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と、思ってました

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と、思っていた翌日。




本日は発掘した昔の荷物を天日干して洗えるものは綺麗な水で洗って磨いたりした後、全部終えた達成感を胸に晴れ渡る日光を存分に浴びてぐすたふにマッサージしてもらいながらお昼寝をしたいなというささやかな願望を持って目覚めた朝、おはようございます。


目をきつく閉じてぐすたふの建てたテントの中、毛布にくるまって転がる僕。

ごろごろと意味も無く横になったぐすたふ二人分の空間を転がり、体力が無くなれば茶色いテントの壁に頭をつけて沈黙する午前十時現在、今宵天気は悲しいかな、大雨。

それもこの季節にしては珍しい数メートル先が見えないレベルの豪雨。

何時も通りに野宿なんてしていたら今頃僕とぐすたふはずぶぬれになっていたけど流石ぐすたふは昨日拠点に戻って早々、何かを察知したのか真っ暗な夜にも関わらずリュックから大きなテントを出して組み立てて今結構快適です、はい。

荷物や火の始末を終えてテントに入ったタイミングでぽつぽつと降り始め、今現在土砂降りでたまらない。

「……」
「…い…め」
「……?」。
普段なら少し暑いと感じる筈が雨のせいで気温の下がったせいで冷たい空気がテント内を満たす、雨嫌いだこの野郎。

しかもテントの素材は雨を弾くものを使ってるからか屋根を叩く雨がシンプルに煩い、今もテント内に響く雨の音は慣れなければきついし正直慣れたくない代物。


寒いし煩いこの不愉快な状態を少しでもしのぐために頭から毛布を被り寝返りを打てば、打った先には苦笑したぐすたふがにこにこと僕に何か言ってるけど屋根を猛連打する雨のせいで全くわからない。

「……」
僕を見て口を動かすぐすたふを毛布の芋虫と化してる僕が訝し気な顔で見ると、通じないとわかったのかぐすたふは苦笑いをする、するとテントの隅に置いてあるリュックを引き寄せなにかを探し始めた。

「何探してるの?」
「…っ……た」
お目当てのものとれたみたいだけど、うん聞こえない。

じっと見ていれば嬉々とした表情でリュックから太い腕を引っ張り出したぐすたふの掌には透明な小石が転がっている。

「何それ」
「…て…?」
みてろよ、て言ったなぐすたふ、今のはわかった。

目を瞬かせる僕に口の端を上げたぐすたふは小石を指で挟むと突然何の躊躇もせずその石を粉々に砕いた。

その様子に疑問を持った瞬間、耳にやかましく反響していた雨音がピタリと止んだ。


うん?

「どうだ?」
「うん?」
子供が悪戯を成功させた時の顔を凝視していれば、にんまりと口の端を上げたぐすたふは喉を鳴らして笑った。



……なんだこいつ。

「なんだこいつ」
「ああん?」
いっけね口が滑った。

「……雨の音すごいねー」
「確かにすごいな、だから今その音を消したんだがん~ニール? いい子だから今の言葉もう一回言ってくれるか?」
あー……これ怒られるやつ~? ぐすたふ正直ちょっと無いって言える位にっこりしてる……ええ。

「ぐすたふ様万歳」
「ちげえだろ」
「ぐすたふはイケメン、ちょーいけめん」
「………へぇ?」
目が笑ってなかったぐすたふだけど今は真顔になって首を傾げている。

もう一押し。

「家事能力抜群で料理も上手くてお菓子も焼けて怠け者のお世話を苦もなくこなしてるのかっこいい、紛れもなくイケメン、ちょーイケメン、………眠気の味は劣悪だけど」
「おい最後」
さぁ、これでどうだ。

これくらい誉め殺して置けばぐすたふの斜めな機嫌もこれで元に。

「……にーる」
「む?」
「はぁ~……」
「どしたのぐすたふ、冷え性」
「ちっげぇよ」
「ん?」
手で顔を覆う想像とは真逆の反応に疑問を抱いていれば、指の隙間から僕を睨んだぐすたふは空いている手で僕を手招きをする。

「とりあえず、こっちこい」
何をされるかわからないけど、とりあえずひどいことはされないし、いくか。

「へい、んぎ」
頷いた僕はテントの奥で微妙な顔で手招きをするぐすたふの元へ毛布を被りながら目の前に陣取れば、腰を引かれぐすたふのお腹に勢いよく頭から突っ込み出してはいけない声を喉から絞りでる。

頭痛い。

「なにこれ」
なんで強制膝枕されなきゃいけないの。

「なんだろうな」
「……さては僕を膝に乗せようとしたな?」
「おう、良くわかったな」
もごもごと固いお腹に顔をつけ言えばばつの悪そうな声が頭に聞こえる。

「それで加減間違えてこうなったと」
「片手だと難しいんだよな、わりい、今度うまいもの食わしてやる」
「絶対悪く思ってない、んしょ」
「そんなことはねえぞ?」
手をついて起き上がって息を吐けば、頭にぐすたふの手が乗りいつものように優しく撫でられる。

「なんじゃそりゃ」
「さぁなー、とりあえずもう一度寝てくれ」
「……えぇ」
頭を二回三回軽く叩かれ、少しだけむっとしたけど、満足げな顔のぐすたふに怒る気力も沸かず、長いため息をついた。


しゃーない、膝枕されるか




乾パンと水さいこーであります、へい。
人肌さいこーであります大佐、へい!


「そういやニール」
「んー?」
「好きなものとかあるか?」
「んぁ?」
胡座をかいたぐすたふの太ももを借りてねそべり、人肌の温もりと毛布のなんか包まれてる心地良い感覚に微睡んでいれば、僕の頭を撫でていたぐすたふの手が止まる。


「寝るところだったか?」
「いんや、別に」
思い描いていた計画が一つもできないもどかしさは中々嫌だけど耳を済ませば微かにきこえる雨の音を聞きながら心を無にするのもまたおつだ。


「……好きなものだっけ」
「なんかあるか?」
「なんか、ねぇ……何で?」
聞かれてすぐ答えられる好きなものは残念ながら特に思い付かない。

ほとんど感覚で生きてきたからふんわりとこれ好きって奴はあるけどそれを具体的に現すのはちょっと難しい気がする。

下から見上げる形でぐすたふの顔を見ると、肘をついて前屈みに僕をみていた男前の顔が困ったように笑う。

「別に深い意味はないんだが、俺はな、お前の世話を喜んでしていたがニールの好物とか好きなものが全くわからんと今気づちまったんだよ、その、だな、……お前は何か欲しいものとか、嫌いなものとか、あるか……?」
「んん?」
最後は小さく掠れて聞こえなかったけど少し陰の差したぐすたふの顔に僕は目を瞬かせる。

「好きなものは、特にないね、嫌いなものは……どうだろ」
「嫌いな食べ物とか、嫌い人とかだな」
食べ物……は好き嫌いしないしそもそも食べないし、嫌いな人……人か。


「人……は、そうだね、デリカシーの無い人は嫌だね、関わりたくない」
「でりかしーってなんだ」
「人のプライベートに一々口だしてきたり人の行動を縛ろうとしたり……特に、自分が一番正しい、だからお前も従え、みたいなのは論外だね、そもそも人間事態そこまで好きではない」
「……っ」
更に言えばしつこかったり無駄に高圧的だったりしてたら気配消してさっさとその場から消えると思う。

「俺は……俺はどうだ」
「ぐすたふ~? まぁぐすたふは人間だけどそこまで……」
「好きか嫌いで言えばどっちだ」
「えー、言わなきゃ?」
「言ってくれ、頼む」
そんな真剣な顔で聞く内容かなこれ……。
それに段々と声が掠れるぐすたふは謎だし上の明かりで顔に影がかかって怖いけど答えない理由もない。

意図が見えないですな。

「……うーん」
「どうなんだ」
「ぐすたふの事は結構好きだよ」
「……それは、嘘じゃないな?」
ぐりぐりと顔を寄せるぐすたふに眉を寄せ頷く。

「嘘を吐く意味無いでしょ」
「それはそうだが…よぉ」
「少なくとも膝に乗せている時点で拒否しない時点で嫌いなんて事はあり得ないし、野生期間長い僕が初対面からの半分監禁みたいな事をされるがままにしても怒らない位には気に入ってるんだから、そんな死人みたいな顔で好きか嫌いかなんて些細なことを聞いて……んん?」
「勘弁してくれ……!」
思うままに言葉を重ねれば重ねるほど、段々と間近のぐすたふの頬が綻んでいく様子はみていて面白い。

どうせならこの際本気で誉め叩こうと言いきる前に顔を真っ赤にしたぐすたふは起き上がり僕を持ち上げ強く引き寄せてぐりぐりと僕の腹に頭をおしつける、  ちょっと痛い。

「え? なになに」
体を動かし下を見れば耳を真っ赤にしたぐすたふと目が合い何故か睨まれる。

「……心臓が止まるかと思った」
「止まる要素無いでしょ、」
「……ハァ」
「人の胸に顔つけながらため息吐かないでくれる?」
「愛してる……」
「話聞いて……ん?」
今なんか聞き捨てならない事言ったような……ん?


「愛してる、好きだニール」
「………う?」
こんなほいほい愛の言葉囁くなんてこの人タラシったら、こんなんじゃ世の淑女は勘違いしちゃう。

ここには僕とぐすたふだけ、それ以外にあった人間はいない。
ここ数ヵ月、あった当初から一緒にいてくれや好きと言われてべたべたと甘やかされる。

しかも相手は魔族で同性、抱きついたりたまにどっかをキスされたり頭を撫でられて抱き枕もプラスで頼めば大体のことを笑顔でやってくれるて来た。

そしてここで愛してる、求愛の最たる言葉……ふむ。

勘違いで済ませられ……ないね、仕方ない。


……腹、括るかねぇ。




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