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第7章 再びの嵐の向こう側
130 再びの嵐④
しおりを挟む「身重の妻がいる身でこんなところに出入りしているのが表ざたになって困るのは、あんたの方じゃないのか? 太陽銀行本店融資担当営業マンの高崎和彦さん」
祐一郎さんの言葉に、高崎さんは目に見えてうろたえた。
「な、なんでそれを……そうか、お前がしゃべったのかっ。なんて女だ個人情報をべらべらと!」
ギロリと、憎しみがこもった目を向けられても、身に覚えがない私には答えようがない。
――っていうか、なんで祐一郎さん、そんなこと知ってるの?
祐一郎さんと同棲を始めるとき私は、以前婚約者がいて婚約破棄されたことがあるって打ち明けはした。私という人間を知って欲しかったから。
けど、その元婚約者が高崎さんだということも、銀行員だということも言ってない。まして、相手が妊娠していることなど、間違っても口にしていない。
「茉莉は何もしゃべっちゃいない。融資担当のくせに、色ボケしすぎて俺の顔を覚えていないのか? とんだニワトリ頭だな」
「貴様のようなラブホテルの従業員の顔なんか、知るわけないだろう? 俺が担当しているのは、大手企業ばかりだからな」
馬鹿にしたように薄笑いを浮かべる高崎さんの言葉に気分を害したふうもなく、祐一郎さんは軽く肩をすくめてニヤリと笑った。
「それは残念だ。俺の会社も、俺の一族の会社も太陽銀行の営業利益にだいぶ貢献しているんだが。これはそろそろメインバンクを再考する時期にきたのかな?」
「俺の、会社……?」
「ああ、名乗るのが遅くなり申し訳ない。俺は、このホテルクロスポイントを営業している(株)FUDOUの代表取締役、不動祐一郎だ」
「不動……? (株)FUDOUの不動社長……?」
その名前に思いあたったのか、高崎さんは目に見えて顔色をなくした。
「ま、まさか、谷田部グループの、あのホテル王の跡継ぎのくせにラブホテルをやってるという酔狂な息子……」
「ご名答。さすがに噂くらいは聞いているか。ホテルロイヤルの社長、谷田部彰成の不肖の息子だ」
そういって、祐一郎さんは自嘲気味に口の端を上げた。
――なんだ。祐一郎さん自身が高崎さんと面識があったのか。世の中狭いなぁ……。
と納得しかけて、今何か祐一郎さんが変なことを言ったような気がした。
『ホテルロイヤルの社長、谷田部彰成の不肖の息子』。
↓
ホテルロイヤルの社長の息子?
↓
祐一郎さんが、谷田部グループのホテル王の御曹司?
「って、ええっ、うそっ!?」
思わずすっとんきょうな声がでたのは私のせいじゃない。
お金持ちだとは思ってたけど、そこまでけた違いのお金持ちだとは。
「なんでそこでお前が驚くんだ?」
『げせない』という風情で祐一郎さんは、軽く眉根にしわを刻む。
「え、だって、あのホテルロイヤルだよ? 天下の谷田部グループの一族だよ? え? じゃあ、美由紀ってホテル王のご令嬢なの!?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「うん。知らなかった」
だって、いつも黒ジャージ愛用でバイト三昧のあの姉御肌の美由紀が、超セレブのお嬢様だなんて想像もしてなかった。
こくこくこくこく赤べこのようにうなずけば、後ろで沈黙を守っていたスマイリー主任が耐えきれないというように『ぶふっ』と噴き出した。
「茉莉ちゃん、ほんっと君って面白い子だよね。みぃちゃんや社長が惚れちゃうのもしかたないか」
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