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頑張る気はないが歩み寄る気はある

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お城の舞踏会で貴族の淑女が王子に見初められる。
貧しい少女が大商人に見初められ幸せに暮らす。


生まれつき降りる手段の無い塔に住んでいた髪が異常に長い少女が勇気を出して外に飛び出した先で出会った騎士に見初められ幸せな生活を送る。


ヒロインのピンチに颯爽と登場するヒーロー、ヒーローのピンチに本気を出す有能ヒロイン。

助けてもらった、かっこよかった、その選択が一番だった、幸運だった、王子様の手を取り、お姫様の手を取る。


俗に言う情熱的な恋愛……。


そのお題を主軸としたいくつかの物語をまとめた少し厚い本。


あんなに降っていた次の日には雨はすっかり止み太陽が顔を出した。



ただ地面はぬかるんでるからそれを避けるためにテントに1日籠り。程よく雲が出て暖かい風吹く今日は外に出てぐすたふと二人、ぐうたらだらけて過ごす、いつもの日常。

と言っても、娯楽の無い森の中でやれる事はかなり限られる訳で。

ぐすたふはゴロゴロと草原を転がり筋トレしたりリュックの中を整理したりとそこそこ楽しんでいる。
その傍ら僕は胡坐をかいて先日発掘した魔族語の本を開いていた





***

……予習完了。



「ねーねーぐすたふ」
「どしたー?」
すぐ近くで昼寝をしていた ぐすたふの名前を呼べば、大きな体がむくりと起き上がりこちらを見る。

「愛ってなんだろうね」
「 ……どうした?」
流行で言えば一昔二昔も前の作品だろうど根底は変わらないそんな疑問。

愛、恋、恋愛、ほぼ全ての種族生き物動物ずる最たる欲求。

だからこういった物語が流行るわけで……読んで楽しむことはできるけどいざ自分に重ねると……どうなんだろうか。


信じられないものを見る目で僕を見るぐすたふに僕は首を傾げた。

「なんで変なもの見る目してるの?」
「いや……へんだろ」
「なんで」
「なんでってそりゃあ……へんだろ」
「叩くよ」
「叩くな」
スッと腕をあげればやんわり手を掴まれ阻止される。

むすくれる僕にぐすたふは僕の膝元にある開いた本を見て胡散臭げな目を向ける。

「……その本か」
「うん」
「貸せ」
「へい」
差し出されるままに茶色い本をぐすたふの手に乗せれば、鼻でひとつ息を吐いたぐすたふはぺらぺらとページをめくり鼻に皺を寄せる。

「……読めねえじゃねえか」
「字違うからね」
「……魔族語覚えときゃ良かった」
「返して」
「.......なんて書いてあるんだ?」
不満げな顔をするぐすたふに手を出せば不機嫌そうに本を返される。

「童話」
少し傷んだ本をじっと見ながら言ったぐすたふは不満気な目を僕に向ける。 

「もうちっと噛み砕いてくれ」
「恋愛をメインにしたメルヘンな童話20本詩集春の18号」
「……砕きまくったな」
「砕けといわれたからやったのにそんなへんな顔されるともうさぁ……」
ただえさえない気力がもうすっからかんよ、ああもうやだ昼寝する。

「悪かった、悪かったって、疑問だけ残して寝ようとするな頼むから」
「……ちぇー」
自分から言い出しといてなんだけどもう聞く気ないわよ。

「今日はご馳走作ってやるから、な? な?」
「話を聞こうではないか」
「聞くのは俺の方な」
……そうだっけ?








***



「で、なんだっけ」
「愛についてだろ……」
「そうそう、忘れてた」
「忘れるな……」
深く溜息をつき頭を垂れるぐすたふに非常に申し訳ないけどこの質問【今日のおやつなに?】感覚で聞いたからね。

右から左に通りすぎていったよ、うん、うむ、すこし真面目になろうか。


「……まあその、この本読んでてね、ちょっと似てるなーって思ったんだよ」
「なにをだ?」
「物語と最近の僕とぐすたふ」
「……なにがだ?」
不思議そうか顔をするぐすたふは目を丸くして僕を見る。

「恋愛」
「……ほぉ?」
内容は違えど客観的に見て手元にある恋愛物語と今の僕って根底は割と重なる所がある。

「経緯とか雰囲気とか省けばちょっとそうかなって思い当たる事あったなと」
片眉を上げたぐすたふに言葉を重ねれば、面白そうに笑い胡座をかいた。

「……それで?」
あくまでも教材を見る感覚。

空想と現実を見比べて感じたただの感想……客観的なもので生憎自分自身の恋愛沙汰は興味なかったために全く知らない。

だからちょうど答えられそうな人がいたからさっき聞いた次第……だけども。

「なーんでぐすたふにやにやしてしてるのかな?」
いい加減な相槌をしている目の前の男は何故かにやにや笑っている。

訝しげに見ていればぐすたふは僕に手を伸ばすと頭を乱雑に撫で回す。

「気にするな」
「してるから聞いてるんだよ」
頭に乗る武骨な手を抑えながら言い返せば太い腕に腰を掴まれ引き寄せられる。

「ニールの話が終わったら教えてやるからほれ、続きを話してくれ」
「……仕方ないな」
「ほれほれー」
「やめい」
ぼさぼさになった髪を手櫛で直され文句を言おうに言えない僕は鼻から深い息を吐き出し少し間を作る。

さて、どうするか。

「早く言ってくれ」
目を閉じて何て言おうかと悩んでいれば頬をつつかれ、目を開ければすぐ近くににんまりと満面の笑顔なぐすたふに少したじろぐ。

ええ……。

「ちょっと……」
「お?」
「前向きに考えようと思っただけだよ……ぐすたふのこと」
最高の世話をしてもらって。
心地よい空間を作ってもらって。

美味しいおやつを貰い、僕の精神的テリトリーにいても全く拒否反応の無い珍しい人間。

「恋愛とか恋とか全くわからないけど、ある程度理解して仲良くしても良いと思うんだよね、うん……うん、それがいいね」
「………それは、本当か?」
昨日の今日であれたけど、ぐすたふの頬が赤く口角が上がっていく様子を眺めながら僕なりに少し考えて、シンプルな結論に行き着く。


「というわけで、ぐすたふにとって愛とはなんなのか、具体的には僕にたいしてどんな感情を抱いてるのかちょっと教えて欲しいなって思ってるんだけど……良い?」
好意には好意を返す、当然の事で少なからずぐすたふに対してシンプルな好意を抱いてるのもまた事実。


まぁ……ゆっくり理解していけばいいや。

「ニール」
「へい」
ギラギラと光る眼が僕をまじまじと見て、ぐすたふとの距離が拳ひとつ分まで迫る。

「……聞いても、いいか」
「どうぞどうぞ」
「今ここで抱いても、俺と性」
「却下」
ちょっとって言ったでしょ。

「ちょっとだけ、な? 気持ちよくさせて…」
「は?」
誰がドストレートな性欲向けろと言った。



今の台詞撤回するよエロ親父め。







    
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