燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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本編

二話 前向きは筋肉痛を呼ぶ

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「んんん……! あああぁあぁ……!! あた? やばいつる!」

がんばった、結構頑張ったと思う、自分。

体を治す傍ら少しずつ手の指から徐々にゆっくりと関節を曲げて無理をすると骨と筋肉が傷つくから慎重にストレッチをする。

頭も使って体も使えばすぐに疲れて眠って、またどれくらい経ったか分からないけどこれだけは言える。


もう二度とやりたくない。

他にやることがなくて何も見えないという極限の環境にいたから頑張ったけどそれがなければとてもとても……。


「さて、と」
もう数えなくなった目覚めのあと、体を起こしてから肩の筋肉を伸ばそうとして危うく引きつれを起こしてその日使う体力を消し飛ばしそうになったけれども、今日の僕は一味ちがう。

そう、立つのだ。

数えきれないほどの苦楽をこのベッドと共にしてきたのだが、瀕死の体を治して、ほんの少しだけ意欲を出してみようとおもう。

この布団から出たいか出たくないかと聞かれたら間違いなく出たくはない、未来栄光ベッドの上でごろごろしていたいけど、そういう怠け者にはそれを諫めてくれる人の存在が不可欠なのだ。


「……よい、しょ」
ゆっくりとベッドの隅へと動かして、足を床につける。

予想していた床の固さはなく、ふかふかとしたカーペットの柔らかさに自然と安堵の息を溢し、ぐっと体に力を入れ立つことを試みた。


そして。


「……ダメだこりゃ」
しっかりと足に力を込めて、体を起こすためにベッドに触れる手の力を込めて、知識としてある人間の立ち方をしようとして、失敗した。

立ち上がろうと腰を浮かせて、あっと言う間にふかふかのベッドに体が沈む僕の完成だ。

「……眠くなって来た」
なんと僕には立ち上がるための力が皆無のようで、体を治して関節伸ばしたその次は体力を増やさなければいけないとは、次から次へと難関が立ちはだかるとはまるで英雄の物語みたい。

やだよそんな物語読みたくない……やばい、すごく眠くなってきた。


仕方ない、続きはまた明日、おやすなさい自分。






おきた、おきたよ、おきましたとも。



「さいあくだあ……」

ちょっと腰を浮かせた代償、それは全身筋肉痛。

激痛と言うほどでもないが決して軽くはない、日常生活にやや支障をきたす人間の成長の証とも呼べるもの。

成長していると見るなら良いのだが、瀕死三歩手前の僕には最悪以外のなにものでもない。

この筋肉の痛みは下手に治してはいけないと、治癒の力を使いこなす知識が言っている、しかもなんならこの状態で軽く運動するのも良いと、必要な痛みとして容認しなさいと、馬鹿野郎だれだそんな非道を決めたの。

この行き場にないもやもやをそいつにぶつけたい、張り倒して往復ビンタ食らわせたい……ひどい、こんなのって無いよ……。



「はぁ、仕方ないか……」
頭の中で架空の相手にドロップキックかます想像はそこそこに、気怠く痛い体を動かし、呻く。



えー、今日予定はこの何ともいえない痛みに耐えながら療養です~、治癒の力は厳禁、と。




あ~、やだあ~……早く部屋の外に出たいなあ、頑張ろう。














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