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第5章 セカンドキスはまどろみの中

99 美由紀のホテルデート計画⑥

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「ありがとうございます。何か、冷たいジュースでも取ってきますね」

 二人分持ってくれば、社長も飲んでくれるだろう。

 そう思った私は、応接セットのすぐわきの壁際に設置されているドリンク類の自動販売機を覗き込んで、片開きのガラスの扉を開けた。そしてすぐに走った違和感。

 ドリンクの自動販売機なら、扉を開けたとたん冷気が流れ出すはず。でも、この自動販売機からは冷気を感じない。もしかして電気が通っていないのかと首を傾げながら、目を凝らすと自動販売機の中に入っているのはジュース類ではなかった。

 十センチ角くらいに仕切られた庫内には、透明な袋でラッピングされている『得体が知れないカラフルな何か』が入っている。なんとなく、ラッピングの中の質感が布っぽい気がするから、ハンカチかハンドタオルの部類かなとは思う。

「どうした?」

 もたついている私が気になったのか、ソファーに座ったままの社長から声がかかった。でもなぜか、心なしか声が震えている気がする。 

「これ、ドリンク類の自動販売機じゃなくて、なんかよく分からないモノが入っていて……」

 少しの沈黙の後、「そうか」と答えた社長から、またまた日頃の俺様っぷりからは想像できない優しい言葉が飛んできた。

「なんでもいいから、気になったやつを一つプレゼントするから、選んで良いぞ」

 プ、プレゼント!?

「私に下さるんですか!?」
「……ああ。なんなら、二つでもいいぞ」

 うわぁ、もしかして、社長からの初プレゼント?
 さっきの気づかいと言い、プレゼントといい、どうしちゃったの社長!?

 テンションが上がりまくった私は、どれにしようかな? とルンルン気分で目を彷徨わせる。

 明るいピンクの色合いと結ばれている赤いリボンが目を引き、手を伸ばして取り出した。そして貼られているステッカーに踊っているピンクの文字が目に飛び込んできた瞬間、全身金縛り状態に陥った。

 なぜなら、そこには『スケスケ・ランジェリー・プリティピンク・これで彼のハートもメロメロ♪』と記されていたからだ。ご丁寧なことに、サムネイル写真付き。その小さな三角系の布とヒモの組み合わせは、もはや私が知っているパンティーとは確実にかけ離れている。

 こんな小さな布とヒモで、何を隠せると言うのだろう?

 そもそもその布は、シースルー感満載でスケスケ。たぶん、何もはかないよりも、エッチな気がする。

「……」

 社長の方へ、気分はもう光速のごとく速さで視線を向ければ、ご本人様は口元に握りこぶしを当てて体を震わせている。

 これは、ぜったい確信犯だ。
 中身を知っていて、からかわれたんだ。

 嬉しさの反動でちょっと悲しくなって、思わず口元が尖ってしまう。

 社長の意地悪。不動明王!

「ありがとうございます……」

 内心で文句を言いつつ形ばかりのお礼を言って、私は社長からのプリティ・ピンクな初プレゼントを、ソファーの隅に置いてあった自分のバッグに『ぎゅむっ』っと押し込んだ。

「じゃあ、あとは実際使ってみるか。風呂は、任せるからよろしく」
「わ、わ、私がですか!?」

 再び社長の隣のソファーに腰を降ろした瞬間、ニコニコ笑顔で次に下された業務命令に、脳細胞がフリーズ。思わず頓狂とんきょうな声が出てしまう。

「なんだ、一緒に入りたいのか?」

 否、とばかりにブンブンと頭を振る私に向けられる社長の瞳には、いたずら小僧のような光が揺れている。

「あのな。男は風呂の内装やシャンプーの使い心地なんか、あまり気にしないものなんだ。肝心なのは、女性客の満足度。それがどのくらいあるのか知るためには、俺よりもお前に使ってもらった方がいいんだ」

 うん? と銀縁メガネ越しに伺うように見つめられて、思わず鼓動が変な風に乱れてしまう。でも、社長の説明はよく分かった。確かに男性よりも女性の方が、お風呂の満足度は重要視すると思う。それは、ホテル利用のリピート率に跳ね返ってくるのかもしれない。

 これはお仕事。しっかりがっつり隅々まで、ホテル愛の城のオリエンタル風呂を満喫してやろうじゃないか。

「わかりました。がんばります!」
「バスローブの着心地も大事なチェックポイントだからな。実際袖を通してみてくれ」
「は、はいっ!」

 仕事意欲がメラメラ燃え上がった私は、意気揚々とおバスルームへと足を向けた。


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