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第6章 ファーストナイトは夢うつつ
111 初めての夜③
しおりを挟む目の前で半身を起こし、私に楽しそうな視線を注いでいる社長を驚きの眼で見つめる。
そこにあるのは、尋常じゃない色気を発する社長の姿。素肌に引っ掛けただけの生成りのシャツはボタンがほぼ外れていて、細身なのにしっかりと筋肉が付いた胸元から腹筋にかけてのラインが大胆に覗いている。
思わず、ゴクリと喉を鳴らし、ゼンマイ仕掛けの人形のようなぎこちない動作で、私は広いベッドに横たわる自分の体に視線を向けた。
視線の先には、かろうじて胸は露出してはいないものの、大胆にボタンが外れたダブダブのシャツを着た自分のあられもない姿が広がっている。
なぜ、あられもないのか。まず、確実にブラはしていない。次に、上着だけでズボンを履いていない。さらに、むき出しの素足が、シャツと同素材の薄地に包まれた社長の足と絡み合っている。胸の下から腿のあたりまでは薄いタオルケットがかかっているから、どうなっているのかはよくわからない。
が、どうしてこんなことになってるのっ!?
頭はパニクっているのに、熱をだしていたという体がうまく反応してくれない。私はタオルケットを胸に抱き込んで体をぎゅっと丸める。自然と社長の胸元に頭がくっつくのは仕方がない。
「ああ。着替えがなかったから、とりあえず俺のパジャマの上着をきせておいたが、少し大きかったようだな」
耳朶をたたく社長の声は、どこか愉快そうな響きを持っている。
「社、社長っ、な、な、なんでっ」
こんな状況になっているのかわからない。
「なんだ。さっきまでは、あんなに甘い声で名前を呼んでくれたのに、もう社長呼びに逆戻りか?」
ぎゅっと抱え込まれて、耳元に落とされる気だるげな低音ボイスに頭がクラクラしてくる。
なにこれ? なにこれ? なにこれーーーーっ!?
もしかして。
もしかしなくても、意識がないまま、社長としちゃったのっ!?
「うそ……」
信じられずに呆然と呟けば、愉快そうな声で「ほんと」と答えが返ってくる。
「ほんと?」
なの? とおそるおそる視線を上げれば、社長は「ぷっ」っと小さく吹きだした。
「ばーか。病人を襲うほど俺は鬼畜じゃない。まあ、何もしてないとは言わないが、最後まではしてないからな」
何もしてないとは言わないって。さ、最後まで『は』していないって。ということは、最後以外のことはしたって言ってるわけで。その言葉の意味をそしゃくして、全身にカッと熱が走る。
何がどうしてこうなった?
一生懸命記憶をたどろうとするけど、悲しいかな何も思い出せない。
ああああう。
恥ずかしすぎて再びタオルケットを抱え込んで顔をうずめれば、社長はクスクスと楽し気に笑いながら完全に身を起こした。
「ほら、もう少し水分を取っておけ」と、ペットボトルのスポーツドリンクを手に持たされる。
さっきの甘い水の正体がこれだったのだと理解した瞬間、社長に口移しで飲まされたのだと気づいて、恥ずかしさが振りきれた。
ああ、私きっと、今なら恥ずかしさで死ねる。
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