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第7章 再びの嵐の向こう側
133 満天の星空の下で②
しおりを挟む祐一郎さんの広い胸板に頭を預け、星空を見上げてしみじみと考える。
お父さんの会社が倒産して、路頭に迷いそうになって。
大学も退学の危機で。
信じていた婚約者にはこれ以上ないってくらい、最悪の状況で裏切られて。
お母さんの思い出が詰まった大切な家を手放して。
それでも、前向きにがんばろうって思ってきた。
だけど、心の中には前向きな白天使茉莉のほかに黒悪魔茉莉が住んでいて、前向きになろうって思ういっぽうで、「どうして私ばかりがこんな目に合うの?」って「なんて理不尽なんだろう」って、そんな後ろ向きな気持ちがあったのも確かだ。
でも今は、つらい出来事も全部こうして幸せな今に繋がっているんだと、そう思えるようになった。
それも、ぜんぶ、祐一郎さんのおかげだ。
祐一郎さんに出会えてよかった。
祐一郎さんを好きになれてよかった。
そして、祐一郎さんも、高崎さんとのこともひっくるめた『今の私』を好きだと言ってくれる。
「私って、果報者だぁ……」
「なんだよそれ?」
しみじみとつぶやけば、祐一郎さんはプッと吹き出した。
「だって、祐一郎さんに会えたもの」
「っ……あのなぁ、この状況でそういう可愛いこと言うなよな」
ふふっと幸せをかみしめながら言えば、祐一郎さんのため息交じりの低音ボイスが耳元に落ちてきて、ドキリと鼓動が跳ねる。
「ほんと、いつも無自覚に誘ってくれるよな」
チュッと首筋に口づけられて、跳ね上がった鼓動が暴走し始める。
――あ、やばい。
自分の言動が、祐一郎さんの変なスイッチを入れてしまったことを悟った私は、慌てて話題を逸らそうと試みる。
「あ、あの、そういえば、佐藤主任にフロントに呼ばれてましたけど、何かあったんですか?」
首筋にキスの雨を降らせていた祐一郎さんが、「ん?」と動きを止める。
――やった。作戦成功!
「ああ、あれか。あれは、結婚の報告だった」
「……はい?」
ケッコンって、結婚ですか?
「え? 誰の?」
「誰のって、守と美由紀の――」
なんで美由紀の名前が出てくるんだろう?
と、小首をかしげていたら「あ、しまった、もう少し内緒にしてくれっていわれてたんだっけ」と祐一郎さんが苦笑する気配がした。
「ええと、スマイリー主任が、結婚するんですか?」
「おまっ、スマイリー主任って、守のことか? スマイリーって、ぶくく……」
つい油断してあだ名呼びをしてしまい、祐一郎さんの笑いのツボを攻撃してしまった。
「本人には絶対言わないでくださいねっ。それよりも、なんで美由紀の名前がでてくるんですか?」
「そりゃあ、守と美由紀が結婚するからだろう?」
「は……い?」
「しっかし、本気で気が付いてなかったのか? 守と美由紀がマンションの5階下で同棲してたの」
祐一郎さんに愉快そうに笑われて、ようやくその言葉の意味が脳細胞に達した私は、文字通りびっくり仰天した。
「えっ、うそっ!?」
「ついでに言えば、美由紀は現在妊娠6か月だそうだ」
な、なんですとーーーーーー!?
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