燃え尽きた貴族が10年後療養してたら元婚約者に娶られてしまいまして

おげんや豆腐

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終わる前のはじまり

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月の獅子に愛された大国アスラン。

建国から数百年、長男には王族を救う力を、次男には類まれな治癒の力と才覚に恵まれる家がある。


長男の力は家の当主と国王、それと極一部の者しか知ることが許されない。

その力が使われること自体が稀であり、使用する際は王家から公爵家に莫大な褒美を取らせる、それが初代王と初代公爵との取り決め、契約であった。






★★★


「よくきてくれた、ニッキー」
「お久しぶりです父上、元気そう……ではないですね」
学園に通い、卒業まで残り2ヶ月の僕はいつものように寮で休もうとしていたときに、家の執事が息を切らしてやってきた。


「あぁ……無理を言って呼んでしまいすまない、とにかく、座ろう」

身支度も控えめに馬車に乗り、夜も深まり、執務室に呼ばれた僕の前には顔色の悪い父がいた。


「急な事でしたが、話しは彼から聞いています」
「そうか、話が早くて助かる……助からないが、な」
「すぐに城に向かった方が良いですか?」
「少しは余裕がある……明日、頼めるか」
昔から、叔父からずっと、ずっと言い聞かせられてきた、我が公爵家の使命のような、契約。

王家が癒えぬ病魔に侵された時、公爵家の長男がその病魔を払う、シンプルだが、少し残酷なもの。

恐る恐る、僕の顔色を伺いながら聞いてくる父に、僕は笑顔で返す。



「わかりました、頑張りますね」
「そ、そうか、やってくれるのか……すまない、本当に……すまない、手は、尽くしたんだ」
威厳があり、普段は滅多に表情を動かさない父が珍しく、謝罪を言葉にして、頭を下げている。

向かい合ってソファーに座る僕は笑顔を作り、父上に声をかける。

「顔をお上げください父様、僕は、いえ……わたしは大丈夫です」
「……ニッキー」
「この時のためにわたしはこの家の長男として育てられたのですから、問題は無いですよ」

医療に関わること全てに絶大な力とカリスマを持ち、その厳格さと冷たい雰囲気に部下から恐れられているが、家族にはとても甘い父親。

そんな父の情けない顔を和らげるため、わたしは笑顔を作り、父に今後についての話を進めた。








※※※


記録  七


屋敷に滞在して一週間。

掃除をしながら部屋を探索しているとなんと、僕しか入れない部屋があった。

他の人間が入ろうとすると扉が閉まって開けれなくなるみたい。

部屋のなかは思ったよりも広くて、少し薄暗い。

壁一面の本棚と中央に大きな天幕つきのベッド、変な部屋。

異様なことにそこは汚れ一つ無くて、居心地がすごい良い。


本棚から一冊取り出して少し読んでみると昔の人が書いた日記と、何かの病気の医術書が書かれていた。



流石にそこまで読めば僕でも分かっちゃう、そういうことなんだろうと見切りをつけて体の様子を確かめることに専念しよう。

準備は滞りなくバッチリ、後は果てるだけ、無駄にはできない。









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