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七章 欠片

呪われた本

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昔々、ある所にラグーンという者がおりました。


ある日ラグーンが川に洗濯をしていると、川上の方からどんぶらこどんぶらこと、鎧姿のアルさんが流れてきました。


ラグーンはそのまま洗濯を終えて帰りましたとさ。


めでたしめでたし



「めでたくねえよ馬鹿野郎」

パタンと本を閉じ顔をあげれば呆れた顔のアルさんに頭をはたかれる。


三階の部屋で走り回ってた所で登場したうざい人、えっと……名前なんだっけ?


まあいいや。



ここで遊ぶなとお説教されてふてくされた顔のアルさんと共に今は一階に降りて適当に本を読んでいたのだけど、途中から飽きて適当に小話を作って遊んでいた。


「話が短い、30点」

内容を全く読んでいなかった本を本棚に戻した所で耳に入るのは偉そうな声。


その声を聞いた瞬間ふつふつと沸く謎の苛立ち。


あるぇ? 僕ってこんな怒りっぽなったかなぁ。

頭の片隅でそう思いながら腕を組みにやにやと変な顔をしている青髪モヤシをぎろりと見た。


「別に貴方に採点されたくないんですけど? 」

「この僕がわざわざつけてあげたんだよ?、感謝してほししなぁー? 」

「あーうんどーもアリガトネー! ウレシー! 」

「あぁ? 燃やされたいのかなぁーぼくぅー? 」

「ガーデニングラブな種族が火魔法使ってんじゃないよボケ」

「あぁ゛?!」

「ああ? 」

「……おめえらうるせえぞ」

もはやイケメンと言えない憤怒の顔のエルフにメンチ切った所にアルさんにそっと目を覆われる。


そしてまた沸く謎のふつふつとした何か。



「アルさん「アルギス」にはいわれたいない」

「……すまん」

アルさんがしょぼんとしたところで僕はふん、と息を吐いてこきこきと首をひねりため息をつく。


「ちょっと喉乾いた……」

「おう、そういやそうだな、おいナパス、水持ってきてくれ」

「図書館は原則飲食厳禁、食堂に行って、じ ぶ んで、用意してね? 」

「のりわりーなー」

「なんか言った? 」

「何でもねぇ、……ちぇ、いこーぜラグ」

「別に行っても良いけどアルさん資料揃えたの? 」

だらんと腕を伸ばしテーブルの冷たさを味わい、のんびりと言えばアルさんは真顔で僕を見る。


「………」

「揃えてからにして」

「………ことわ」

「ああ? 」

「俺の味方がいねえ……」

「その点についてはドブネズミに同調させてもらうよ、ほら、さっさと行ってきてもらえる? 君たちがいると正直迷惑だから早く出てってよ」

「わーったよ、お前と絡むとラグが凶暴になるから叶わん……また埋めてやろうか」


すごすごと本棚に戻っていくアルさんを眺めて僕はふわりと椅子の上であくびを漏らす。


疲れてきたしちょっとここで休もう。 





※※※


と、言うわけで。



「…………読むか(キリッ)」

改めて姿勢を直した僕はつい先程アルさんに返してこいと怒られたあのどす黒い本をでんと目の前に置いている。


なんでかって? 返してくるふりをしてこの本を影の中に入れたのだ!


アルさんはこの館の中徘徊している、うざい人もどっか行った、つまり! 僕の邪魔をするものはいないのだ!!

それに気になったものは仕方ない、後で怒られるだろうけどね!

僕は満面の笑みで黒い本を手元に引き寄せる。


えーとなになに? ………………ん?


表紙を撫で、ゆっくりとページをめくれば、真っ白な紙の真ん中にどす黒い書きなぐったような文字で。


【もし、私の愛しの家族以外がこの本を手に取らないことを、切に祈ります】


ほう。


【もし、部外者の者であれば、読み終わってはいけません】

「ほえ?」

【途中で読む事を止めても行けません】

「えぇ……」

【読み終わったり、読むのを止めたが最後、貴方は、死にたいと思うような苦しみを三日三晩苦しみ抜き、死に至ります】

あぁ、うんこれ


「呪いの本だねこれ? これ、は……ページめくろ」 

ペラッと。


【これは私の日々を過ごした日記、部外者は見るな】

oh……。

もう一度ペラッと。


【もし見たらお前を殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺こ……】

パタン。




「うん、駄目な奴だわこれ」

アルさんの言った通り戻せばよかったね。

椅子の背もたれに体を預け息を吐けば、ふいにぞわりとお腹の奥から寒けが沸き、体全体に鳥肌が浮かび上がる。


何事かと身を起こせば、テーブルの上に置いた黒い本がゆっくりと浮かび上がった。

そして僕が見ているなかその本のページがゆっくりと開こうとしたところで、ピタリと動きを止める。




瞬間、後ろからあり得ないほど冷たい風が通り抜け、本の表面がうっすらと白くな。


「誰に手を出そうとしている?」


今のこの空間と同じように冷えて鋭い声に後ろに顔を向ければ、桜の柄の入った黒い着物姿のクロユリさんが目をつりあげ怒気をありありと感じさせながらこちらに歩いてきていた。


その雰囲気にぴしりと固まっていると、僕の隣まで歩いてきたクロユリさんは僕ににこりと微笑む。


「マスターご安心を、あのような下等な呪本、わたくしの相手ではございませんし、ほら」

ゆっくりと手の向けた方を見てピシリと固まる。


「……これはどういう状況だ?」


にんまりとクロユリさんが笑った所でクロユリさんとは反対の方向から聞こえる聞きなれた声。

眉間にしわを寄せたアルさんが空中に浮かぶ本を見て、その顔のまま歩を進め、僕の肩にポンと手をおいた。


「おいラグ、後でお仕置きだ」

えぇ……。


「……返事は? 」

「…………」

「へ・ん・じ・は? 」

「…………へい」

途中から眼光鋭く見られ溜まらず僕は首を縦にふる。



ああうん、これ色々な意味で積んだわ……。

完全にやらかしたと判断した僕の頭の中には後悔の一文字がでる。


ああうん……これはスライディング土下座かなぁ、

アルさんのご尊顔を見ていると指を鳴らす音が聞こえ、浮かんでいた本がカッと光った。

そして本の周囲のテーブルが強く光り、真っ赤な火柱を眺めながら僕は他人事のように考えるのだった……。









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