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ナナオ店までの紆余曲折

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それに東京支店と言っても、東京都日本橋にある社屋はテナントではない歴(れっき)とした自社ビルで、
大阪本社ビルよりも大きく、社員数も東京支店の方が実際多かった。

だから実質社員からは西の大阪本社、東の東京本社とも呼ばれていて、
実際の売上自体も東京支店の方が上だった。

だからなのか、
最近では奇妙な現象として大阪本社から東京支店に配属される事が栄転と密かに呼ばれ、
その逆は都落ちや左遷とまで揶揄されていた。

そんな大阪本社と東京支店の逆転現象が顕著になってきた今日、
遂にと言うべきか東京支店にも社長室直轄の内部統括グループが発足することとなり、
本来なら社長御膝元でもある部署に出世街道に選ばれた相澤純にとっても、
大変喜ばしいことなのだが、彼本人にとってはそうでも無いようだった。

相澤純の考えとしては、やっと総務部IR・広報グループの年間の仕事内容にも慣れ、
今度は今までの業務内容の問題点を分析し改善案を構築し、
より効率良く能率アップも目指していこうと心弾ませていたのに、また一から出直し、
みたいな状態が残念でならなかったからだ。

「私よりも社歴が長い先輩や、優秀な人材がいると思われますが、どうして私なのですか?」

最近、大阪本社から東京支店の社長室に栄転となった主任秘書に東京の秘書室で相澤純は質問した。

「相澤さんは管理本部総務部IR・広報グループから内部統括グループに配属の移動は何か不服でも?」

「不服はありませんが、やっとIR・広報グループの仕事にも慣れ、これからは更なる戦力になるために諸先輩方に恩返しがしたいと考えていましたので・・・」

「大変立派な心掛けですね、しかし、社長や役員の組織編成の中で是非ともIR・広報グループの中から相澤さんの名前が挙がりましたもので、また、今回の人事異動は他部署からも少なからず社員が動きますので、相澤さんだけではないのですよ」

主任秘書は、どうしても部署移動が出来ない理由が無いのなら、
無駄な会話は慎んで欲しいと言わんばかりの冷たい瞳を、メガネの奥から光らせていた。

「相澤さんが気になっている仕事内容のことですが、内容がガラッと変わる訳ではありません。
例えば経理部から営業部とかね。
そんな心配はありません。
今まで通りIR・広報的な、その解釈をそれよりも大きく捉えて頂くような、
企画宣伝やマーケティングの要素にも、いやそれ以上の職種にも関わって頂く所存です」

「はい?」

秘書室には外が見える窓が一切ないから、社長が購入したのか、
お取引関係者から頂いたのか分からないが、
大層立派な額縁の花瓶に入った花を描いた油絵や風景が四方の壁に飾られていたので、
純はただただ主任秘書の後方の壁に飾られた油絵を見ながら、素っ頓狂な声質で答えてしまった。

「仕事内容に関しては、辞令後の部署内全体ミーティングの時に、
社長から直々に説明がありますので、この件に関しては他に質問が無いのでしたら、
私からの要件は以上になります」

相澤純は閉塞感のある秘書室の雰囲気に居た堪れなくなり、挨拶も早々に秘書室から退散した。

そんなことで、以前のように広告代理店の吉田と仕事をすることも無くなると思い、
まずは今までの仕事上での感謝を込めて電話をしたら、
まずは銀座にある会社まで着て頂きたい、
心ばかりの慰労会を、と持ちかけられ、そのような大袈裟なことは、と純は断ったが、
吉田の押しの強さに通されて渋々吉田が勤務する銀座の広告代理店まで会社帰りに訪問したのだった。

そして、紆余曲折があり銀座の料亭から、
現在のここ六本木にあるニューハーフのショーパブ店「ナナオ」で二次会となった。

吉田と相澤とがニューハーフのショーパブ「ナナオ」店までに辿る付く紆余曲折はというと、
吉田としては会社が銀座だから立地として東京の高級歓楽街でもある夜の銀座の高級クラブで接待をと考えていたのだが、
相澤純は頑なにホステスのいる銀座のクラブ行きを拒否した。

幾つかの理由がある。

まずは妻である香織の性格によるところ。

結婚前や新婚当時こそ癒し系のおっとりとした優しい性格とばかり思っていたのは、
単なる猫を被っていただけで、極度の潔癖症があり、
その中には純がキャバクラ等の夜の接客業の店に行くことを酷く嫌っていたこと。

また、純にとってもここ5年間もの繊維専門商社㈱ウシの見かけ女の園のような職場で働き、
妻である香織までとはいかないが、
職場での上司・同僚・部下の多くの女性社員との社内業務に辟易していたので、
職場や家庭以外こそは女性のいない安息の地に避難したい、と切に願っていたのだった。

そんな内容の理由に吉田は、イマいちピンときていなかったが、それでも無理に誘うことは無く、

「だったらゲイバーとかニューハーフクラブとかならどうですか」

の提案に対し、相澤もそういう店ならば気晴らしになるかも、と一瞬考えたが

「ゲイバーはちょっと、新宿二丁目あたりの本格的な処は・・・」

と難色を示すと、

「六本木にあるニューハーフによるショーパブ店ならどうですか?
ショーが宝塚みたいで楽しめますよ。
まっ、宝塚の反対バージョンですけどね
それに、その店、断然女性客が多いんですよ。
最近ではTVバラエティーでもオネエタレントが流行ってますからね」

純がそれならイイかも、と返事を返したので、吉田が

「そこで決まりですね」

と返事を返しながら通りで捕まえたタクシーに一緒に乗り六本木へと移動し、
ニューハーフ達の歓迎を受け、
定期的に開演するショーが始まるのをブランデーの水割りをチビリチビリ飲みながら待っていた。

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