燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

十六話 甘やかしたい父と理解が追い付かない息子

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「まず、敬語は無くすとして……」
「ちょっと……それは」
「ん? 」
「いえ、なんでも」
怒られているわけではないのに萎縮してしまう僕を足を組み悪そうな笑みで見るお父様がいた。


「ベッドの上にいるだけでは元気になれないだろうから……そうだな、散歩、編み物、読書が一般的だがどう思う?」
「それで大丈夫だと思いますけど……」
読書は元からしていて編み物は……やった事ないけど楽しそう。

「ふむ、ダンはどうだ、何か意見があれば聞くが」
なんでそこでダンさんに聞くの、ちょっと今日のダンさんへの評価危険なことになってるんですけど。


「そうですね……、ここはひとつ、ニッキー様に直接聞き、要望を叶えた方が賢明かと」
「え、ダンさん?」
やりたいことなーに、とか聞かれても困るよ僕。

「間違っていたら申し訳ないのですが……ニッキー様は迷惑のかかることは極力我慢した方が楽だと思ってらっしゃる節がございますので、そちらをまず改善して頂き」
「へ!? ……そういうのなんでわかるんです? 怖いですちょっと」
間違っていたら胸を張って違います! って言えるのだけど、残念なことに九割位あってる……なんであってるの?

「驚かせるつもりは無かったのですが……実はわたし、以前は王都の騎士団に在籍しておりまして」
「おお……すごい」
騎士の服着てるし体ムキムキだしね、納得。

恥ずかしそうに頭をかくダンさんだけど、純粋にすごいなと思う。


「そこで少々、拷問……いえ尋問……お話をすることが得意になりまして」
「え? 」
「その技能を活かしまして、ある程度人が何を思っているのか、どのような事をしたいのか簡単な推理、分析のような事が出来るようになったのです」
「いや、こわいこわいこわい……」
それって、あれでしょ? 探偵とかそういった類の……、ダンさんが?
まって拷問とか言ってなかった? 

「約3ヶ月、ニッキー様のお側に仕えさせて頂いたのですから当然、性格や趣味嗜好、考え方等簡単な部分は把握致しました、よければ紙に纏めたものがございますのでご覧になりますか?」
「いえいえいえ結構です……!! なんかその、ダンさんってもしかして凄い人だったりします?」
「いえいえ……ただの少し腕の立つ老いぼれですとも」
「……少し?」
「はい、少し 」
恐怖を、感じた。 

優しくて頼りがいのある包容力抜群のおじさまの認識は変わってないけど……怖い要素が増えた気がする……鳥肌立ってるし。


「ダンの事は追々聞いて見ればいい、それよりもだ、ニッキー、本題に戻すぞ」
「あ……はいっ」
よかった、話が落ち着く……落ち着くのかな。


「色々と例をあげてみたが特に急ぐ必要はない、急ぐ理由がないからな……少しずつで大丈夫だとも」
「……頑張ります」
ああうん、自分のペースでやらせてくれるのは凄いありがたい。

まったりとお茶でもすする生活でもしよう。

「それはそれとして、一週間以内にその言葉遣いを改めさせねばいかんがな」
「え!? 駄目なんですか?! 」
ええ……。

ずっとこの言葉で話してたから今更変えろだなんてそんな……。


「ここには極々親しいものしか呼ばぬし、畏まった言葉より親しみ深い喋り方の方が楽だろう……そうか、私を相手に一歩引いた付き合いを築こうとしているな? 」
「う……」
間違ってるような間違っていないような……お父様の視線が痛い。

「壁を作ろうとするなど度しがたいな……ああそういえば昔からそうだったな……、変わっていないのは喜ばしいが交流を深める事を面倒臭がる癖は治さねばならんな、気を付けよう」
うんうんと頷くお父様、穏やかな笑顔に恐怖を感じるダンさん。

……詰んでるねこれ、現状維持しようものなら突っつき倒されるよこれ。


「色々と……見抜かれてる感じがして……複雑な気持ちです」
やろうとしてる事が読まれてる感覚は少し怖い……、あと話にでる昔の僕は一体どんな子だっだんだろうと頭の片隅で思ったり……忙しい。


「知らないことの方が多いが息子の事は大体把握しているつもりだからな、見抜くとも」
「あの……正直お父様と呼んでますけど正直実感が無いんですよね」
そう呼べと言われてるから言ってるだけっていうのもある。

あ、 お父様の名前知らない、機会あったら聞かなきゃ……やること増えたあ。

「それは記憶が無いからだろう? 記憶を取り戻す治療はするが、今はただ新しい父ができたと思って存分に甘えてくれ」
「甘える……?」
「おうとも、欲しいものは好きなだけ与えるし、寂しいときは添い寝も喜んでしようではないか」
新しい父……甘える、添い寝、あっ。

「知ってますそれ、そういうのパパ活って言う 「そんなもの何処で覚えた」 えー……忘れました」
これはもしや失言をした判定なのだろうか、二人の視線が怖い。


「あー……、とにかく、明日からだ」
「明日」
知識はあるけど記憶はない、ちょっと都合が良いとこあるよねこれ。

怖い顔から苦いもの食べた時の顔になったお父様を眺めながら呑気におもう自分であった。



「難しい事も余計な事も考えずもっと気楽にここでの暮らしを謳歌してほしい……、欲しいものは欲しいと良い、嫌なものは嫌と言える子になるんだ」
「……頑張ります?」
「返事が怪しいな……」
「できるかはわからないですし……」
「ふうむ……」
多分今の僕の顔情けないことになってるなぁと少し思いながら、ちょっとお父様から目を離す。

「おおそうだ、ちょうど良い、あれを呼ぶとしようか」
「ん?……あれとは」
するとお父様は手を叩き言った。

なにをすればいいのかさっぱりだけど……あれってなんだろう。


「お前をとことん甘やかして程よく叱ってくれるよい男が一人いるんだ、その性格をよい方向に治していくのならちょうど良いだろう?」
「……よくわからないです」
「ダン、手紙の用意を」
「畏まりました」
部屋の外に行ったお父様、それについてくダンさん、入れ替わりで入ってきた知らない騎士服の人。


「ええっと……? はぁ……」
二人の消えていった扉を見て、ため息をつき、目を閉じる。

理解しようにもちょっと……疲れた。



いいや……横になろ。













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