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前座

終わるための準備

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突然だが僕には婚約者がいる。

しかも男だ。


武骨で仏頂面で何を考えているのかわからないでっかいのが一人、僕よりも二年先に学園を卒業して立派な騎士をしている男。


跡取りの僕が何故男? て当時は首を傾げたけど、つまりはこういうことよね、て今更ながら勝手に納得。


父との会話を終えて、僕は今、自室の椅子に座り、一通の白紙の紙と対峙していた。

いわゆる、お別れの手紙だ、遺書とも言う。

なんせ家の、一族の使命を果たすんだ、まず生きては帰れない

家の使命というか、役目を果たすためにどうしても……あいつと別れる必要があるんだよねえ、なんて言おうか、どんな文面にしてどう穏便に済ますか、済まさないか。

学園を卒業すれば即式をあげると家から言われていたし、相手もその準備をしているだろうし……うーん、難しい。


「んー………」
僕以外誰もいない部屋のなか、良い案が浮かばず、僕は唸る。


唸って唸って……手元のベルを鳴らし、執事を呼んだ。



「じいや、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
「はいなんなりと、わたくしに出来ることなら何でも致します」
わざわざ本家から寮まで走ってきて父に付き添って色々しなくちゃいけないだろう。

でもまあやってくれるんだし細かいことは深く考えず、お願いをしておこう。

「彼と僕の婚約関係解消する手続きをお願いしたい」
「は……畏まりました、あの方へのお手紙などは?」
「書こうと思ったけど……書けないから、いい」
「そんな……それではあんまりではないかと思いますが……」
血相を変えるじいやに僕は苦笑いを浮かべ返す。

「さっきから書こうと思って悩んだんだけどどうしても……いい言葉が見つからなくてね、後悔するだろうけど時間がないし……それに、一方的に撥ね付けた感じで、こっちが悪い形で済ました方があっちも新しい人探しやすいと思うんだよね」
「ですが……いえ、よろしいのですね?」
「うん、大丈夫、それにもう会わないし、円滑に破棄したいから僕が消えた後はお願いできる?」

とても悲観的に聞こえるけど、僕がどのような形であれいなくなる事前提で進めないといけないから、ほとんどの事はお父様やじいやに丸投げして、おしまい。


そこまで仲が良い訳じゃなかったし、婚約相手が男だったしで迷惑しかかけてなかったけどこれでさよならだと考えたら。

ちょっと、寂しいなぁ。





※※※


記録  二十八


異常事態が発生した。

数日前まで指の先サイズだったあの変なものが小さなボールのサイズになっている。

放置しても大丈夫だと楽観視したのがいけなかった。

これはいけない、本当にいけない。

呑気にお茶を飲んでる暇はない、至急、策を講じなければ無駄に死んでしまう。


参考資料も、それを実践する環境も完備しているこの素晴らしい環境をフルに活用して、頑張ろう。

さあまずするべき事はただひとつ!

英気を養うためにご飯!







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