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龍の国と死者の番

龍の国からの迎え 【後】

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どうしようかな、と良くわからない事に対する悩みは杞憂に終わったらしい。

王様の怖いオーラを醸し出しながらの仲裁のお陰で喧嘩に発展しそうな空気を無くしてくれた。





アルさんがちょっと離れた所でステイされているのは置いといて、今は王様達だ。


「そら、受けとれ」
怪訝な顔をする王様にルドレウスさんは懐から丸められた羊皮紙を取り出すと王様に向けて放り投げる。
受け取った王様が中身を確認すると目を剥く。


「これは……どういう事だ龍王!」
王様が驚く様子に僕が驚き、ルドレウスさんが降格を上げ笑う。


「見ての通りだ、ラグーンに火山の採掘権をやったという話をしただろう? 今回の非礼も兼ねることになったがラグーンが世話になった礼だ、活用してくれ」
「だとしてもあの山脈の採掘権だぞ?! そう簡単に渡して良い代物ではないのではないか」
「ラグーンが信頼したものなのだから下らぬ事はしないだろう? この話は仕舞いだ」
「は?! 」
手に持つ羊皮紙固とルドレウスさんを交互に見て聞いたことない声を出す王様をぼーっと見ていると、僕の前にルドレウスさんが歩いてきた。

「本題を早々に済ませよう ラグーン」
目を瞬かせて見上げる僕に太陽に照らされて眩しいルドレウスさんは微笑み、手を差し出した。


「特別な事は何もない、この手を取れ」
「……へ?」
「其方はこれより我が国に参り、我は其方を迎えに来た、簡単な話であろう?」
「……うーん?」
「悩む必要はない、気楽な気持ちでこの手を取ればいいのだ」
「えーっと……」
朗らかに穏やかな声で言ったルドレウスさんに僕はどうすればいいのかわからず唸る。


「どうした、なぜ困惑している」
「……ちょっと、未練というかここにいたいというか」
「我が国には来たくないと?」
「そういうわけでは……」
「では何故ああ、そうだな、危ないところだった」
「?」
「目的を達成する事は簡単だが、今後につなげるためには手順を踏まねばいけない」
「?」
良く分からない事をつぶやいたルドレウスさんは手を引っ込めると腕を組み、僕の後ろを見てにやりと笑った。



「さてラグーン、追い打ちをかけるようだが、後ろを見て見るがいい」
「なんです? ……うわあ」
良く分からないままルドレウスさんに促されるまま後ろを見るとちょっと離れた所でものすごい形相でこっちを見るアルさん。


「あそこも見てみると良い、引くぞ」
「ええ? えぇ……」
今度は僕の右隣を促され見ればニコニコして腕組んでるアイデンさんがいた、5歩くらい先で。


「なにあれえ……」
「可笑しな顔をしているがあれはラグーンではなく我に向けての殺意だ、安心すると良い」
「……上手く返せる言葉が見つからないです」
「はっはっは! よい! 我も正直引いている」
朗らかに笑うルドレウスさんには悪いけどこれは……、微妙な気持ちだ。



待ってアルさん達ちょっと近くなってない?



「くくっ、少しばかり我が部下を休ませるが故、その間そこの男たちと語らってくるといい」
「それは……、どういう?」
「いらぬいざこざを生まないための措置だ、別れの挨拶程度はしてくるといい」
「聞き捨てならないな」
「わっ、アイデンさん?」
たった少しの間で気配も無くすぐ真横に移動したアイデンさんが笑顔を引っ込め、無表情でルドレウスさんをにらんでいる。




「貴殿はいったい何を言っているのか全く理解できないな、 別れ? さもこの場が最後だと言わんばかりの物言いだな? 俺と、ラグーンがもう2度と会わないと言いたいか?」
「? だったらどうした」
「そういうつもりな今ここでラグーンを連れ去り貴殿の手の届かぬ場に行くことも辞さないと思うが、お前はどう思う?」
「決まってんだろ」
僕の後ろに向けて声をかけると、後ろからアルさんの不機嫌な声が帰ってきた。


「アイデンだけが連れてく点は論外だがな、ラグを俺から離そうとするなら……攫うだろ」
「だよな、という事でラグーン、龍王の誘いを無視してこの国に留まることを提案する」
「やだ……普通に困る」
「はあぁ……、聞くに絶えんな、何なのだ貴様たちは、ラグーンのためにと大義名分を掲げ、やろうとする事は己のためとは性質が悪いな」
意気投合するアルさんとアイデンさんが頷き合う姿におろおろとする僕を見て、ルドレウスさんは長いため息をついた。


「そんな自分勝手な輩に我が弟を任せられる訳が無かろう馬鹿たれ! 」
「ああ? 」
「親交を深めるにしても関係を断つにしても一度貴様らとラグーンは距離をとる必要がある! そうだな。とりあえず1000キロは取るべきだな」
「はあ?」
「何を言っているのか全く理解できないな?」
「そういう所だと思うが……、まあ、今後は弟と会わせなければよいか」
「「ああ””?」」
みんなの言ってる事のスケールが大きすぎて困惑しかできない自分を客観的に見て平静を保って、さてどうしようじゃ。


「さあ、別れの挨拶はと思ったがこ奴らの阿呆な考えに付き合ってると時間が足りなくなるの、行こうラグーン」
「え、あ、うわあ……」
「……行くのか?」
「できれば留まってほしいな、俺は」
手を取れと伸ばすルドレウスさん、鬼みたいな顔で見るアルさん、笑顔が怖いアイデンさん。


なにをしても地獄になりそうなこの修羅場に、一人の救世主が現れた。


「ほらほらほら、じめじめとくだらない問題起こしていないで、男らしく挨拶を済ませなさいな、ラグーン君に嫌われますよ?」
「げ」
「……ふん」
凍えるような笑顔を貼り付けて、圧がすごい大人二人の前にミネルスさんが躍り出て二人の圧を中和してくれた。


「……あのポンクラ共に何か言う事はあるか?」
「へ? あ、ああ……」
「こいつらの事なら大丈夫ですので、サクッと言っちゃってください」
「え、……て、手紙書くね!!」
「な、マジで行くのかよ?!」
「……行くのか」
あ、なんかすごい申し訳ない気持ちに。

「花嫁修業にでも行くと考えなさいな、おとなしくしていればまたきっと会えますから」
「結婚は認めんぞ」
さよならは悲しいし、またねもなんか軽い気がする出した答え、もとい言葉にアルさん達の表情は瞬時に凍ってミネルスさんが仲裁して、ようやく終わりそうな雰囲気がする。


「そろそろ行こうか」
「あ、おいごらあ!」
アルさん達を見る僕の手を、ルドレウスさんが優しく手に取り、もう片方の腕を僕の肩に置いて、龍車の方へと促される。

一歩一歩龍車に近づき、後ろからアルさんの怒鳴り声が耳に響く。

「……」
僕、このまま流されててもいいのだろうか。

胸でもやもやと燻る違和感がとてもとても、とても気持ち悪い。


「おや、どうした」
「うひゃっ」
「おおすまん、敏感なんだな」
耳元に直接声をかけられ少し飛び上がる。

反射で振り返りルドレウスさんを睨めば苦笑いをされてしまう

「すまんすまん許してくれわざとではないのだ、だがひとつだけ言わせてくれ……我は其方を苦しめたい訳ではない」
「へ?」
「さあ自慢の龍車に乗るがいい、我自らが存分にもてなしてやろう」
言葉の意味を考える前に、背中を優しく叩かれ開いた龍車に乗せられた。

扉が閉まり、ルドレウスさんと二人きりの中、窓から遠くなったアルさんを覗いてみるとなんとこっちを泣きそうな顔をしていた……気がする。











★★★
読んでいただきありがとうございます!

こちらの生産チートの作品、かなり長くなってしまったので二部が書き上がりましたら一段落ついたとして完結とさせて頂きます( ゚∀゚)

目処がつきましたら別作品扱いで三部を書きたいと思うのでのんびりとお待ちくださいませ



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