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人事部社員をオーディション審査する
しおりを挟むそれは、今回に限っては事前に、この事を教えてもらってはいなかった池田瞳部長にも言えることで、日頃から冷静沈着な物腰で社内ではクールビューティーと言われていたのに、
「聞いてません、聞いてません、聞いてません」
を連呼し、空いた口が閉じれなかった。
そんな中、相澤と黒木だけは、その場の雰囲気を楽しんでいた。
それは、
前々からW大学の学生達とのミーティングの中で密かに話し合われたことだった。
きっかけはW大学の新歓ブースやステージ企画運営から、
学園祭の話題になり、本城直人が唐突に
「それって、会社や企業だと株主総会が、そんな立ち位置なんですかね。
でも、余り楽しくなさそうだけど」
と言った言葉から、相澤純と黒木徹は、全く新しい発想とコンセプトで、リ・デザインとして株主総会を企画運営するべきでは、と密かに学生を交えてミーティングを開始していたのだ。
「以前、ここで直人君とダンスの先生が話していたよね」
「ええ、もしかしてダンス講師のAKIRAさんのことですか」
つい最近、W大学のスタジオ内に㈱ウシの社員、といっても内部統括グループのメンバーが入れ替わり立ち替わり訪れていて、その中でもほぼ常連さんが相澤純と黒木徹だった。
相澤純が本城直人に話しかけた格好だった。
「そうだ、そのダンス講師のアキラさんが話していた日本で韓国の芸能事務所が1万人の応募者を集めてオーディションした話しで、気付いたというか、触発されたんだけど」
「ああ、あの日韓合同オーディションプロジェクト《Nizi Project》のプロデューサーであるJYパークさんのことかな」
「そう、その虹プロジェクトの話しで、審査員でもあるJYなんとかが、
毎回、オーディション時に名言を言って感動させる、みたいな、
その話しで思いついたことがあったんだよ」
「しかし、相澤さん、なんとまあざっくりとした言い方ですね。
あれからNiziU(ニジュー)の事や《Nizi Project》の事は勉強していないんですか」
「ああ、まあ、なんとなく、ウチの若い女子社員達はよく知っているみたいだけどね」
どうやら相澤純は勉強していないらしい。
直人に「Youtubeで観れますよ」とか言われ、またまた冷やかされていた。
「まあ、おいおい勉強するとして、なにを話したかったのかな、ああ、その韓国のプロデューサーがオーディション時の少女たちに名言と言うか、彼本人の哲学というか、芸能人やアイドルだけではなく1人の人間として、人として大切なことを言うじゃない、《真実・誠実・謙虚》を持ちなさい、みたいな、さ。
そのような数々のエピソードをダンス講師のアキラさんが話す内容を聞いた時にさ、同時にこうも考えていたんだよ、これって弊社の人事やリクルート活動に重大なヒントが隠されているのではないのかってね。
つまり、㈱ウシの人事部の社員や、特に採用担当者、就活中の学生や中途採用候補者への面接官こそが、先程のプロデューサーのような哲学を持って、1人1人の候補者と向き合う人材じゃ無ければいけないんだな~と、強く感銘を受けて考えたことなんだけど」
「それって、凄いことですよね。
㈱ウシの人事担当者や面接官が、みんなJYパーク氏みたいな、就活生全員に真剣になって向き合うってことですよね」
相澤と直人の会話に、自然と学生達が集まってきた。
「まさか、アイドルのオーディションの話しから、会社の人事の変革を考えるヒントにするなんて、でも、そうそう理想的にはいかないでしょうね」
Webマーケティングサークルの加山悟がそう意見した。
「そうだけど、俺が前にここで告白と言うか、俺の就活時の話しで言ったけど、㈱ウシに入社できたのは、俺の実力では無く、その時代と運だった、みたいな、さ。
だから、必要以上に自分を責めないようにって、さ、
みたいなこと言ったんだけど、
それって、後になって思い出して、
あれって自分だけが告白して救われたような、そんな感じだけど、
根本的には何も解決していない、
またまた同じようなことが就活の時期に繰り返され、相澤さんが体験したようなSNSでの誹謗中傷などで嫌な思いをお互いすることになったり、
あれの一番の原因は、リクルートひとつ弊社で、
時代に合ったやり方を真剣に検証したり改善しなかったばかりか、
我が社に迎え入れるべく未来を担う大切な人材採用までも、
出ました業者丸投げ、
専門業者であるリクルート会社とマーケティングコンサルタントに御伺いを立てての自分自身で考え行動していなかったツケが至る処に、
人事採用の重要な場まで侵され続けていることに気付く、
大きなきっかけとなったのは、自分自身も前々から認めていたんだよ」
「黒木さんまで、そんなことを考えていたなんて、しかし、具体的には、どんな?」
相澤が黒木の話しの先を追った。
「そこで、稚拙な考えながら、例えば、まず初めにどうするか、と考え、
㈱ウシの社内で経営企画本部・事業統括部グループの社員一人一人が、社内の全社員をちゃんと見ているのか、ちゃんと評価しているのか、そして、1人1人の社員にどうなってもらいたいのか、といった1人1人の社員教育の構想まで出してもらう。
とか、仮にも就活生にとっては企業の顔であり㈱ウシの象徴となる人事担当者が、彼らに相応しい人間性と哲学を持っているのか、を、人事部社員一同を毎回審査し試験する、
所謂オーディションを開いて、納得のいく人材で人物なのかを見極める。
そうすることによって、
もっともっと人材採用に真剣に真意に誠実に謙虚に向き合ってもらえる、
そんな人に面接されるのなら、
就活生や中途のリクルーターにも安心して貰えるし、
もしも縁が無かったとしても、
今までのような機械的な冷たいシステマチックな不採用通知文章なんて書いて送れませんて、あの御祈りメールこそが、人事部の誠実さと謙虚の欠片も感じない現れであり、イイ例です。」
「黒木さん、なんか熱いですね」
相澤の言葉に
「ここ最近、
学生達と会って、ミーティングやら制作や検証の場に立ち会っていると、
なんか申し訳ないというか、弊社人事部の社員達は真剣に採用する学生達に向き合っているのか、ならばここまでやっている人事部社員はいるのか、と考えると、自分の就活時の禊(みそぎ)と言うか、本来ならもっと優秀な女子大生が居たのに、会社の都合だけで自分が採用といった負い目が、ね」
「いやいや、黒木さん、それは違いますよ。
そんなに自分を否定しないでください。
それはあくまでも結果であって、黒木さんは全然悪く無いです。
それにもしかしたらですが、そんな優秀な方が㈱ウシに入ったからと言って、大学と企業とでは違うから、もしかしたらとっくに㈱ウシに見切りを付けて辞めたかもしれない。
自分の能力が、才能がここでは活かせないってね。
そうしたら、双方に被害が出ますよ。
ね、人生はどうなるか分かりませんから、でも、黒木さんの言っていることも分かります。
㈱ウシは全体的に業者丸投げ体質で、本来、最も大切で要でもある未来の人材や育成までも有識者という言葉での専門業者にお任せ、丸投げですから、就活生に対する誠意やら謙虚さに大きく欠けている、と思わざるを得ない。
これに対しては、黒木さんの意見にも納得し、なにかアクションを起こしたいと真剣に思いましたね」
「じゃあ、一層のこと、ホームページ内に人事担当者や面接官の紹介ページを制作するってのはどうですか?
そのページに紹介された人事部社員は、㈱ウシの厳しい人事部オーディションで幾つものミッションをクリアして、勝ち残った者であることも、動画でオーディション風景もアップするとか、
文字と静止画像だけだと伝わりませんからね」
普段は大人しい映像写真サークルの藤(ふじ)孝(たかし)の発言に、
その場に集まった一同はイイね、
などと言い合いながら和気あいあいと笑い合っていた。
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