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本編
十一話 元気な不審者と侍女 冷静な主と騎士
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楽しい夢を見た気がする。
とても心踊る夢、でも忘れてしまった。
勿体ない……多分目の前に不審者がいなければ覚えてた、悔しい。
「起きたな!? よしよしよし、偉いな最高だ、少し腕を触るぞ?」
目と鼻の先に抱きついてきた不審者がいて、にっこりスマイルから僕の寝起きが始まった。
「んう……?」
「うむ! 脈拍心音平均よりも下、顔色良好だが目はどうだ? よし充血も黄ばみもない、よろしい」
目を……ぐいって開かれてすごい見られてる。
「体も問題なく活動して衰弱している点さえ除けば健康だ! 偉いぞニッキー、おまえは天才だ!」
起きて早々腕と顔をこれでもかと触られて固まる僕に満足げに頷く老年の男性。
「……」
「腹は空いてるか? 内蔵は傷ついておらぬからな、体力がつく料理をこの父自らが披露して見せようではないか! 」
「え?」
「おおそうだ、のどが渇いているだろう? 冷たい水と常温の水を用意したがどちらが良い」
水差しの乗った動くテーブルをベッドに寄せて聞いてくるおじいちゃん。
おじいちゃんと言うよりパッと見は若々しいおじさんと言った方がふさわしい気がする。
どことなく穏やかな感じがするから固まってるだけで済むけど、これでダンさんより若い人だったら怖くて悲鳴あげてたよこれ。
「……んん? 」
「まあ両方用意すればよいだろう、残った方を私が飲めばいい」
「えーっ……と」
「さっ、どちらを飲む? 」
笑ったときに出る真っ白な歯が輝いている。
「…………」
「ん? さては私が誰か分かってないな? 安心しろ、私は父だ」
ちち……。
うわぁ……。
「父、というのは」
「言葉の通りおまえは私の可愛い可愛い息子だ、そして私はおまえを愛する万能の父、今はそう覚えておいてくれ、起きれるか? 」
「ああ、はい」
「うむうむ、初めて会う者とは上手く話せなかったな……懐かしい」
「よい……しょ」
しみじみとしているおじいちゃんを余所に、起き上がった僕はキョロキョロと部屋の中を見る。
「あの……」
「どうした?」
「ダンさんは……」
信頼できる人……。
「なっ、父を前にして別の男の名を呼ぶとは酷いぞ?!」
「……ええ」
「今おまえを世話しているのは私だ! 用があるのなら全てこの父に言うと良い!」
うわ……この人すごいめんどくさい人だ。
今更ながらおはようございます、自分。
目の前のおじいちゃんのテンションについていけません助けてダンさん。
あの落ち着いた出来る大人の雰囲気が一番和む……どこ行ってしまったの。
「……ふう」
上機嫌な不審者が部屋から出ていき、入れ替りでメルディアさんがやってきた。
落ち着いた空間で水を飲み、息を整える。
「ニッキー様、ニッキー様っ、少しよろしいでしょうか!」
「はい、なんでしょう」
「こちらを、よければどうぞ! 」
本を手にやってきたメルディアさんはそれを僕に渡すと、嬉しそうにニコニコと笑った。
「これは、小説?」
「はい! いま王都で流行している恋愛小説でございます! いつも外の景色を見ていらっしゃるのでもし良ければ……如何でしょうか」
ハキハキと喋っていくうちに自信が無くなってきたのか最後は小さな声になってしまったメルディアさん。
「ふふ……」
恐る恐る聞いてくるメルディアさんが少しだけ可笑しくて不謹慎にも笑ってしまう。
「……ニッキー様?」
「すいません、少し面白くて、これは大事に読ませて頂きます、愛とか恋とか……大好きなので」
「っ! よかったぁ……!! もし読み終わった是非語り合いま」
「おいコラ」
「ひぃ……! 」
メルディアさんのテンションが上がった瞬間、呆れ顔のダンさんがやってきた。
「なにしてんだ阿呆……本か、あのなあ、ニッキー様にお渡しするのは構わんが俺のチェックを通してからにしてくれや、いいな?」
「はいぃ……申し訳ありません」
「もし本の間に刃物でも入ってたら大変だから……お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」
「いえ、そのまま続けて頂いて大丈夫です」
叱るダンさんと叱られるメルディアさんを見るのは嫌ではない、ちょっとどうなるか気になる。
「では説教はこれでおしまいですね!?」
「終わるわけねえだろ、こっちこい」
「なんで……!!」
こっちこいというジェスチャーをして廊下に出たダンさんと、心なしか絶望してついていったメルディアさんを笑顔で見送り、手に持つ本を開く。
「……恋愛、か」
うん、いいね、好き、大好き。
誰かに恋をして好かれたいと努力して、それが叶う物語ならきっと楽しくなるだろう。
大事にされて愛しあって、ハッピーエンドならもっと楽しい……。
本を読んだ記憶は無いけど、本を持つ僕の心がとても浮わついているから多分読書好きだったと思う。
なんせ、愛されるということは常に誰かに構われるということだ、つまり寂しい時間がほとんどない。
寂しいときも愛しい人のことを考えれば楽しいということ、……いいなあ。
「よし」
さあ、いざいかん物語の世界へ。
「遅くなってすまないニッキー!! 食事の時間だ!」
「…………タイミングが悪い」
「む!?」
チッ。
★★★
読んで頂きありがとうございます!
とても心踊る夢、でも忘れてしまった。
勿体ない……多分目の前に不審者がいなければ覚えてた、悔しい。
「起きたな!? よしよしよし、偉いな最高だ、少し腕を触るぞ?」
目と鼻の先に抱きついてきた不審者がいて、にっこりスマイルから僕の寝起きが始まった。
「んう……?」
「うむ! 脈拍心音平均よりも下、顔色良好だが目はどうだ? よし充血も黄ばみもない、よろしい」
目を……ぐいって開かれてすごい見られてる。
「体も問題なく活動して衰弱している点さえ除けば健康だ! 偉いぞニッキー、おまえは天才だ!」
起きて早々腕と顔をこれでもかと触られて固まる僕に満足げに頷く老年の男性。
「……」
「腹は空いてるか? 内蔵は傷ついておらぬからな、体力がつく料理をこの父自らが披露して見せようではないか! 」
「え?」
「おおそうだ、のどが渇いているだろう? 冷たい水と常温の水を用意したがどちらが良い」
水差しの乗った動くテーブルをベッドに寄せて聞いてくるおじいちゃん。
おじいちゃんと言うよりパッと見は若々しいおじさんと言った方がふさわしい気がする。
どことなく穏やかな感じがするから固まってるだけで済むけど、これでダンさんより若い人だったら怖くて悲鳴あげてたよこれ。
「……んん? 」
「まあ両方用意すればよいだろう、残った方を私が飲めばいい」
「えーっ……と」
「さっ、どちらを飲む? 」
笑ったときに出る真っ白な歯が輝いている。
「…………」
「ん? さては私が誰か分かってないな? 安心しろ、私は父だ」
ちち……。
うわぁ……。
「父、というのは」
「言葉の通りおまえは私の可愛い可愛い息子だ、そして私はおまえを愛する万能の父、今はそう覚えておいてくれ、起きれるか? 」
「ああ、はい」
「うむうむ、初めて会う者とは上手く話せなかったな……懐かしい」
「よい……しょ」
しみじみとしているおじいちゃんを余所に、起き上がった僕はキョロキョロと部屋の中を見る。
「あの……」
「どうした?」
「ダンさんは……」
信頼できる人……。
「なっ、父を前にして別の男の名を呼ぶとは酷いぞ?!」
「……ええ」
「今おまえを世話しているのは私だ! 用があるのなら全てこの父に言うと良い!」
うわ……この人すごいめんどくさい人だ。
今更ながらおはようございます、自分。
目の前のおじいちゃんのテンションについていけません助けてダンさん。
あの落ち着いた出来る大人の雰囲気が一番和む……どこ行ってしまったの。
「……ふう」
上機嫌な不審者が部屋から出ていき、入れ替りでメルディアさんがやってきた。
落ち着いた空間で水を飲み、息を整える。
「ニッキー様、ニッキー様っ、少しよろしいでしょうか!」
「はい、なんでしょう」
「こちらを、よければどうぞ! 」
本を手にやってきたメルディアさんはそれを僕に渡すと、嬉しそうにニコニコと笑った。
「これは、小説?」
「はい! いま王都で流行している恋愛小説でございます! いつも外の景色を見ていらっしゃるのでもし良ければ……如何でしょうか」
ハキハキと喋っていくうちに自信が無くなってきたのか最後は小さな声になってしまったメルディアさん。
「ふふ……」
恐る恐る聞いてくるメルディアさんが少しだけ可笑しくて不謹慎にも笑ってしまう。
「……ニッキー様?」
「すいません、少し面白くて、これは大事に読ませて頂きます、愛とか恋とか……大好きなので」
「っ! よかったぁ……!! もし読み終わった是非語り合いま」
「おいコラ」
「ひぃ……! 」
メルディアさんのテンションが上がった瞬間、呆れ顔のダンさんがやってきた。
「なにしてんだ阿呆……本か、あのなあ、ニッキー様にお渡しするのは構わんが俺のチェックを通してからにしてくれや、いいな?」
「はいぃ……申し訳ありません」
「もし本の間に刃物でも入ってたら大変だから……お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」
「いえ、そのまま続けて頂いて大丈夫です」
叱るダンさんと叱られるメルディアさんを見るのは嫌ではない、ちょっとどうなるか気になる。
「では説教はこれでおしまいですね!?」
「終わるわけねえだろ、こっちこい」
「なんで……!!」
こっちこいというジェスチャーをして廊下に出たダンさんと、心なしか絶望してついていったメルディアさんを笑顔で見送り、手に持つ本を開く。
「……恋愛、か」
うん、いいね、好き、大好き。
誰かに恋をして好かれたいと努力して、それが叶う物語ならきっと楽しくなるだろう。
大事にされて愛しあって、ハッピーエンドならもっと楽しい……。
本を読んだ記憶は無いけど、本を持つ僕の心がとても浮わついているから多分読書好きだったと思う。
なんせ、愛されるということは常に誰かに構われるということだ、つまり寂しい時間がほとんどない。
寂しいときも愛しい人のことを考えれば楽しいということ、……いいなあ。
「よし」
さあ、いざいかん物語の世界へ。
「遅くなってすまないニッキー!! 食事の時間だ!」
「…………タイミングが悪い」
「む!?」
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