燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

十四話 入浴と浮き輪 

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ごはんを食べてお腹を休めて、気づいたら健やかに寝てしまった。


時間がどれくらい経ったのかは考えないものとして、お風呂だお風呂、大きな湯船に肩まで沈んでお湯の温度に意識を傾けてぼんやりしたいな……疲れてんのかな、これ。


疲れてはないけどボロボロなことには変わらないから……つまり疲れてたと? うん?




「……ふう」
「ついたぞ! 」
「おお? おお」
お腹が膨らんで苦しくて動けない僕はダンさんに姫様抱っこで運んでもらい、前を歩くお父様の頭を眺めて、廊下の絵画や窓の外を見たりしていたら、ついたらしい。


ここはどこだ……考えに浸ってたからここが何処かさっぱり・・・…大きな引き戸があって開けたら……フローリングの床に広い脱衣場についた。




「広いですねえ……すごい」
「少し準備をするから待っていてくれるか? すぐ済むからな」
「はいー」
男3人が風呂に入ってお世話される光景を勝手に想像していたけどいざ現場を見て、ちょっと失礼だったなと反省を勝手にしつつ、明るく、暖かくポカポカとした部屋で、木の椅子に降ろされて、ダンさんとお父様は服を脱ぎ始めた。


ぬくぬくと暖まりながら眺めてちょっと眠くなったりするけど……ダンさんとお父様は、ムキムキだね。


騎士の服着てるだけあってダンさんは大きくて体中古傷だらけで、お父様もなんか筋肉あって古傷がちらほら。



「……」
この人達とお風呂に入ることを考えると……嫌悪とか拒否とかは全くないけどなんだろう、恥ずかしさに似たものを感じる。


逃げたいというよりは、転げまわりたいなーみたいな、我慢しようと思えば多分できる、些細なようでおおきな気持ち。
僕の体はまだまだガリガリの貧弱で誰かの手を借りなきゃお風呂どころかどこにもいけない、ゆっくり一人で入りたいからすごい悲しい。


「お待たせしました、もし少しでも体調が悪くなりましたらすぐに言ってください」
「はいー」
腰にタオルを巻いたダンさんが僕の前に膝をつき、にっこりと言った。


今更だけどダンさん身長も肩幅もでかいね、ちょっと目の前にこられると威圧感を感じるけど、優しいからプラマイゼロ。


んで?  この箱に服を入れると、ほうほうならここは自分で脱ぐ……駄目? いやでもこれ位なら自分でできるし自分で脱げああ~、……脱がされちゃった。
ならお風呂の扉まで歩きます! 無視されて抱っこされちゃった! ねえダンさんちょっとはリハビリをさせて!


「ダメです」
「悲しい」
にっこりスマイルで断言されて、向かうは浴室。



「……広い」
手狭な湯船で男3人ぎゅうぎゅう入る光景を想像してたけど全然違く、ベッドの部屋より更に広くて、大理石の床や壁には赤い綺麗な模様が描かれて、中央に大人5人は軽く入れそうな大きな湯船から湯気が出ている。


いいね、素敵だね。


「気に入ってくれたか?」
「とっても」
「それは良かった、作ったのは私ではないがここは中々に良い、遠くないうち体を治したら必ず、私自慢の温泉に連れていってやろう」
「温泉……、良いですね」
想像しただけだワクワクする。


「早めに済まそう、ダン、頼むぞ」
「畏まりました」
「え? なにがです?」
「なーに……目を閉じて楽にしていれば終わる」
お父様がご機嫌なのは良いけど……?


「え?」
「最大限痛くないようにするが、痛かったら遠慮なく言ってくれ」
「なにがです……ん? なにを持って」
「石鹸」
風呂の椅子に座らされて……、ああなんだそういうこと。


「なら自分で」
「目を瞑れ~、お湯かけるぞ~」
「え、ちょ、ダンさんはなにをしてるんですか?」
「浮き輪の用意をしております」
脱衣室に戻っていったダンさんに声をかけると顔だけ覗かせてにっこり。


「あー浮き輪、え、浮き輪? ……浮き輪?! わぷっ」
「5分でピカピカにしてみせよう、さあ行くぞニッキー!」
あー……、うん、お湯あったかい!









ぷかぷかと、浮き輪に収まりお湯の中……よく分からない気持ちでお父様の笑顔を見てる僕です。

色とりどりの花びらが水面に揺れて、黄色味を帯びたお湯は柑橘系の香がして気分が良くなる……それはいいのだけど。



「……ふうう」
疲れてしまった、人に洗われるのってこんな疲れるのね、びっくり。
ダンさんが持ってきたこの黄色い浮輪、枕みたいに柔らかくてリラックスしてお湯に浸かれて和んでしまった、ちょっと悔しい。


そんな僕の気持ちなど全く知らないであろうお父様はにこにこしているし……ダンさんは僕の隣で浮輪が動かないようにしてくれてるからとりあえずヨシ。



「息子を洗う機会なぞそう無いからな、中々に貴重な体験をした、感謝するぞ」
「すごい複雑な気持ち、です」
「そうか? それにしては気持ちよさそうにしていたがな」
「いやまあそれは……気持ち良かったので」
心労は酷いけど髪を洗われた時の心地良さは本物……お父様はあれだけど。



「そうだろうそうだろう、毎日洗おうじゃないか」
「遠慮しておきます」
「拒否は知らん」
「……ふ~」
反論をするには疲れすぎてるから、また今度ね。

疲れてはいるし、その元凶はお父様にあるけれど、若干構われて嬉しいと喜ぶ自分がいるからちょっと手に負えない。


「どうだ、気持ち良いか?」
「とっても……なんか、良い感じです」
この気持ちにピッタリの言葉が見つからない……どうでもいいか。

ゆらゆらと浮輪に揺られて程よい温度のお湯にはいってればもう……ね? 



「気持ち良すぎて眠くなってきました」
眠い……。

「そうかそうか、のぼせる前に運んでやるから好きに眠ると良い」
「あー、それは、素敵ですねえ」
寝ても溺れる心配ないとは……最高。


「だろう?」
洗われて清潔になって……浮き輪は、これ気にいったから部屋にもって行きたいな、程よくて、いい。
すんごく気持ちよくて……眠くなってきちゃった。



「気にいってくれたのは嬉しいが浮輪か……、少し厳しいな」
「え? ああ、眠いときの緩い願いだから気にしないで欲しいです」
思い付きのわがままだしこれ以上迷惑かけるのは申し訳なさすぎる。

「……何故だ?」
「今すごい眠くって寝て起きたらちょっと後悔することしか言えないだろうし、聞き流してくれると嬉しいですし……迷惑かなって」
ただのお荷物が不満しか言わないなんてとんでもなく失礼だし……邪険にされたら泣く自身ある。



「私としては迷惑だとは微塵も思わんし、何故申し訳ないと思ってるのか不思議でならんのだが」
いや、だって……。

「僕はなんにもできないから……申し訳無さしか無いんですよ」
「……なにもしなくて良いんだぞ」
「そういう訳には行かないです……勝手に思ってるだけなので今言うことは眠い人間の戯言だと忘れて欲しいんですけど……良いです?」
「なんだ? 言ってみろ」
眠い……目を開けらんない。

浮輪を枕にするのが最高すぎる……はあ、ダメだな。


「なんて言えば良いんだろう……今のところ僕って、お父様も、ダンさん達の事なんにも知らないし、体もなんでこんな事になってるのか分からないし……すごい良くしてもらって、僕に恩返しできるものなんてなんにもないし……どうしてこんなに優しくされるんだろうって考えても答えが出てこなくて……申し訳ないなあって」
「……ニッキー」
「その名前も、ほんとに僕の名前なのかも分からない……凄い人なのはここにいる人の態度で分かるけど、……僕には関係ない事にしか思えなくて、そのニッキーって人に申し訳ないなあって、うむ……寝るね」
「なんだと? 待て! もう少し」
ふわふわとした感覚が気持ちよすぎて、もう限界。



「分からない事だらけでほんと……嫌になっちゃう」
「……ニッキー」
















★★★

読んでいただきありがとうございます

たくさんのお気にいり、感想とても嬉しいです!




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