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本編
七話 従者は主を取り戻し 主は名を知る
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「もう大丈夫です、ありがとうございます」
コップの水を飲むぼくの様子をじっと見つめる二人。
部屋の隅で縮こまっている茶髪の女性メルディアさんと、まだ名前の知らない騎士服のダンディな男性。
水を飲む僕を見て彼らの表情が少し柔らかくなった。
突然メルディアさんの登場には冗談抜きで死が見えたけど……。
驚いた拍子に水の飲み方を体が思い出してくれたらしく、問題なく飲めるようになったから、とりあえずよし。
「それならばよいのですが……」
「ちょっと水の飲み方を忘れてしまってたみたいで……次からは大丈夫です」
「……なにかお体に不調などございましたら必ず言ってください 」
水の飲み方を忘れるって相当な事だけど、今は放っておいて欲しい。
「はい、ありがとうご」
「礼の言葉は不要でございます、ニッキー様」
すげなく却下されてしまった、悲しい。
見ず知らずの人にこんなに優しくて包容力抜群で大きいのにお礼は全面却下とは……。
「……その、初めて会う僕にこんなに優しくてして頂いて純粋に嬉しいので、お礼の言葉は出させてほしいなと、思います」
恩人に対して厚かましいとは思うけど気持ちはきちんと伝えておきたい。
ちょっと照れそうになる顔を抑えるために目を剃らし、もう一度男性を見てその感情が消える。
「今……なんと」
にこやかだった男性が、真顔に……なっている。
「ああいえ、なんでもないですすいません」
男性の声がまた低くなり、慌てて頭を下げる。
座った体勢で頭を下げるのは腰に悪いけどこの際関係ない、さーせんした。
「っ! ニッキー様、ニッキー様どうか顔をあげてください 」
少し調子に乗りすぎたか、ルールは守らなきゃね。
「あぁ、はい」
慌てたような男性の声に申し訳ない気持ちが沸いてきた。
「決して責めるつもりは無いのです、お心を害してしまい申し訳ございません」
「ああいえ、そんな」
「お体に触りますのでどうか楽な体勢に」
やんわりと肩を押され元の座る形に戻り、その上男性の笑顔に完全に落ち着かされた僕は今、すんごい絆されてる。
「あの……すいませ」
「謝罪の言葉は不要でございます」
謝罪もどうやらダメらしい、どうすれば良いのか。
「それよりもニッキー様にお尋ねしたいことがあるのですが……初めて、とはどういうことでしょうか」
「えっ……と」
「初めて会う、と仰りますがそれはどういう事か……是非お教えいただきたい」
優しい声なのに体がかちこちに固まりそうな男性の雰囲気に飲まれ、笑顔のまま僕は固まり、考える。
「初めて……というのは言葉通りで、動くこともままらない僕を介抱してくれた貴方達と僕は初めて会ったやけなので……お礼をと」
「そんな! ニッキー様それはあんまりです!!」
「待て、逸るなもう少し耐えていろ」
口を抑え震え始めたメルディアさんに男性は睨みを効かせ場の空気が張り詰めていく。
「あの……」
「はいなんでしょう」
これは……記憶が全くないことを言った方が良いのだろうか、奇異な目で見られないだろうか。
いや、元から可笑しな事になっているのだから今更ひとつやふたつ増えても、変わらんだろう。
「その、先程仰っているニッキー様というのは、僕のことであってますか?」
「は……」
「え?!」
目を見開く女性、口を半開きにする男性を視界に納め、もうひとつ。
「それと、記憶がほとんど無いみたいで……自分は一体誰なのか何故ここにいるのか、何故体がこんなことになっているのか全く……わからないんです」
いわゆる、記憶喪失、なのかはたまた最初からそういう記憶が無いのかわからないが、2人が僕のことを嫌わない事を祈る。
「記憶が……無い」
「それは一体どういう……、え、ニッキー様……? 記憶……え?」
ニッキー様というのはとても立派な人だったんだなと、女性の顔で分かる。
分かるけど、困るなあ。
これ以上何も言えない僕と呆然と固まる2人、静寂の空間を断ち切ったのは血相を変えた男性だった。
「おいメルディア急いで紙とペン持って来い!! あと医者の手配と応援の用意もだ! 行け!」
ガタンと椅子を倒し立ち上がった男性はメルディアさんを見て言った。
「っ! はいただいまっ!」
鬼気迫る顔でメルディアさんに命令を出し、大きな音を立てながらメルディアさんは部屋から出ていった。
これは……僕はもしや大変な事をしてしまったのではないのだろうか。
「……すいま」
「謝罪はいけません、ニッキー様」
つい謝ろうとして男性に遮れる。
「ニッキー様、これより屋敷が騒がしくなりますが、先にお伝えします……」
「え、となんでしょう」
とても、とても真剣な強い目で見た男性は僕の手を取ると少し痛いくらい強く握った。
「生きていてくださり、ありがとうございます、私はこの10年、あなた様を護ることを目的に参りました、どのような姿であれ、どのような状態であれあなた様はこうして、生きていらっしゃる、ありがとうございます」
お礼を……言われた。
それも切実な雰囲気で。
当然、この人に何かした記憶は無い
どうしよう、反応に困ってしまう。
コップの水を飲むぼくの様子をじっと見つめる二人。
部屋の隅で縮こまっている茶髪の女性メルディアさんと、まだ名前の知らない騎士服のダンディな男性。
水を飲む僕を見て彼らの表情が少し柔らかくなった。
突然メルディアさんの登場には冗談抜きで死が見えたけど……。
驚いた拍子に水の飲み方を体が思い出してくれたらしく、問題なく飲めるようになったから、とりあえずよし。
「それならばよいのですが……」
「ちょっと水の飲み方を忘れてしまってたみたいで……次からは大丈夫です」
「……なにかお体に不調などございましたら必ず言ってください 」
水の飲み方を忘れるって相当な事だけど、今は放っておいて欲しい。
「はい、ありがとうご」
「礼の言葉は不要でございます、ニッキー様」
すげなく却下されてしまった、悲しい。
見ず知らずの人にこんなに優しくて包容力抜群で大きいのにお礼は全面却下とは……。
「……その、初めて会う僕にこんなに優しくてして頂いて純粋に嬉しいので、お礼の言葉は出させてほしいなと、思います」
恩人に対して厚かましいとは思うけど気持ちはきちんと伝えておきたい。
ちょっと照れそうになる顔を抑えるために目を剃らし、もう一度男性を見てその感情が消える。
「今……なんと」
にこやかだった男性が、真顔に……なっている。
「ああいえ、なんでもないですすいません」
男性の声がまた低くなり、慌てて頭を下げる。
座った体勢で頭を下げるのは腰に悪いけどこの際関係ない、さーせんした。
「っ! ニッキー様、ニッキー様どうか顔をあげてください 」
少し調子に乗りすぎたか、ルールは守らなきゃね。
「あぁ、はい」
慌てたような男性の声に申し訳ない気持ちが沸いてきた。
「決して責めるつもりは無いのです、お心を害してしまい申し訳ございません」
「ああいえ、そんな」
「お体に触りますのでどうか楽な体勢に」
やんわりと肩を押され元の座る形に戻り、その上男性の笑顔に完全に落ち着かされた僕は今、すんごい絆されてる。
「あの……すいませ」
「謝罪の言葉は不要でございます」
謝罪もどうやらダメらしい、どうすれば良いのか。
「それよりもニッキー様にお尋ねしたいことがあるのですが……初めて、とはどういうことでしょうか」
「えっ……と」
「初めて会う、と仰りますがそれはどういう事か……是非お教えいただきたい」
優しい声なのに体がかちこちに固まりそうな男性の雰囲気に飲まれ、笑顔のまま僕は固まり、考える。
「初めて……というのは言葉通りで、動くこともままらない僕を介抱してくれた貴方達と僕は初めて会ったやけなので……お礼をと」
「そんな! ニッキー様それはあんまりです!!」
「待て、逸るなもう少し耐えていろ」
口を抑え震え始めたメルディアさんに男性は睨みを効かせ場の空気が張り詰めていく。
「あの……」
「はいなんでしょう」
これは……記憶が全くないことを言った方が良いのだろうか、奇異な目で見られないだろうか。
いや、元から可笑しな事になっているのだから今更ひとつやふたつ増えても、変わらんだろう。
「その、先程仰っているニッキー様というのは、僕のことであってますか?」
「は……」
「え?!」
目を見開く女性、口を半開きにする男性を視界に納め、もうひとつ。
「それと、記憶がほとんど無いみたいで……自分は一体誰なのか何故ここにいるのか、何故体がこんなことになっているのか全く……わからないんです」
いわゆる、記憶喪失、なのかはたまた最初からそういう記憶が無いのかわからないが、2人が僕のことを嫌わない事を祈る。
「記憶が……無い」
「それは一体どういう……、え、ニッキー様……? 記憶……え?」
ニッキー様というのはとても立派な人だったんだなと、女性の顔で分かる。
分かるけど、困るなあ。
これ以上何も言えない僕と呆然と固まる2人、静寂の空間を断ち切ったのは血相を変えた男性だった。
「おいメルディア急いで紙とペン持って来い!! あと医者の手配と応援の用意もだ! 行け!」
ガタンと椅子を倒し立ち上がった男性はメルディアさんを見て言った。
「っ! はいただいまっ!」
鬼気迫る顔でメルディアさんに命令を出し、大きな音を立てながらメルディアさんは部屋から出ていった。
これは……僕はもしや大変な事をしてしまったのではないのだろうか。
「……すいま」
「謝罪はいけません、ニッキー様」
つい謝ろうとして男性に遮れる。
「ニッキー様、これより屋敷が騒がしくなりますが、先にお伝えします……」
「え、となんでしょう」
とても、とても真剣な強い目で見た男性は僕の手を取ると少し痛いくらい強く握った。
「生きていてくださり、ありがとうございます、私はこの10年、あなた様を護ることを目的に参りました、どのような姿であれ、どのような状態であれあなた様はこうして、生きていらっしゃる、ありがとうございます」
お礼を……言われた。
それも切実な雰囲気で。
当然、この人に何かした記憶は無い
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