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ニューハーフショーパブ「ナナオ」店、再び
しおりを挟む黒木はほろ酔い気分だったので、ちょっとご機嫌風な足取りで地下鉄の地上出入口消えて行った。
純はと言えばビールをコップ一杯だけしか飲んでいないので、
殆ど素面(しらふ)状態だから飲み足りないし、昔の仲間達と今飲むと色々と内部統括グループのことを喋りそうで、
そうこう考えていると、広告代理店の吉田と結構前に連れて行ってもらった六本木のショーパブ、
ニューハーフクラブのことを思い出し、財布に入っている筈のお店の名刺か割引券を探し、
そこにチケットのような「ナナオ」店の割引券を発見した。
そして、まだ使えるのを確認しながら地下鉄に乗って六本木駅まで向かった。
そんなことを思い出していると、
しばらくして純の横に指名したナオミがスパンコールのミニの格好で現れ座ってきた。
「お久し振りです。1ヶ月ぶり位ですか、
御指名有難うございます」
喋り方はオネエとはほど遠いが、意識しているのか、
かなり敬語敬語した喋り口調でナオミこと本城直人は挨拶をした。
「やあ、久し振り、1ヶ月は経ってはいないと思うけど、確か直人君だっけ?」
「覚えてくれてたんですか?
って、それよりもお店の中では本名を呼ばないでくださいよ」
「悪い悪い」
純はそう言いながら久し振りの「ナナオ」店のボックスシートの感触をお尻に感じていた。
純は黒木と同じように今でも独身だったのなら、ニューハーフクラブよりも女の子が居る処、
所謂キャバクラか会社に近い銀座の料金が安いクラブにでも行っているのかな、と、
ふっと考えてしまった。
いやいや、多分、女性の多い職場と環境に辟易して、
もっと早くニューハーフクラブか新宿のゲイバー通いかも、と考えていると
「あっ、そう言えば、この前、話していましたよね、
なんか部署が変わるって、異動するって、新しい部署はどうですか?慣れました?」
そう言えば、そんな会話もここでしたような、
余り詳しくは覚えていないが、そんな話をここで、ナオミにも喋ったんだろう。
「相澤さんで名前、いいんですよね?
あの時、相澤さん、新しい部署の異動で、結構ナーバスになっていたから、
そこにいくと吉田さんは能天気に、いつもの乱痴気でしたけどね。
そう言えば、今日はお1人様ですか?
吉田さんとは?」
純は、困った時の例の作り笑いをしながら、ナオミの顔を見た。
「困ったこと、私、言いました?」
ナオミが返した言葉に、純はおいおい、俺の本心、分かるって言うの、的に思いながらも、
作り笑顔から、本当の意味で微笑んでしまった。
「まあね、今日は1人で飲みたいと思ってね」
「そうなんですね、でも1人で飲みたいんだったら、こんなウルサイ所よりも、
静かな感じのショットバーとか良かったんじゃないですか?」
「おいおい、そんなこと言ってお店に悪いんじゃないの、営業妨害だよ」
「そうすか、ただ、1人で飲みたいのなら、よくTVドラマとか有るじゃないですか、
ショットバーで静かに飲む仕事帰りのサラリーマンって」
「あれだって、よく観ると、知り合いのマスターとか、従業員が出て来て、
上手い塩梅の距離感で会話してるでしょう?
だから、本来は誰とも喋らないでお酒だけ飲むのって、結構しんどいような」
「やっぱり1人じゃ寂しいとか、でも相澤さんって、結婚してるんでしょう。若いのに」
「若いって、俺、直、ナオミ君に年齢教えたっけ」
「やだな、思い出して下さいよ、じゃあ、私の年齢は何歳でしょう?」
「ああ、確か20歳かな、ああ、ああ、思い出したよ、
ダンスショーの後にナオミ君がボックスに戻って来て、話しが盛り上がったんだった」
「そうそう、相澤さん、ショーのダンスに大分喰いついて根掘り葉掘り私に質問しましたよね」
「ITZY(イッジ)だっけ、ナオミ君が踊っていたの」
「違いますよ、私が踊ったのはBLACPINKの『DDU‐DU DDU‐DU』です」
「ああ、思い出した、アレのダンスってかなり難しいみたいだって、そういえば話していたね」
「ITZY(イッジ)の『DALLA DALLA』だって難しいですよ」
「どれがどれだか、オジサンにとっては区別付かないけど、
要は俺みたいなオジサンにとっては全部踊るのは無理、踊れないって」
「練習すれば踊れると思うけど」
「ダンスは観るのはイイけど、自分で踊るのは、ね、昔からダンス、好きじゃ無かったからな」
「ダンス、嫌いですか?」
「そうじゃなくってさ、観るのは好きって言っているじゃない、ただ、
自分で踊るのは好きじゃないだけさ、そもそも身体も固いし、
盆踊りでも踊りを覚えるが怪しいくらいさ」
相澤純は、そう言って、盆踊りの上半身真似をして見せた。
「でも、踊れる男性ってモテるんですよ、相澤さんなんかイケメンなんですから、
更に踊りが出来ると鬼に金棒っすよ」
「直人君、いやナオミ君はさぞかし女の子にモテるんだろうね。サークル、ダンスサークル?
あれ、正式名称はなんだっけ」
「K‐POPカバーダンスサークル、
で、正式名称、もっと正確に言うとW大学Gaia(ガイア)って言うんですよ」
「ガイアって、なんか壮大な名称だね」
「K‐POPカバーダンスサークルって結構、発足が新しいし、
なによりも女性の部員が圧倒的に多いから、何か地球に優しいような、
女性ってエコとか、そんな感じ、好きでしょう?でも、ちょっと古いかな」
「ふ~ん、じゃあネーミングは女子が考えたの?」
「いや、詳しく説明すると、私かもしれないです。
女子のリーダーからイメージやらコンセプトって言うんですか、
そんな感じでふんわりとしたお題を頂いて、私がそれを咀嚼して調べて、
そんな感じでネーミング案を幾つか出して、
例えば候補にギリシャ神話に出てくる踊りの女神の名前を候補にしたり。
ギリシャ神話に登場する女神で、踊りの神『テルプシコラー』とか。
日本だと『岩戸隠れ』の伝説に登場する日本最古の踊り子、芸能の女神『アメノウズメ』とか、
インドの踊り子の女神だと、曙の女神『ウシャス』とか芸能の女神『サラスヴァティ』とか、
そうそう、芸能の女神『サラスヴァティ』って、日本では七福神の一員である、あの弁財天なんですよ。
水や財宝、音楽にご利益のある神様らしいです。
だから、芸能を目指している者は弁財天をちゃんと拝まないとね」
「ナオミ君、君って凄いね。博識だね」
「いえいえ、ただただ調べたりするのが好きなだけですよ。
で、私たちのサークル名がW大学Gaia、他の大学のサークル名が例えば、
青山学院大学PALAN、
東京大学STEP、立教大学Cubic、法政大学chumuly等、
他にもライバルのサークルが大学対抗K‐POP カバーダンスコンテストの優勝目指して、
日々練習頑張ってますよ」
ナオミ改め直人が熱く語る大学界隈でのK‐POPカバーダンスサークルの話しは、
社会人である相澤純にとっては、全くの未知の世界であり、
新しい世界の話として面白く聞き入っていた。
「ナオミ君は、本当にダンスが好きなんだね」
「ダンスが好きって言いますか、ダンスを通じての芸能?
エンタテインメントって言うか、エンタメの歴史ですかね。
自分は、ダンスを通して音楽に興味を持ったり、
音楽が映画やドラマで使われているのを知って、
主題歌や劇中歌、エンディングに流れている映画作品を追って観たりとか、そんな感じですから、
ダンスだけが好きって言われると、ちょっと・・・」
「なるほど、そうか、そうだよね、それがオジサンの、大人や社会人の悪い癖だね。
何でも、限定して、現象をひと括りにする、
それでいて分かったような感じで『分かった分かった』って言う感じ」
「いや~、そんなに非難した感じで話した訳じゃないけど、そうっすね。
相澤さんが言った直ぐに『分かった分かった』って言う感じの人は、
オジサンであれ同世代でも、信用出来ないっすね。
やっぱり」
分かった分かった、の口癖を純は一瞬だが頭の中で思い出していた。
会社の役員連中に多いな、そう言えば広告代理店の吉田も調子よく『分かった分かった』を連発するな。
そうだ、灯台もと暗しでもある妻の香織、
彼女も最近富みに会話の中に『分かった分かった』が多くなってきたな。
直人君に言わせると、信用出来ない人物達って訳だ。
「頭が痛いね、俺の周りでもいっぱいいるよ、自分だって知らず知らずに言っていたりして」
「相澤さんは今の処、大丈夫っすよ。
あれって自分の考えなんすけど、自分の事が大好きで、
自分の自己評価が異常に高い人が良く言いそう、って気がします。
あくまでも自分の考えっすけどね」
「そうか、例えばプライドが高いとか、スーパーポジティブ思考とか?」
「どうすかね、具体的な例が無いと、なんとも、
例えば、自分の話しですけど、
同じサークルで芸能事務所も一緒で同じ大学のガールフレンドがいるんすけど、
元々は高校生の時はお互い違っていたし、付き合う友達も違っていたんだけど、
大学が一緒になって、自分がPOPカバーダンスサークルに入っているのを知ってからなのか、
急に接近して来て、興味あるから紹介してって感じから、何かと付き纏う感じになり、
最初は栞もモデルですからね、顔もスタイルもイイから悪い気はしなかったけど、
異常に前向きというかスーパーポジティブというか、そうだ、なんかイニシアチブ、
主導権を取りたい性格だから、皆で仲良くが出来ないというか、
彼女の意見ももっともなんだけど、ね、なんていうか、マウントを取りたいというか」
ナオミ改め直人は、思わずガールフレンドの栞の名前を口走ったが、
本人は話しに夢中で気が付かないようだった。
純は話しを聞きながらも
(ふ~ん、直人君には栞(しおり)って名のモデルをやってるガールフレンドが居るのか)
と心にメモしていた。
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