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そして終わりへ
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僕は治癒の名門の貴族の長男にして。他人の病気と怪我を自分に移せる特異な能力持ちのニッキー。
自分を治すことに関してはだれよりも上手いと自負するけれど、他人を治癒することは出来ない貴族の、公爵家の恥さらし。
優秀な弟のリアンからはいつもきつい言葉が飛んでくるけど、それと同じくらいあの子は努力してるから、僕は好き。
元々、父や叔父からそうあれと望んで育てられたから死ぬことに嫌悪感や拒否感は無い。
でもやり残しは多い気がする。
学園だったり弟だったり婚約者だったりの問題がおざなりで、最近できたスイーツ店にも行きたかった。
もう少し学びたい事があったし一度は国の外に旅行したかった。
ああ……黙々と考えていたら朝になってしまった、悲しい。
「はあ……こんな気持ちはやだなぁ」
天幕のかかったベッドの薄暗い中、目を閉じても、眠くても寝られない僕はため息を吐く。
正直、死ぬ事に対する恐怖はほとんど無い。
栄誉で、将来家族のためになると思うと死ぬ恐怖はあっと言う間に消えていく、けど生きたい理由が少し多い、
「時間でございます、坊ちゃま」
「うん、わかった、おはようじいや」
目にすごい隈を作りやってきたじいやに頑張って笑顔を見せ、布団からでる。
身支度をしっかり整えて、お父様と別れを済ませる、リアンは学園にいて、あいつは寝てるか仕事だ。
城からきた馬車に乗り、窓から日が昇りきってない空を眺める。
最後に会いたかったなあ。
元気に過ごして、立派になって、良いお嫁さんを貰って……それが見れないのが残念。
★★★
「お休み中のところ失礼いたします、ニッキー様」
「ん……寝てた?」
ゆったりとした馬車の揺れと眠気に誘われ、気が付けば寝ていたようだ。
申し訳なさそうな御者に声をかけられ目を覚ます。
「ふわ……やっぱ眠い、ん?」
欠伸を一つ溢し、外に出ると出迎えの騎士が四人。
皆甲冑をつけて顔が見えない事を頭の片隅で考え一歩前に踏み出すと、騎士の一人がおもむろに頭の装備を取り、僕は目を丸くした。
「これはどういうことだ、ニッキー」
「げ……エウァルド」
エウァルド、あいつ。
無骨で大きくて、不愛想で無口な婚約者。
エウァルド。
鍛えた体と整った切れ長の精悍な黒髪の男。
学科が違い、会おうと思わなければ会えないような学園内で特別仲が良かった訳じゃない僕とエウァルド。
滅多に会わなければ話す機会もなくて、手紙も月に一度の業務報告のような交流をしていた覚えしかない。
しかもパーティーで一緒に出席するときも最低限の会話でなにかが進展する気配も無い。
そんな恋愛に重ねるととんでもないエウァルドだけど、彼は立派な騎士になるために全力を尽くしていた訳だし、雰囲気は苦手だけど嫌いではない。
個人的にまじめな所に好感を持ってたから、ちゃんと騎士になれたようで良かった……んだけど。
「招集され来て見れば学園にいるはずのお前がなぜ城にきた……それも王室用の馬車で」
「あー……」
会いたいなとかしんみりしてたけどこのタイミングでは会いたくなかったなあ。
「……婚約者である俺に説明できないことか?」
「まあ、うん、そういうこと」
エウァルドからしたらなんで僕がなんでここにいるんだって話だろうけど、国家機密なのよねえ。
苦笑いで誤魔化そうとする僕に形の良い眉を潜めたエウァルドは僕をじっと見ると口を一の字に引き結び、甲冑を被った。
「そうか……ならば俺は、騎士としてお前を国王陛下の元へお連れする」
仕事に忠実で真面目だけど、しっかりと優しいエウァルド、いつものんびりとしている僕との相性はもしかしたら良かったかもしれない。
「うん、じゃあよろしく頼むね」
ちょっと悲しいと思いつつ、笑顔を作り、僕はエウァルドと、他の騎士に促されるまま、城の中へと入って行った。
※※※
記録 百十二
打つ手が無くなってしまった。
塊は消化する器官よりも大きくなり、その上別の器官にもあの塊が出始めている。
体中に違和感と痛みが走る。
意識が鮮明なうちにこれをきちんと記録に収めないといけないと思うと結構悲しい、やめたい。
既に物を食べれないから、過去の医術書とこの部屋の機能を使い治癒の力の応用で栄養を満たすようにした。
この謎の塊の特性は文字通り異常だ。
まるでそれが最初からあったかのように振る舞い、膨張しほかの器官の邪魔をしている。
薬は逆効果を生む、ならば毒はどうかと接種してみると、効果はわからず少々血を吐いてしまった、いたい。
※※※
記録 百二十
みつけた ようやくみつけた
からだをこわすどく、これをつかえば、あのかたまりをころすことができる。
だいしょうにぼくがしにかけるが、なおせばもんだいない だいじょうぶ だいじょうぶ いしきがもうろうとする
※※※
記録 百三十
うん、だめだ、非効率すぎる。
毒を受けて体を壊し 治す。
このサイクルを回す準備はできたが圧倒的に力が足りない。
どうすればいいのか、なりふりかまってられなくなったため、禁忌に手を出そうと思う、大丈夫、どうせ死ぬ身だ、ばれなきゃ問題ない。
※※※
記録 百四十
恐らく記録はここで終わる、お疲れ様自分。
これより自分を使った大規模な人体実験を行う。
体の器官を壊す毒を生成しそれを摂取する式で自らを痛め。
それと同じ強さの治癒を自分にかけ続ける 少し禁忌の力をつかって僕の意識が無くなっても動くようにした。
最後に、問題の出力にかんしては、禁忌をめちゃくちゃ犯し、僕の記憶を使うことにした。
思いの強さは無限と物語に書かれていたがまさにその通りで、僕が今まで生きてきた、知識や経験を抜いた記憶を禁忌の力で変換するとすごいことになるらしい。
なにもかも、お父様もお母様もリアンもエウァルドも、大切な記憶がなくなるけど、元から死ぬんだし有効活用しようと思う。
このサイクルをおおよそ十年、ショック死は避けたいためその間僕の意識はないが、これを続けるよう準備した。
それじゃあ、さよなら、ニッキー、楽しい人生だったね。
★★★
読んでいただきありがとうございます!
次回から本編です、よければ読んでね。
自分を治すことに関してはだれよりも上手いと自負するけれど、他人を治癒することは出来ない貴族の、公爵家の恥さらし。
優秀な弟のリアンからはいつもきつい言葉が飛んでくるけど、それと同じくらいあの子は努力してるから、僕は好き。
元々、父や叔父からそうあれと望んで育てられたから死ぬことに嫌悪感や拒否感は無い。
でもやり残しは多い気がする。
学園だったり弟だったり婚約者だったりの問題がおざなりで、最近できたスイーツ店にも行きたかった。
もう少し学びたい事があったし一度は国の外に旅行したかった。
ああ……黙々と考えていたら朝になってしまった、悲しい。
「はあ……こんな気持ちはやだなぁ」
天幕のかかったベッドの薄暗い中、目を閉じても、眠くても寝られない僕はため息を吐く。
正直、死ぬ事に対する恐怖はほとんど無い。
栄誉で、将来家族のためになると思うと死ぬ恐怖はあっと言う間に消えていく、けど生きたい理由が少し多い、
「時間でございます、坊ちゃま」
「うん、わかった、おはようじいや」
目にすごい隈を作りやってきたじいやに頑張って笑顔を見せ、布団からでる。
身支度をしっかり整えて、お父様と別れを済ませる、リアンは学園にいて、あいつは寝てるか仕事だ。
城からきた馬車に乗り、窓から日が昇りきってない空を眺める。
最後に会いたかったなあ。
元気に過ごして、立派になって、良いお嫁さんを貰って……それが見れないのが残念。
★★★
「お休み中のところ失礼いたします、ニッキー様」
「ん……寝てた?」
ゆったりとした馬車の揺れと眠気に誘われ、気が付けば寝ていたようだ。
申し訳なさそうな御者に声をかけられ目を覚ます。
「ふわ……やっぱ眠い、ん?」
欠伸を一つ溢し、外に出ると出迎えの騎士が四人。
皆甲冑をつけて顔が見えない事を頭の片隅で考え一歩前に踏み出すと、騎士の一人がおもむろに頭の装備を取り、僕は目を丸くした。
「これはどういうことだ、ニッキー」
「げ……エウァルド」
エウァルド、あいつ。
無骨で大きくて、不愛想で無口な婚約者。
エウァルド。
鍛えた体と整った切れ長の精悍な黒髪の男。
学科が違い、会おうと思わなければ会えないような学園内で特別仲が良かった訳じゃない僕とエウァルド。
滅多に会わなければ話す機会もなくて、手紙も月に一度の業務報告のような交流をしていた覚えしかない。
しかもパーティーで一緒に出席するときも最低限の会話でなにかが進展する気配も無い。
そんな恋愛に重ねるととんでもないエウァルドだけど、彼は立派な騎士になるために全力を尽くしていた訳だし、雰囲気は苦手だけど嫌いではない。
個人的にまじめな所に好感を持ってたから、ちゃんと騎士になれたようで良かった……んだけど。
「招集され来て見れば学園にいるはずのお前がなぜ城にきた……それも王室用の馬車で」
「あー……」
会いたいなとかしんみりしてたけどこのタイミングでは会いたくなかったなあ。
「……婚約者である俺に説明できないことか?」
「まあ、うん、そういうこと」
エウァルドからしたらなんで僕がなんでここにいるんだって話だろうけど、国家機密なのよねえ。
苦笑いで誤魔化そうとする僕に形の良い眉を潜めたエウァルドは僕をじっと見ると口を一の字に引き結び、甲冑を被った。
「そうか……ならば俺は、騎士としてお前を国王陛下の元へお連れする」
仕事に忠実で真面目だけど、しっかりと優しいエウァルド、いつものんびりとしている僕との相性はもしかしたら良かったかもしれない。
「うん、じゃあよろしく頼むね」
ちょっと悲しいと思いつつ、笑顔を作り、僕はエウァルドと、他の騎士に促されるまま、城の中へと入って行った。
※※※
記録 百十二
打つ手が無くなってしまった。
塊は消化する器官よりも大きくなり、その上別の器官にもあの塊が出始めている。
体中に違和感と痛みが走る。
意識が鮮明なうちにこれをきちんと記録に収めないといけないと思うと結構悲しい、やめたい。
既に物を食べれないから、過去の医術書とこの部屋の機能を使い治癒の力の応用で栄養を満たすようにした。
この謎の塊の特性は文字通り異常だ。
まるでそれが最初からあったかのように振る舞い、膨張しほかの器官の邪魔をしている。
薬は逆効果を生む、ならば毒はどうかと接種してみると、効果はわからず少々血を吐いてしまった、いたい。
※※※
記録 百二十
みつけた ようやくみつけた
からだをこわすどく、これをつかえば、あのかたまりをころすことができる。
だいしょうにぼくがしにかけるが、なおせばもんだいない だいじょうぶ だいじょうぶ いしきがもうろうとする
※※※
記録 百三十
うん、だめだ、非効率すぎる。
毒を受けて体を壊し 治す。
このサイクルを回す準備はできたが圧倒的に力が足りない。
どうすればいいのか、なりふりかまってられなくなったため、禁忌に手を出そうと思う、大丈夫、どうせ死ぬ身だ、ばれなきゃ問題ない。
※※※
記録 百四十
恐らく記録はここで終わる、お疲れ様自分。
これより自分を使った大規模な人体実験を行う。
体の器官を壊す毒を生成しそれを摂取する式で自らを痛め。
それと同じ強さの治癒を自分にかけ続ける 少し禁忌の力をつかって僕の意識が無くなっても動くようにした。
最後に、問題の出力にかんしては、禁忌をめちゃくちゃ犯し、僕の記憶を使うことにした。
思いの強さは無限と物語に書かれていたがまさにその通りで、僕が今まで生きてきた、知識や経験を抜いた記憶を禁忌の力で変換するとすごいことになるらしい。
なにもかも、お父様もお母様もリアンもエウァルドも、大切な記憶がなくなるけど、元から死ぬんだし有効活用しようと思う。
このサイクルをおおよそ十年、ショック死は避けたいためその間僕の意識はないが、これを続けるよう準備した。
それじゃあ、さよなら、ニッキー、楽しい人生だったね。
★★★
読んでいただきありがとうございます!
次回から本編です、よければ読んでね。
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