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傭兵ランドルフの秘めきれぬ思い
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フェルデルト伯爵家次男 ウィルテイル。
呻き声と吐きそうな血の臭いの中、苦しそうな顔で必死に取り組む姿は……天使そのものだった。
真っ白な髪をなびかせ、目の前の怪我人を蔑む事無く向かう姿が、透き通った彼の宝石のような赤い目が美しく映り……欲しいと、思ってしまった。
動かなくなった兵士を前に泣き崩れる儚さは今にも崩れそうで、常に必死に健気に生きる彼に乾いていた心が温かくなっていく。
民を軽んじる愚かな男が原因で戦争が勃発し、金払いが良い国に雇われ参加したが、引き際を見誤りあっさりと生死の境に迷う重傷を負うとは馬鹿な奴だ……自分の事だがな。
戦場で倒れた者のほとんどはそのまま捨て置かれ運が良ければ治療を行う施設へと運ばれるが、そんな虫の良い話早々諦めた。
殺戮を商売とし、金のために非情を是とした、いつかはこうなるだろうと楽観的に考え、いざ前にすると何処か寂しい、後悔は無いが、虚しさだけが体にぽっかりとした穴があいたような感覚だけが残り、意識を手放した。
だが目を覚ました瞬間の彼の涙を流し浮かべた笑顔によって俺の目に写る世界が変わった。
痛む体を無視し起き上がれば肩にかかる白髪を後ろに結んだ若い男がベッドの横で嬉しそうに跳び跳ねていた。
透き通るような肌と苦労を知らないまっさらな手は、一目で高貴な者と見抜き警戒する俺を前に彼は、心から安堵したように笑顔になり、見ず知らずの俺に心から涙を流してくれた。
目が覚めた場所は彼の家の力が及ぶ領地の教会。
目が覚めてから何日も彼は包帯を変え、俺の体を拭き……お礼を言えば笑顔で頷く。
それは乾いた心を満たすように、酷く汚れた場所が洗われるような気持ちに戸惑う俺他所にウィルテイル殿は日々運ばれてくる怪我人に無償の優しさを送り、殺伐とした空間を癒してくれた。
打算も計画も無い暖かさをくれる彼に身も心も癒され、時折見せるはにかんだ笑顔に安らぎを見いだすと俺はいつしか、彼を目で追い頭の中は彼の事で埋め尽くされた。
好きにならない訳が無かった。
幼げな顔を引き締め傷を手当てする彼は汚れた戦場を生きる俺には神々しく見え、同時に微睡みのような安らぎを与えてくれる彼を尊敬の眼差しで見ると共に、欲しいと……思ってしまった。
浅ましくも愚かにも彼の笑顔を俺だけに向けてほしいと心から黒い感情が沸き出す。
彼を手にいれ、閉じ込めたい、抱き締めたいがこの劣情は決して、貴族の彼には届かない。
だが……それがどうしたい。
心優しい彼の事だ、彼の前でこの手を無理矢理伸ばせば彼はもしかしたら答えてくれるかもしれない。
もしかしたら優しさにつけこめば許してくれるかもしれない。
これはたんなる゛エゴ゛ 浅ましい男の、精一杯の我が儘……いや、我が儘だなんて可愛いものじゃない。
腕の中に閉じこめ誰の目にも触れさせずその目に写るものすべて自分だけに、自分が用意した物だけで満たしたい。
喜んだ顔も怒った顔も泣いた顔も絶望した顔もすべてすべて全て……俺にぶつけて欲しい。
徐々に治る体と共に日々増え沸きだす彼へのこの醜い感情を押し込められるほど出来た人間ではない。
゛欲しいものは欲しいときに手にいれ生涯大事に懐に納める゛ 傭兵の鉄則のようなものだ。
退屈にならず彼が楽しく住む家、満足に養えるだけの金そして、円満に拐うための計画を練ろう。
金はどうにでもなる、だが彼の身分が邪魔になるな……。
次期にこの国は敗北する、王は処刑され貴族の大半が切り捨てられる事だろう。
そして膨大な戦後処理の隙を付きとある伝手を使い彼の家に彼が死亡したという知らせを送り、彼には少し過剰目に国の情報を入れる。
敏い彼の事だ、深く傷つき悲しむだろうが……許してくれるなよ?
何年と汚い仕事をしていれば自然と増える使い道のない伝手を彼のために、俺のために使う、文句は言わせない。
初めて得たこの気持ちを叶えるためならなんだってやる、例えそれが自分勝手で自己満足で……彼を泣かせ罵られようと……今更な話だろうよ。
さぁ、急げよランドルフ、時間は待たない。
半年後、見事国は敗れ、緻密に練った計画は全て滞りなく進んだ。
彼、ウィルテイル殿は家が無くなったと思っているだろうが……良き貴族だったフェルデルト家は今もその地位のままにウィルテイル殿の死を酷く悲しんでいると聞く。
彼が身を寄せている教会が火に包まれないよう細心のの注意を払い、神父にも、シスターにも金と安全の保証を引き換えに根回しをした。
彼が暮らしやすいよう隣国の港町に二人で暮らせる家を建て、俺はその町の警備隊に収まる。
たんまり貰った金で苦労をさせる心配もない、俺と彼を隔てるものはもう、何もない
全ては順調に上手くいく、そう思っていた、だが彼が俺の事を忘れ、驚いた顔を目にした時、ショックのあまり言葉を失ったが、ならばこれから覚えて貰えば良いと即座に切り替える。
平等に向けられていた笑顔も、その体もやっと、やっと、俺のものになる。
抱いた感触は酷く細い、たっぷりと食べさせよう。
嬉しさのあまり聞き流していたが彼が何かを言っている、馬車の中でたっぷり聞こう。
心は…・俺のすべてを対価に得る、得て見せる。
伸ばしても届かなかった天使を激情のままに無理矢理引き寄せた。
引き寄せた彼は半年の間に少し日に焼け、細かった腕も少し引き締まっている、指先は恐ろしくもボロボロになっているではないか。
今まで苦労した分、彼には俺に生きる希望と欲望を抱かせて貰った恩を喜んで返そう、一生をかけて、永遠を誓って、婚約の指輪を贈ろう、それが駄目ならプレスレットを。
未だに驚く彼に非常に申し訳ないが。
「やっと……手に入れたんだ、逃がしてたまるかよ」
クッションに沈み目を閉じる彼の髪にかさついた手を絡ませ、そっと口づけをする。
その後、恐ろしい程の順応ぶりと適応ぶりを見せる彼に俺は驚くと同時に、すぐに見せてくれた花のような笑顔に年甲斐にも男泣きしたの仕方がないだろう。
彼が可愛すぎてたまらない……!!
★★★
読んで頂きありがとうございました
そのうち後日談的なの乗っけます
呻き声と吐きそうな血の臭いの中、苦しそうな顔で必死に取り組む姿は……天使そのものだった。
真っ白な髪をなびかせ、目の前の怪我人を蔑む事無く向かう姿が、透き通った彼の宝石のような赤い目が美しく映り……欲しいと、思ってしまった。
動かなくなった兵士を前に泣き崩れる儚さは今にも崩れそうで、常に必死に健気に生きる彼に乾いていた心が温かくなっていく。
民を軽んじる愚かな男が原因で戦争が勃発し、金払いが良い国に雇われ参加したが、引き際を見誤りあっさりと生死の境に迷う重傷を負うとは馬鹿な奴だ……自分の事だがな。
戦場で倒れた者のほとんどはそのまま捨て置かれ運が良ければ治療を行う施設へと運ばれるが、そんな虫の良い話早々諦めた。
殺戮を商売とし、金のために非情を是とした、いつかはこうなるだろうと楽観的に考え、いざ前にすると何処か寂しい、後悔は無いが、虚しさだけが体にぽっかりとした穴があいたような感覚だけが残り、意識を手放した。
だが目を覚ました瞬間の彼の涙を流し浮かべた笑顔によって俺の目に写る世界が変わった。
痛む体を無視し起き上がれば肩にかかる白髪を後ろに結んだ若い男がベッドの横で嬉しそうに跳び跳ねていた。
透き通るような肌と苦労を知らないまっさらな手は、一目で高貴な者と見抜き警戒する俺を前に彼は、心から安堵したように笑顔になり、見ず知らずの俺に心から涙を流してくれた。
目が覚めた場所は彼の家の力が及ぶ領地の教会。
目が覚めてから何日も彼は包帯を変え、俺の体を拭き……お礼を言えば笑顔で頷く。
それは乾いた心を満たすように、酷く汚れた場所が洗われるような気持ちに戸惑う俺他所にウィルテイル殿は日々運ばれてくる怪我人に無償の優しさを送り、殺伐とした空間を癒してくれた。
打算も計画も無い暖かさをくれる彼に身も心も癒され、時折見せるはにかんだ笑顔に安らぎを見いだすと俺はいつしか、彼を目で追い頭の中は彼の事で埋め尽くされた。
好きにならない訳が無かった。
幼げな顔を引き締め傷を手当てする彼は汚れた戦場を生きる俺には神々しく見え、同時に微睡みのような安らぎを与えてくれる彼を尊敬の眼差しで見ると共に、欲しいと……思ってしまった。
浅ましくも愚かにも彼の笑顔を俺だけに向けてほしいと心から黒い感情が沸き出す。
彼を手にいれ、閉じ込めたい、抱き締めたいがこの劣情は決して、貴族の彼には届かない。
だが……それがどうしたい。
心優しい彼の事だ、彼の前でこの手を無理矢理伸ばせば彼はもしかしたら答えてくれるかもしれない。
もしかしたら優しさにつけこめば許してくれるかもしれない。
これはたんなる゛エゴ゛ 浅ましい男の、精一杯の我が儘……いや、我が儘だなんて可愛いものじゃない。
腕の中に閉じこめ誰の目にも触れさせずその目に写るものすべて自分だけに、自分が用意した物だけで満たしたい。
喜んだ顔も怒った顔も泣いた顔も絶望した顔もすべてすべて全て……俺にぶつけて欲しい。
徐々に治る体と共に日々増え沸きだす彼へのこの醜い感情を押し込められるほど出来た人間ではない。
゛欲しいものは欲しいときに手にいれ生涯大事に懐に納める゛ 傭兵の鉄則のようなものだ。
退屈にならず彼が楽しく住む家、満足に養えるだけの金そして、円満に拐うための計画を練ろう。
金はどうにでもなる、だが彼の身分が邪魔になるな……。
次期にこの国は敗北する、王は処刑され貴族の大半が切り捨てられる事だろう。
そして膨大な戦後処理の隙を付きとある伝手を使い彼の家に彼が死亡したという知らせを送り、彼には少し過剰目に国の情報を入れる。
敏い彼の事だ、深く傷つき悲しむだろうが……許してくれるなよ?
何年と汚い仕事をしていれば自然と増える使い道のない伝手を彼のために、俺のために使う、文句は言わせない。
初めて得たこの気持ちを叶えるためならなんだってやる、例えそれが自分勝手で自己満足で……彼を泣かせ罵られようと……今更な話だろうよ。
さぁ、急げよランドルフ、時間は待たない。
半年後、見事国は敗れ、緻密に練った計画は全て滞りなく進んだ。
彼、ウィルテイル殿は家が無くなったと思っているだろうが……良き貴族だったフェルデルト家は今もその地位のままにウィルテイル殿の死を酷く悲しんでいると聞く。
彼が身を寄せている教会が火に包まれないよう細心のの注意を払い、神父にも、シスターにも金と安全の保証を引き換えに根回しをした。
彼が暮らしやすいよう隣国の港町に二人で暮らせる家を建て、俺はその町の警備隊に収まる。
たんまり貰った金で苦労をさせる心配もない、俺と彼を隔てるものはもう、何もない
全ては順調に上手くいく、そう思っていた、だが彼が俺の事を忘れ、驚いた顔を目にした時、ショックのあまり言葉を失ったが、ならばこれから覚えて貰えば良いと即座に切り替える。
平等に向けられていた笑顔も、その体もやっと、やっと、俺のものになる。
抱いた感触は酷く細い、たっぷりと食べさせよう。
嬉しさのあまり聞き流していたが彼が何かを言っている、馬車の中でたっぷり聞こう。
心は…・俺のすべてを対価に得る、得て見せる。
伸ばしても届かなかった天使を激情のままに無理矢理引き寄せた。
引き寄せた彼は半年の間に少し日に焼け、細かった腕も少し引き締まっている、指先は恐ろしくもボロボロになっているではないか。
今まで苦労した分、彼には俺に生きる希望と欲望を抱かせて貰った恩を喜んで返そう、一生をかけて、永遠を誓って、婚約の指輪を贈ろう、それが駄目ならプレスレットを。
未だに驚く彼に非常に申し訳ないが。
「やっと……手に入れたんだ、逃がしてたまるかよ」
クッションに沈み目を閉じる彼の髪にかさついた手を絡ませ、そっと口づけをする。
その後、恐ろしい程の順応ぶりと適応ぶりを見せる彼に俺は驚くと同時に、すぐに見せてくれた花のような笑顔に年甲斐にも男泣きしたの仕方がないだろう。
彼が可愛すぎてたまらない……!!
★★★
読んで頂きありがとうございました
そのうち後日談的なの乗っけます
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