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知的で洗礼された復讐
しおりを挟むパーテーションで仕切られた幾(いく)つもの個室では芸能関係、
各プロダクションや大手広告代理店の社員らが様々な案件で打ち合わせしていて、
大きなフロアー内がガヤガヤと煩(うるさ)い中、
片岡さんと僕は今(いま)空(あ)いたばかりの、
誰かが飲み残した紙コップ、
多分コーヒーの飲みかけの紙コップがあり、
それを待合せの局社員はテーブルの端にどかして、
徐にA4サイズの紙の資料とタブレットを置いたので、
片岡さんはまず、局社員に僕を紹介し、
僕は片岡さんに作ってもらった名刺を出して名刺交換をすると、
「プロデューサー?」
と不思議そうに言いながら、
ぱんぱんに膨らんだ名刺入れを出し、
分厚い様々な芸能界の業者名刺が入った場所から、
探しに探して
「あったあった」
と言って僕にくたびれた自分の名刺を渡した。
そして、彼の方から席に座るなり、
「急いでいるから、手短にね、で、例の件なんだけど」
と、結構せっかちに片岡さんに話を振った。
そのお台場TV局の社員の名前は岩沼と言う名字で、
部署が編成制作部第2チームでリーダーの肩書きがあった。
見た目は30代中頃かもっと若いか、
小太りでメタボな体型かもしれない、
そして髪は薄毛でメガネを掛けていた。
そして、岩沼もTV業界人としてなのか、
単なる番組宣伝なのか、そこのTV局が年に何度かするお祭り的な27時間TV番組とかの告知が入った黄色のTシャツをこれ見よがしに着ていた。
片岡さんが早速、鞄(かばん)からタブレットを出し、
最近あった、異世界両国芸術芸能セレブ達の会合イン舞踏会映像を流し始めたので、
僕はびっくりして片岡さんに
「何時(いつ)の間に撮っていたのですか?」
と聞くと、片岡さんは
「前田カメラマンが撮っていた画像データをコピーして頂きました」
とやっぱり小声で答えられた。
当然、僕と片岡さんにはバッチリ、クッキリと鮮明に動画が見えるし、
音量を上げれば音も聞こえるんだけど、
またまたお台場TV局の岩沼さんには何も見えないし、何も聞こえない。
彼の話しだと真っ暗な画像だけらしい、
僕は砂嵐の画像かと思っていたから、全くの黒の四角ですか?
と本当に残念に思った。
「なになに、えっ、片岡ちゃんや武藤さんには、なんか見えているの?
マジで、ちょっとバカにしてんじゃない、これ、本当に見えている訳?
以前、片岡ちゃんが送ってきた画像や動画も今のタブレットのように何にも映ってないのと変わらないんだよね。
俺を担(かつ)ぐ気?」
いえいえ、そんな滅相(めっそう)もない、
などと片岡さんは下手にでた会話を交わしながら、僕に説明を促(うなが)した。
「バカバカしいとは思いますが、一回だけ、僕の言う通りに復唱してください。
そうすれば、画像や動画が見えると思います」
僕は凄く簡単な呪文、合い言葉として
「見えよゴマ」
と言って、岩沼さんに、恥ずかしいけどお願いします。
と言うと、岩沼さんは、
(仕方ないな、付き当てやるか)
見たいな態度で、小さな声で、タブレットへと囁くと、
岩沼さんの表情が見る見る変わってしまい、
暫(しばら)く動画映像の光景を見続けていた。
「これって、音声対応か何か?」
「いえいえ、そんな技術では無いですね」
「ふ~ん、でもなにか音声認識か何かでロックしたり解除なのかな?」
岩沼さんは勝手に今のIT技術テクノロジーの発達で、
こんな芸当は出来る世の中になったんだな~と思い込んでいた。
ま、そう考えて頂く方が都合がいいか。
で、本題を岩沼さんは異世界のステージ風景を驚嘆した感じで見続けながら、
アメリカ最大手の映像ストリーミング配信事業会社「ネットムービーズ」のCEO、
つまり社長がこの不思議な穴(ダンジョン)と不思議な世界(異世界)映像が見えたので、
しかし、他の役員や社員達、家族親戚も皆見えないので、
これを送ってきた人を探してもらい、是非紹介して欲しいとの事だった。
「ネットムービーズの日本支店からそう連絡が来たので、まずはこの動画に何が映っているのか?
知りたかったのと、片岡ちゃんにここに連絡して頂こうと思ってさ」
岩沼さんはそう言って、
持ってきた書類の中からネットムービーズ日本支社の担当者の名刺が拡大コピーされたA4コピー紙を片岡さんに渡した。
「しかし、この外人女性、新人のアーティストなの?
片岡ちゃん、凄い美女だね、スーパーモデルが歌手に転向したのかい?
しかし、日本語が上手いじゃない、彼女、日本育ち、だけど、この曲、松田聖子のでしょう?
JASRACには当然通しているでしょう?」
岩沼さんは業界人だから当然、音楽著作権の事を持ちだしたが、
僕は、一回片岡さんのタブレットに流れているシャルル歌姫動画をタップして消した。
ので、慌てたように岩沼さんはタブレットに「見えよゴマ」と言ったけど、
そこには、岩沼さんが先程から見えていた、真っ黒な画像しか映っていて見えなく、
当然、僕らには再生して流れるシャルルの歌う動画が見えていたので、
そこで初めて、片岡さんが言っていた、TV局社員達によるエリート意識な上から目線に対しての、
僕たちのささやかな知的で洗礼された復讐と言うか、
知的芸術異世界に選ばし者の復讐、ザマア的な気持ちを味わってしまった。
「あれ、もう一度、さっきの映像を見たいんだけど、どうして見えないの?」
「本来は見える人と見えない人がいて、今の処、圧倒的に見えない人が多いんですよ、
それと、見えるようにロックを解除するには今の処、武藤さんじゃないと出来ないんですよ」
「えっ武藤さんは、IT技術者なんですか?」
岩沼さんはまたまた驚いた表情で、僕を見て質問したところで、
「岩沼さん、そろそろお時間が30分近くなりそうですので、
僕たちはこの辺でお暇(いとま)致(いた)します。
お忙しい処、お時間を頂きまして有難うございました。
こちらの案件は、早急に対処致しますので」
そう、片岡さんが立て続けにそう話すと、僕に合図を送り
「さあ、次の処に行きましょう。我々も次がありますので」
と言ってテーブル上のタブレットを、素早く鞄に仕舞い、お台場TV局を後にした。
片岡さんは何時(いつ)も以上に上機嫌でした。
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