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八章 ほころび

あっさりと

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「そうだな……あっさりしたものが食べたいな」



重くなりかけた空気を切り替えるため王様にご飯のリクエストを聞けば返ってきた答えは何ともじじ……意外なもの。

自然と細くなる目で王様を見つめれば王様は頭をかいて笑う。

「いや~っ、いつもの食事は旨いんだぞ? ……だが少し油がなあ」
「あー……」
ここまで何日、何週間と王様やアルさん達とご飯を食べてきたからちょっとわかってしまい苦笑する。
アルさんの部屋で摂るときはアルさんが、王様に誘われて摂る食事では豪華なシャンデリア輝くでっかい部屋でお城の侍従さんが運んでくる料理はすべてフルコース。

前菜からデザートまで用意され、金の装飾の皿に一品一品丁寧に、そして綺麗に奇抜にそして美しく盛り付けられた料理は見ていて楽しく味も絶品で目とお腹は大喜び、いつも満ち足りた気分でふかふかのベッドに飛び込んでいる……けど。

「寝不足な体であれが毎日は……正直きつい……」
「……きついだろうねえ」
外はカリッカリ、中はもっちりジューシーに焼かれた鳥の丸焼きや、何時間も煮込まれ奥深い味わいの野菜のスープは飽きない味でたまらない……。
どうやって作ってるのかチェリーのシャーベットは口に入れた瞬間ふわっと溶け甘酸っぱさが舌に広がる。
そしてドリンク一つにも隙が無く、数種類の果物や野菜のスムージーが食後に出され舌を休ませてくれる。

栄養バランスも考えられ尚且つ毎日素敵な献立を作る料理人の方には今度なにかあげよう。

「俺的にはあのスープと一切れの肉で十分……」
「それは流石にじじいすぎる……」
「言葉を選ばなくなってきてるなお前……」
「だって……そうでしょ? 」
「……おう、どうせ俺は中身ジジイだよ」
最早大国の主とは言えない纏う空気が暗い王様は自粛気味に笑うと積み木で遊ぶオークちゃんの頭を撫で始めた。
正直声をかける言葉が見つからず王様はそっとキョトンと固まっているオークちゃんに任せ、キッチンに向き直った。

さて。
「……作るか」




……忘れかけてたけど王様のご要望はあっさりとしたもの、つまり。


「ねえおうさまー」
「んー……? 」
「冷たいものとかでいいー? 」
「おーう」
「キノコとか木の根とかもいけるねー? おっけ~」
「それはちょっとまて!! 」
血相を変えた王様がこっちきたけどぼくしらなーい


さてさてさて! 皆様お待ちかね!。


★ラグーンのクッキング★

用意するものはこちら

・うどん
「なあラグーン…… 」

・スーパーで売ってるボトルの昆布つゆ
「その、それは……なんだ? 」

・エノキ
「……キノコ」

・とろろ芋
「ジャガイモ……? 」

・氷
「………ラグーン? 無言で芋とお椀を渡して俺はどうすれば、おいなんで手袋を渡す……つけろってことかわかった……で、どうすりゃいいんだ」

まず、よく洗ったとろろ芋をおろし金で丁寧におろしていきます、肌の弱い人はこの芋のぬめぬめした成分でかぶれる事があるのでご注意を。

「これを、こう? む、つかみにくい、ああこうするのか、……なあこれは一体なんなんだ? 」
「とろろ」
「だからとろろってなんだ……」
とろろを初めて見るらしく王様は興味深げに芋をおろしていく。
オークちゃんも興味深々なようで王様の背中によじ登りジッと王様の手元を観察している。

優秀な助手にとろろを作って貰っている間僕は大鍋に水をたっぷり入れコンロの火をつける。
その横で小さな鍋に同じ要領で水を沸騰させ、ふつふつと泡が出てきたら大鍋にうどんをお好みの量を入れ、小鍋でエノキを茹でていく。
エノキは一分程ですぐに取り出し、流水に当てうどんは泡が吹き出さないよう気を付けながら5分放置。

「なあラグーン……腕、かゆい」
「ぶー」
……少しタンマ。

「はいこれ」
不思議そうに腕をぽりぽりとかく王様からすり終えたとろろを受け取り、代わりに酢を染み込ませたお手拭きを渡した。

「ん? 」
「これで痒い所拭けば痒いの取れるよ」
「ほう……で、この変な白いドロドロはどうするんだ? 」
「おいしく食べる」
「……食べる、これを……? 」
訝しげにとろろを見た王様は眉間の皺を深め鼻を近づけ匂いを嗅ぎ、首を傾げた。

「お酒のつまみにもピッタリ」
「それは詳しく聞かせて貰おうじゃあないかね、ん? どんな酒が合うんだワインシャンパンリキュール? それともウオッカカクテルエール…」
「ちょい待っ、詰め寄って来ないでくれる!? 」
さっきの変なもの見る目はどこ行ったよ、あと目が怖っ。




※※※




・茹で上がったうどんは冷たい水で洗い、丁寧に水気を切ったら皿に盛り付け氷水で割った昆布つゆを適量かけ上から全体にとろろをかけお皿の隅にエノキを添えれば、完成。

【とろろうどん~気分でエノキを添えただけ~】

「よしっ」
調理時間は合計で十分とかからなかったけど、それ以上に長く感じたのは気のせいかな……。
……まあいいや。

「俺が運ぼう」
大小三つのうどんを盛り付け、トレイに乗せて持ち上げようとすれば横から王様の腕が伸びトレイが持ち上げられる。
止める間もなく自然な動きでトレイを手に取った王様は軽い足取りで歩いていく。

「別にそれくらいやるのに」
「少しは手伝わんと俺の気が済まん」
王様の後に続きソファーに座り王様に言えばにっと白い歯を出し笑う。

「そう? 」
「ああ、さあ食べよう」
ん~、僕としては全部するつもりいたけど。

……王様がいいならまあいいか、食べよう。




「ところでこれはどうやって食べればいいんだ?」
「あ、食器出すの忘れてた……」
あらやだうっかり。






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