夢綴

瀬戸口 大河

文字の大きさ
上 下
3 / 8

合流

しおりを挟む
合流
 Kちゃんと嫁の動向について調査することを決めた。
 後日、Kちゃんと喫茶店で落ち合うことにした。もちろん、嫁が仕事に行っている時間を見計らって家を出た。約束の時間より15分早くついてしまった。手頃な喫茶店を探して街を歩いていると昔から佇んでいるような古い喫茶店を見つけた。チェーン店よりも古い喫茶店の方が温かみがあって個人的にはすごく好みだった。他に店もなさそうだったのでこの店に決めた。店内の床はワックスを丁寧に塗られ降り注ぐ光を強く反射していた。俺の履いていた革靴の靴底をも弾き返すように歩くたびこつっこつっと高い音で俺を迎えた。テーブル席しかない店内の奥の棚には古い漫画雑誌やもう完結したコメディ漫画、昭和の時代に流行した不良漫画が丁寧に並べられていた。店主らしき白髪の男が現れ「煙草は吸うのかい?」と尋ねてくる。見たところ70代くらいで銀色のきらきらしたフレームに牛乳瓶の底のように分厚いレンズを無理やりはめ込んだようなメガネをかけていた。俺が「吸います」と答えるとその男は「あの席に座って」と例の棚の隣の席を指差した。会釈をして席に座る。椅子は黒の革張りで少し低いがそのふかふかとした座り心地に優雅な気分を覚える。テーブルは木でできているが真ん中の部分だけはガラス張りになっており、中には店主が集めたであろう船の模型が3つほど並べられていた。店主が灰皿を机に置いて「何飲む?」とぶっきらぼうに訪ねてきた。「アイスコーヒーをひとつ、砂糖、ミルクはなしで」と俺も少し愛想悪く答えた。店主は「はいよ」とメモをとり奥のキッチンへと向かった。俺は煙草に火をつけ一休み。この時間が人生の中で1番幸せだと感じる。誰にも邪魔されず、煙を吸って吐く。この動作がやけに落ち着くのはきっと俺が重度のニコチン中毒だからだろう。スマートフォンを取り出しKちゃんに店名と住所が書かれたURLを送る。するとすぐに返事が届いた。「――了解です。あと、10分くらいで到着する――」と書いてある。俺はスマートフォンをしまって、ニコチン補給に専念した。
 Kちゃんが到着する頃にはアイスコーヒーが届き2本目の煙草に火をつけていた。すると店の入口のベルが鳴る。Kちゃんが奥の席に座る俺を見つけ「おまたせ」と笑顔を浮かべながら手を振る。付き合いたてのカップルのようで俺は少しどきどきしていた。Kちゃんは席に着くなりメニューを開き店主を呼びつける。「アイスティーください」とKちゃんが伝えると店主は「はいよ」とまた、ぶっきらぼうに答えた。この店主の雑な様子を見ていると映画のワンシーンに入り込んだような気持ちになりカッコつけたくなるものだ。俺は煙草を吸いながらおもむろに足を組んでみる。うん、なんだか様になっている気がする。Kちゃんが口を開く。「こんなお店よく見つけたね。すごい雰囲気ある」
「俺はこういう古い感じの喫茶店が好きなんだ。なんだか気持ちが落ち着く」と答えると背伸びしたい俺の気持ちを見透かしたようにKちゃんが「へぇー。そうなんだ」と軽く流した。俺は少しかっこつけすぎたかなと反省しながら本題を切り出した。「例の写真を撮ったのはKちゃんなの?」と俺はまず、疑問に思っていたことを口にした。すると、Kちゃんは「そう」と頷きながら答えた。続け様に「私最近、あの写真のクラブでバイトしてるの。彼氏にも伝えてないんだけど給料いいし。それで先週バイトしてたら嫁に似てる人見つけちゃって……。もしやと思って写真を撮っておいたの」と詳細を語った。頭の中でガールズバーとクラブのバイトを掛け持ちってどんだけ酒好きなんだよとツッコミを入れた。Kちゃんの体力は無限にあるのか?と疑問を抱きながら本題に話を戻す。「じゃあ、次のKちゃんの出勤日に俺もそのクラブに行く。現場を抑えられなかったら俺はもう今回のことは忘れるよ」と伝えるとKちゃんは「そんなにあっさりでいいの?不倫かもしれないのに」と目を見開き驚いた表情で俺を見つめる。
 「他の男と遊んでようが構わないよ。ただ本当のことが知りたいだけ。でも、しつこく付け回す気もない」と俺は答える。夢の中の俺は何か冷めている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...