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三章 新たな生活

体力 つけとけば良かった

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アイデンさんに連れられ廊下を出たはいいものの………。


「ちょ……ちょっとまって……」

体感時間で恐らく十分、今まで使っていなかった足が悲鳴をあげる。


いくら歩いても延々と続く赤いふかふかのカーペット。


途中で侍女さん達とすれ違えば隅によられてペコリと会釈。 

曲がり角を何回か行った先には下へと続く階段が、そこを降りた先で警備をしていた兵士さんに敬礼され、

そこを曲がった先は廊下でそこで歩いていた侍従さんに会釈さre………………。


「いつになったら食堂につくの………? 」

歩く事に疲れた僕がそう言うとアイデンさんは苦笑して廊下の先を見る。


「後は……そこの廊下を曲がった先にある下に降りる階段を下れば、外に続く渡り廊下がある。その先を進めば、すぐだ」

説明聞くだけでも結構長いね……………。


「まだ歩くのかね………」

「疲れてしまったか? 」


「森じゃあ疲れたらすぐ木陰で休んだりしてたからね、体力が悲しいことになって………ハァ……喋るのも疲れた…………」

言ってる途中から息が切れ始めたことにアイデンさんは片方の眉を器用に上げると僕の背中をさすってくれる。


「そんなにか……、だがこの城はもっと広いからなぁ、もう少し筋肉をつけねば困るぞ?」

広いという言葉にピシリと固まった僕は眉を寄せて少し悩むとポツリと呟いた。


「…………飛んで移動しようかな」

背中に真っ黒な翼生やしてふわふわと。


「運動をすると言う考えは浮かばないのか………」

「僕の中で運動は二番目に嫌いなんだよ」

体育は水泳以外は嫌いだよ。

「…………では一番目は? 」

「勉強、特に計算かな」

即答するとアイデンさんは意外そうな顔になった。


「ふむ?、学校にでも通っていたのか?」

「まあね、卒業まであまりない時だったかな」


そういえば受験生だったなと思い出した僕に対してアイデンは微笑む。


「なるほど……つまりある程度の学問は習っていたということか」

早く婚約したくなってきたなと笑みを深めていると僕は渋い顔になる。


「そうだねぇ、まぁでも成績は散々だったよ」

音楽以外のテストの点数が大変な事になってたな~……………、

あの時帰ってきたテスト用紙の事を思い出すと思わず渋い顔をする。


「ハッハッハッ! まぁそれも大昔の事だろう?」

すると堪えきれなくなったかのようにアイデンさんが大声で笑いだした。


大昔………か、でも実際は半年にも満たないんだよなぁ……。

「……………そうだね」

半年……もうここに来て半年も経ってるのか……。


友達とか家族はどうしてるんだろう。




一通り話をした後僕が息を整えたのを確認したアイデンはラグーンの元気の無くなった事に疑問に思いながらも歩き始めた。





※※※


「あぁ、そうだ……ラグーン」


ヨロヨロとまた歩き始め、廊下の角を曲がった所で、アイデンさんが僕の方へと向き直る。


ん?


「どうしたの? 」

「突然の事で申し訳ないのだが……」

「……? 」

歯切れ悪く言ったアイデンさんに首をかしげる。


「どうしたんですか? 」

「これは、自分でもどうかとは思うのだが……いいか? 」

「聞いてみなけりゃわからんよ」

キリッとした顔とは反対になにやらアイデンさんの手がもじもじしている……一体どうしたと言うのだ。


トイレか、お手洗いなのか、そうかまぁそりゃあこんな広い廊下だもの、トイレのひとつもしたくなるよねぇ。


「抱き締めても、良いだろうか……? 」

んで、そのお手洗いは一体どこ……ん?


「とい、ん? 」

「む?」

お互いにお互いが勘違いしていたことに気づき、僕とアイデンさんは同時に首を傾げた。


「とい……なんだ? 」

「抱き締める……だと」

「……駄目だろうか? 」

「いや駄目じゃないんだけど……こう、乞われる形は初めてなもんでね、、びっくりした」

いつもアルさんはなんの断りもなくガバッと行くから……で、事前に申し訳なさそうに断りを入れたアイデンさん……。



んー…………、んん~……。


まぁ、多分大丈夫だろう。


「てことで、ほら」

ばっ、とアイデンさんに向けて僕は腕を広げる、するとアイデンさんは一瞬目を丸くしたかと思うとすぐに照れくさそうに笑った。


「で、では……」


ゆっくりと、膝をついたアイデンさんに手をひかれ、大きくてたくましい胸に包まれる。

僕が苦しくないよう力加減も完璧、アイデンさんの首元に顔を置く形になっているからアイデンさんの顔は見えないけど多分笑顔……ん? 鼻息荒くない?


「これが……ラグーンのぬくもり、すん……匂い……これは、けしからん」

な、なんかぶつぶつ言ってるぞこの人……。






………まあいいや、うん、考えないようにしよう。






※※※





なんか危険な香りのするスキンシップを終えた僕たちはまた歩き始め、一階へ繋がる階段へ行くと、他の兵士さん達とは違う、肩になんかヒラヒラのついた制服を着た青年が向かいの廊下から歩いてきた。


そしてその青年さんはアイデンさんの前へ行くと笑顔で綺麗な敬礼を取る。


「アイデン様、お疲れ様です! 」

「お疲れ、今から昼飯か? 」

青年の挨拶にアイデンさんは親しげに挨拶を返した。


「はい! そちらの方はどなたでしょうか? 」

青年がなんとなく、少し暗いオーラを出している僕を見ながら尋ねるとアイデンさんは僕の肩にポンと手を置いた。


「彼は俺の花嫁になってもらう予定の子だ、紹介しようラグーン、彼は俺の補佐を努めてくれているターナーだ」

アイデンさんの紹介に、青年、もといターナーさんは僕に向けて再度敬礼を取る。


「お初にお目にかかります、私はターナー・ルオン・ルズ・センブレル、将軍の地位についております!、以後、お見知りおき!」

「よ、よろしくお願いします? 」

元気よく挨拶をされた事に圧倒されながらも、ちょっと何処か上の空になっている僕は返事を返す。



「ん? 元気ないようだがどうした、疲れはててしまったか? 」

「ちょっと考え事してた、大丈夫だよ」

異世界に来た、しかも多少違っていても自分の大好きなゲームの世界。

こっちに来たことに実感していたが直接とは言えないけど【大昔】何て言われるとこう。


なんか、来るね…………、でもだからと言ってそれをそんなこと知らないアイデンさんに話したって無意味だしね。

渋い顔をしていた僕だが、心配げに僕を見るアイデンさんに負の考察に心の中で蓋をして苦笑する。


「それにねぇ、こうも律儀に挨拶されるのは割りと新鮮な感じがするんだよ」

「それは…………あぁそうか、初めて会ったのがアルギスだからか…………」

アイデンさんが何かを言おうとしたがすぐに理解してふむと考え出す。

「アルギス大将軍がどうなさいました? 」

「あぁ、この子は俺より先にアルギスと出会いそして結婚するからな、…………察してくれ」


アイデンさんの様子に不思議に思ったターナーが質問して、返ってきた言葉を即座に彼は理解すると苦笑しなから僕に憐れみの眼差しを向ける。



「なる、ほど……ラグーン殿、頑張ってくださいね」

「何故葬式ムードになるのかは謎だけど挨拶されたからこっちも返そう、ラグーン・パイライトですよろしく、好きなものはお菓子だ」  

「ふふっ……よろしくお願いいたします」

おし、出来たと軽く満足しているとターナーさんがにこりと笑いながら礼をとる。


「何故ちょっと笑った」

その様子に眉を寄せてしかめっ面になってターナーさんを見るがその隣にいるアイデンさんも同様に何故か吹き出した。


「ククッ」

「だから何故笑う、僕悪い魔族じゃないよ」

アイデンさんの方を見て文句を言うがそれを笑いながらスルーしたアイデンさんは前を指差す。


「ほら、あそこが渡り廊下だその先に食堂があるからなラグーン、ククッ」

「話逸らされた、だと………!? 」


「「ぶふっ!」」

「笑わないでもらえるかなっ!? 」



廊下に僕の大声がむなしく響いた……。




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