上 下
133 / 138
第7章 再びの嵐の向こう側

133 満天の星空の下で②

しおりを挟む

 祐一郎さんの広い胸板に頭を預け、星空を見上げてしみじみと考える。

 お父さんの会社が倒産して、路頭に迷いそうになって。

 大学も退学の危機で。

 信じていた婚約者にはこれ以上ないってくらい、最悪の状況で裏切られて。

 お母さんの思い出が詰まった大切な家を手放して。

 それでも、前向きにがんばろうって思ってきた。

 だけど、心の中には前向きな白天使茉莉のほかに黒悪魔茉莉が住んでいて、前向きになろうって思ういっぽうで、「どうして私ばかりがこんな目に合うの?」って「なんて理不尽なんだろう」って、そんな後ろ向きな気持ちがあったのも確かだ。

 でも今は、つらい出来事も全部こうして幸せな今に繋がっているんだと、そう思えるようになった。

 それも、ぜんぶ、祐一郎さんのおかげだ。

 祐一郎さんに出会えてよかった。

 祐一郎さんを好きになれてよかった。

 そして、祐一郎さんも、高崎さんとのこともひっくるめた『今の私』を好きだと言ってくれる。

「私って、果報者だぁ……」
「なんだよそれ?」

 しみじみとつぶやけば、祐一郎さんはプッと吹き出した。

「だって、祐一郎さんに会えたもの」
「っ……あのなぁ、この状況でそういう可愛いこと言うなよな」

 ふふっと幸せをかみしめながら言えば、祐一郎さんのため息交じりの低音ボイスが耳元に落ちてきて、ドキリと鼓動が跳ねる。

「ほんと、いつも無自覚に誘ってくれるよな」

 チュッと首筋に口づけられて、跳ね上がった鼓動が暴走し始める。

――あ、やばい。

 自分の言動が、祐一郎さんの変なスイッチを入れてしまったことを悟った私は、慌てて話題を逸らそうと試みる。

「あ、あの、そういえば、佐藤主任にフロントに呼ばれてましたけど、何かあったんですか?」

 首筋にキスの雨を降らせていた祐一郎さんが、「ん?」と動きを止める。

――やった。作戦成功!

「ああ、あれか。あれは、結婚の報告だった」
「……はい?」

 ケッコンって、結婚ですか?

「え? 誰の?」
「誰のって、守と美由紀の――」

 なんで美由紀の名前が出てくるんだろう?

 と、小首をかしげていたら「あ、しまった、もう少し内緒にしてくれっていわれてたんだっけ」と祐一郎さんが苦笑する気配がした。

「ええと、スマイリー主任が、結婚するんですか?」
「おまっ、スマイリー主任って、守のことか? スマイリーって、ぶくく……」

 つい油断してあだ名呼びをしてしまい、祐一郎さんの笑いのツボを攻撃してしまった。

「本人には絶対言わないでくださいねっ。それよりも、なんで美由紀の名前がでてくるんですか?」
「そりゃあ、守と美由紀が結婚するからだろう?」
「は……い?」
「しっかし、本気で気が付いてなかったのか? 守と美由紀がマンションの5階下で同棲してたの」

 祐一郎さんに愉快そうに笑われて、ようやくその言葉の意味が脳細胞に達した私は、文字通りびっくり仰天した。

「えっ、うそっ!?」
「ついでに言えば、美由紀は現在妊娠6か月だそうだ」

 な、なんですとーーーーーー!?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】SとMのおとし合い

臣桜
恋愛
明治時代、東京の侯爵家の九条西家へ嫁いだ京都からの花嫁、大御門雅。 彼女を待っていたのは甘い新婚生活ではなく、恥辱の日々だった。 執事を前にした処女検査、使用人の前で夫に犯され、夫の前で使用人に犯され、そのような辱めを受けて尚、雅が宗一郎を思う理由は……。また、宗一郎が雅を憎む理由は……。 サドな宗一郎とマゾな雅の物語。 ※ ムーンライトノベルズさまにも重複投稿しています ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里(うえむらあかり)は、酔い潰れていた所を上司の速見尊(はやみみこと)に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と尋ねワンナイトラブの関係になってしまう。 かと思えば出社後も部長は求めてきて、二人はただの上司と部下から本当の恋人になっていく。 だが二人の前には障害が立ちはだかり……。 ※ 過去に投稿した短編の、連載版です

冷徹秘書は生贄の恋人を溺愛する

砂原雑音
恋愛
旧題:正しい媚薬の使用法 ……先輩。 なんて人に、なんてものを盛ってくれたんですか……! グラスに盛られた「天使の媚薬」 それを綺麗に飲み干したのは、わが社で「悪魔」と呼ばれる超エリートの社長秘書。 果たして悪魔に媚薬は効果があるのか。 確かめる前に逃げ出そうとしたら、がっつり捕まり。気づいたら、悪魔の微笑が私を見下ろしていたのでした。 ※多少無理やり表現あります※多少……?

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】まさか私が? 三人で! ~社内のイケメンが変態だった件について~

成子
恋愛
長身でスタイル抜群の倉田 涼音(くらた すずね)は今年で三十一歳。下着会社の企画部に勤めていて今は一番仕事が楽しい時期だった。仕事一辺倒の毎日で、彼氏といった男性の姿は特になく過ごす毎日。しかし、涼音が慰安旅行で社内の一位、二位を争う男性と関係を持ってしまう。しかも二人と同時に。そして、この二人の正体はとんでもない男だった。 ※複数で絡む話です。ご注意ください。 ※ムーンライトノベルズに掲載しているものの転載です

腹黒御曹司との交際前交渉からはじまるエトセトラ

真波トウカ
恋愛
デパートで働く27歳の麻由は、美人で仕事もできる「同期の星」。けれど本当は恋愛経験もなく、自信を持っていた企画書はボツになったりと、うまくいかない事ばかり。 ある日素敵な相手を探そうと婚活パーティーに参加し、悪酔いしてお持ち帰りされそうになってしまう。それを助けてくれたのは、31歳の美貌の男・隼人だった。 紳士な隼人にコンプレックスが爆発し、麻由は「抱いてください」と迫ってしまう。二人は甘い一夜を過ごすが、実は隼人は麻由の天敵である空閑(くが)と同一人物で――? こじらせアラサー女子が恋も仕事も手に入れるお話です。 ※表紙画像は湯弐(pixiv ID:3989101)様の作品をお借りしています。

処理中です...