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小話
*小話5*
しおりを挟む【寿司屋でのアレコレ】
「ご馳走さまでした!」
いつの間にか会計も済ましてあり、カチョーは車を持ってくると言って私を残して店を出て行った。私は女将さんと入り口で待つ。
すごく美味しかったと伝えると、とても嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。大将にそう伝えておきますね」
「小鉢のも美味しかったんですが、なにより一口で食べられたのが嬉しかったです」
「ああ、それはね――」
女将さんは、チラっとカチョーの去った方面に視線をやり、ふふっと笑った。
「お連れ様がこんなに可愛らしい方だと聞いていなかったので、大将も私も驚いちゃって。今日のお食事は食べやすいようにしてくれって袴田様がリクエストされたものなのですよ。さらに料理を順番にお出しする所を、一度に運んで欲しいとおっしゃりまして……。何がどうなっているのか分からなかったのですが、貴女を見たらいっぺんに理解できました」
「ええっ!?」
あの一度に運ばれた一口サイズの料理達の理由はそういうことなの!?
カチョーの心遣い……でいいのかな。
いやいや、でも食べさせてくれるってなんか違うような……
「袴田様の大事になさっている方がいらして、こちらも幸せのお裾分けされた気分です。また是非いらしてくださいね」
「う、あ、ははははいっ!」
返事をしたタイミングでカチョーの車が店の前に滑り込んできた。
再び礼をいい、俯いたまま助手席に乗る。
「顔、赤いけどどうした?」
「なんでもありましぇ……ん……」
カチョーのさりげない優しさに、キュンとしたなんてナイショです。
【ある日の休憩時間】
「へー! みどりセンパイって、マメ橋センパイの紹介で!」
「こ、こらっ! ユリちゃん声大きいって!」
もがもがと口を押さえられた私は、改めて声を抑えた主の『橋ヶ谷みどり』センパイを見る。付き合い始めはつい先月というだけあって、頬を染めちゃう初々しさ! きゃんわいー!
体育会系で学生時代を過ごしてきただけあって、サバサバとしたカッチョイーおねえたま。ま、一個上なんすけどね。
お相手は二十七歳で、マメ橋センパイの大学時代の友人だそうだ。
うーむ、あのセンパイってほんっといい物件持ってるな。携帯で撮った写真を見せてもらって思わず唸る。めっちゃイケメンじゃないっすか! これはこれはこれは――ムホホ。
そう、例えるならば。
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クール! クールイケメン! 戦隊でいうとブラック!
いいねいいねいいですねー!
フンフンと鼻息荒く画面へ食い入るように見ていたら、パチンと閉じられてしまった。
「減る!」
「あーんいけずぅ!」
「マメ橋センパイ、彼女が出来たからそれでも合コンの幹事を自重しているみたいけどね。まだまだカード持っていると思うわ」
「百合おねーさま……怒らせたくないんですね……」
「そうね。きっと静かに怖いわよ」
見た目『美人女教師』な百合おねーさまは、絶対ボンテージが似合います! ええ、ここは力いっぱい(脳内で)主張させてイタダキマス!
そのおねーさまが怒ったら……いやいや、超怖いですね!
「ま、幹事とか調整が趣味のようなモノらしいし、百合先輩がちゃんと手綱持ってるから大丈夫じゃないの?」
みどりセンパイは、マメ橋センパイの浮気を心配しているようだが、チッチッチ! マメ橋センパイは百合おねーさまにベタベタボレボレなので、逆ですよ! 自分がいない間の百合おねーさまを心配するあまり、合コンの幹事をあまり引き受けなくなったのデース!
しかし。
マメ橋センパイの垂涎カードが気になりますね……
カチョー、清水センパイ、マメ橋センパイ、みどりセンパイの彼……みんなカッチョイイ。うん、ここまでは脳内ファイルに納めてある。
マメ橋センパイの持つ手札には、きっとまだまだイケメンがいるに違いない! うわああああみたいいいいいい!
目の保養! ほすぃ!
丁度そこを通りかかったマメ橋センパイに、勢い良くお願いをしてみた。
「マメ橋せんぷわいっ! また合コン連れてってくだサイッ!」
「だめっ!」
「え、早っ! 断るの早っ!」
「俺まだこの会社に未練あるから、ごめんなー!」
そう言って、何かに怯えるようにスタコラと逃げていってしまった。そう、逃げて――
なんでだろ? と、不思議に思っていると……背中からゾクッとした冷気を感じた。
「あっ、袴田課長」
「ひっ」
「橋ヶ谷さん、頼んでおいた見積書の提出と去年二月の議事録を資料室から出しておいてくれ」
「はいっ!」
みどりセンパイはカチョーが怖いのか、ビシッと返事をしてサササササっと風のように去っていった。
取り残された、ワ・タ・シ……
う、わ、わ……!
「滝浪さん?」
口調はあくまでも『課長』であり、通りかかった誰かが聞いてもなんとも思わないだろう。
しかし、ワタシには……『わかっているな?』と、脳内翻訳されマシタ……あわわ。
きっとカチョーにはバレてマスね……イケメン眺めてBL妄想パラダイスしたい私の腐った乙女心。でもさ、カチョーにご迷惑はかけていないと思うんすけど、どうしてかにゃ?
そう聞くと「ほぉ」と不機嫌さを露わにした一瞬後、ついぞみない極上の笑顔を私に向けた。
ちょ、眩しっ! その笑顔、眩しすぎて怖っっ!!
「『今』は、何も。だが、時期が来たら――覚えてろよ?」
小声で私だけに聞こえるようカチョーは宣告し、社外に打ち合わせの為出て行った。
「お、お、覚えてろって人に頼まないでくだしゃい……」
私にはカチョーに聞こえないように呟くのが精一杯デシタ……だって怖いもーーーーん!
ワタシ、何か悪いことしましたかっ??
(クロスオーバー・「捕獲大作戦」×「バスと私と」)
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