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ある火葬場での光景と空のサイン

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明るいグレーの背広を着て、国際連合事務局の議長席に一人で座って待っていたが、始まる時間の30分前になっても、誰も表れなかった。

物音や何かの音がするたびに、総会室の出入り口を見たのだが、一向に要人達は誰一人表れなかった。そして、定刻が過ぎ、それでも総会室には三人しかいなかった。

分かってはいた。

世界の要人達は全てアメリカをリーダーとした根回しチームによって、動きを封じ込められていたのだ。

中には、私と宇宙人(異星人)との報復を恐れて、必死に我々に連絡を求める者もいたが、態(わざ)と連絡にはでなかったし、ほったらかしにしていた。

確かにやろうと思えば、狙撃兵のライフルごと消滅することも簡単だったが、それさえもなんか億劫になっていた。

私は、多分、運命を受け入れる準備を、知らず知らずに、彼らの長い長い話しの中で洗脳されていたのだろう。

私は、議長席の一番真ん中の席で、机に寝そべって、なんとなく机に左耳を押しつけて、何かの音を聞こうとしていた。

その時、ある光景を思い出していた。

親戚の伯父さんが死んで、火葬場での光景だった。

伯父さんの一人娘が、ただ静かに、焼却炉を隔てた壁に左耳をあてて、いま、焼かれているであろう自分の父親の何かを、最後の温もりの音を聞く様にして、静かに頬に涙を流しながら、佇(たたず)んでいた。

その情景を見ていた私は、本来なら、聞いてもいない筈の炎の音を間接的に聞いた風な感じがして、その場から立ち去った。

その日は、雨が一日振っていて、寒かった。

今日は肌寒いのだろうか?

そう言えば、外の天気を一回も見ていなかったな、そう思い、外に出ることにした。

一応、オーランド系とキャメロン系は私の傍にいて、見た目にはボディーガードっぽかったが、どこまで役に立つのか見当もつかなかった。

国際連合事務局の長い廊下を三人で並んで歩いている時に、オーランド系がスマホを取り出し、私にヴァチカンの高齢な枢機(すうき)卿(きょう)から是非連絡したいと、と渡された。

私はしょうがなく、携帯に出てみた、本当は、ここで、肉親だったり、友人だったり、はたまた片想いの女の子からの電話だとしても一切出ないと思っていたのだけれども、なぜかこの枢機卿には出ても良いかな、と思ってしまった。

「工藤さんですか?」

「はい、そうです」

「彼らから、夢の中でイメージを送ってもらいました。あなたはあのイメージを知ってるんですか?見ているんですか?」

「いや、彼らは私にはそのイメージを送ってくれなかったんだ、それって、結構、やばい系なの?」

「工藤さんは、本当に知らないのですか?」

「はい、知らないし、多分、そんなに恐ろしいイメージだと、私の意思も大きく揺らぐからさ、もう言わないでくれないかな」

「工藤さん、あなたって人は・・・」

「まあ、最後まで心配してくれてありがとうね、それに結局、今回の総会には誰一人来ないかと思ったけど、一応、あなたが連絡してくれたから、これでゼロではなかった、ホント助かったよ」

私はそう言って、スマホの電話を切り、また、長い廊下を歩き出した。

そして、丁度、国際連合事務局の建物前の世界の国旗がはためく辺りに、UFOを用意して、とオーランド系に伝えた。

出口に近付くにつれて、外が眩(まばゆ)い光に輝いている事が分かり、今日は晴天だってことが分かった。

全く、物騒な音はしなかった、考えたら、UFOはなんの音も発せずに突然姿を現すのだし、まあ、それが、多分、合図みたいなものなんでしょう。

ガラス張りのゴージャスな玄関を出て、何本も立っているポールと国旗を眺め、その奥のUFOへと歩きながら、日本の国旗を探していると、まさに空気がつんざく音がしたかと思うと、お腹が何かにいきなり持って行かれた感覚を受け、そのあと、恐ろしく熱い灼熱の痛みが身体を襲った。それと同時に、何発も近くのアスファルトに弾がぶつかっては抉るシーンを本当にスローモーションで私の目に映り、オーランド系とキャメロン系が私を抱え、素早くUFO内に運んでくれた、が、最初の一発がもろに私のお腹にあたり、運んでいる最中も、どこかに命中していた。仰向けで運ばれる最中、私は真っ青なニューヨークの空を眺めていた、ある物を探す為だ、そしてそれはすぐに見つかった。

それは母親がいつか電話口で言っていた飛行機雲で出来た十字架だった。

私はそれを見付けて、それが見られた!の、が一番の安堵感を与えてくれた。

もし、その光景を観られなかったのなら、死ぬに死ねない感情に巻き込まれていたに違いない。

彼らオーランド系とキャメロン系は、一切何も言わず、ただ、お腹から大量の血を流している私をまさかの学生時代の田舎の部屋そっくり畳の部屋に横にして、上からじっと見ていた。

大丈夫と言う声もかけず、名前を呼ぶ訳でも無く、ホントただじっと私を見つめていた。

おいおい、私がこんな状態なのに、本当にお腹が熱くて、今まで経験したことがないくらい、痛くて死にそうなんだけど、なんの医療的処置もせず、見守っていて、頼むから痛み止めでも、その人類を超越したテクノロジーからだしてくださいよ。

とまで、一瞬毒ついてしまった。

余りの痛さと、血が急速に身体からなくなってきたから、熱いのに寒くなって、私はそのまま、失神したように、気が遠くなった。

その時でも、なんとなく、意識って言うのは起きているらしい、二人の意識が突然入ってきて、二人の考えが一瞬にして理解出来、私の意識はもう遥か外に出たがっていた。

私は一瞬で全てを理解した、いや、覚醒したと言ったほうがよいか、全ての知的生命体は必ず全人類の罪を一身に受けてキリストと同じような体験をしないといけないと言うこと、それが知的生命体の肉体を有した者の頂点であり、よりレベルの高い精神レベルの扉を開ける鍵でもあると言うこと、そして、人類はまた新たな自己犠牲の姿を目撃することにより、更なる高みに行ける唯一の知的生命体であると言う事を。

「先生、お久しぶりです」

オーランド系とキャメロン系が私にそう言った。

彼らの顔は本来の彼らの姿に戻っていて、その方が、私は識別が可能だった。

「ああ、思い出したよ、嘗て我々が、人類が生まれるべく環境を壊した張本人であることと、その罪滅ぼしとして、私が、人類に対してのキリストのごとく自己犠牲を見せる役を自分で志願したと言う事を」

私は自由になった意識をもう一度確かめるようにして、宇宙空間から見える地球と人類を色々な角度から眺めていた。

次はどんなシナリオを私は書くのだろうか?

そう思っていると、いつの間にか二人の意識は消えていた、多分、今度は彼らのサポート側なのかもしれない。

そう、

なんとなく思った。





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