気になってしまい仕方がない。


特別な感情は恐らくない、ないが……どのように暮らし、どのような学びを得て、なにを食べどのような表情を浮かべているのか……つい考えてしまう。

少し気が抜けているから他生徒や弟に不当に害されていないか……悩みはできていないだろうか。

もし悲しむような事が起きたのなら直接出向いて解決してやりたい。

叶うのなら、生活する様子をすべて観察して、世話をしたい。



訓練場は当然、城の見回りや警備、野外での任務を遂行する際にも常に頭の片隅に婚約者の顔を浮かべ、答えの見つからない問いを繰り返し、宿舎で手紙を綴っては送れずにいる。


この名前の見つからない言いようのない焦燥感は好奇心から来ている事は明白だが、いざその婚約者を前にするとまともな話題がだせない自分がいる。


悲しきことに学園にいた頃も会話らしい会話は出来ていない。

己の不徳であり未熟の極みなのだが、自ら進んで話題を提供するには経験が浅すぎるあまり頭で思い浮かべては口に出せないでいた。



言葉に出せないのならば行動に移すまでと、学園卒業を控えた婚約者にここは一つ盛大な贈り物をしたいと考えるが、恐らく盛大が過ぎれば微妙な反応をすることだろう。



教会の者程ではないが、派手なものを好まない婚約者に合うものは一体なんだろうか、なにを贈れば喜ぶだろうか、とても難しい。



首につけるネックレスか耳につけるイヤリングか、腕につけるプレスレットか、二人の瞳の色は当然として、好みを確かめ意見を聞かねばならない。
二人で住む屋敷の使用人はそこそこに、護衛は多く、穏やかな空間を作ればきっと、きっと気に入ってくれる。



あとすこし。



あとすこし待てば、共に暮らせる。



共に暮らし言葉に出せない代わりに行動で示し、今までの気持ちを伝えそして、暖かな暮らしを送りたい。


例え失敗したとしても式を上げてしまえば何度でもやり直しが効く、改善点をみつけ治しお互いの事を知って分かり合う、それが夫婦なのだと教わった。



あと、3カ月。


諸々の計画を進めようと考えていたある朝、突然団長に呼び出された。


急な任務かと考え部屋に行くと、団長は青ざめた表情で言った。



「朝早くすまないが……任務だ、正門に大事な客人を乗せた馬車が来るから、丁重に陛下の元へお連れしてくれ」







※※※

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