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第4章 ファーストキスは助手席で
69 トラウマ・スイッチが入る場所
しおりを挟む「すみません、社長の運転があまりにパーフェクトだったので、つい気持ちよくって……もう着いたんですね」
言いつつウインドウから外を見渡せば、なにやら、脳裏に過る既視感。
――あれ? ここって、まさか……。
「ホテル・ロイヤルの地下駐車場に、そっくり……」
「そっくりなんじゃない。ここは、ホテル・ロイヤルの地下駐車場だ」
ご丁寧に社長が訂正を入れてくれるが、ちっともありがたくない。
――うううっ。よりによって、ここで食事ですか。
私のトラウマ・スイッチが、ONになる。
ここは信じてた婚約者に手酷く裏切られた、まさにその場所。一カ月半前の痛ーい記憶が、映像を伴ってリアルに蘇りそうになって、私はぶるぶると頭を振った。
あれは過去のこと。もう、忘れるって決めたこと。
「……一つ言っておくが」
「はい?」
「食事の相手は、ウチの大株主だ」
「はい」
失礼がないように、頑張ろう。そんな決意を込めて、しっかりとうなずく。
「話は俺がするから、お前はひたすら笑って相槌をうっていればいいから。余計な口は挟まないこと」
それは少し残念な気がするけど、ビジネスの話をしろと言われても、今の私には無理だから、まあ仕方ないか。
「……はい、わかりました」
「それと――」
と言葉を切って、社長はニッコリと微笑んだ。日頃めったに見ないその表情に、思わず腰が引けてしまう。
――怖い。そして、ウソ臭い。
「会食が首尾よく済めば、特別ボーナスをやるから、せいぜいがんばるんだな」
――特別ボーナス!?
社長の口から飛び出したきっぷのいい言葉に、目を丸める。
ただで食事をして特別ボーナスまで貰えるなんて、そんな美味しい話、あってもいいの?
何か、裏があるんじゃ?
ふと、そんな疑問がよぎったけど、『特別ボーナス』の威力の前に、すぐにどこかに消えてしまった。
「は、はい、頑張りますっ」
私は、張り切って心の中で、ガッツポーズを決めた。そしてそれが、とんだ大間違いだったことを思い知るのは、わずか十数分後のこと。
てっきりこのホテルの人気スポット、例の、展望レストランに行くのだと思っていたら、社長が向かったのは別の場所だった。
個人が食事をするには広すぎるそこは、たぶん、結婚披露宴やパーティなどが行われるホールの一つ。その一角を仕切って作られた、と言っても、ゆうに二十畳くらいはありそうな広い場所だった。
部屋の真ん中に設置されているのは、余裕で十人は座れそうな大きなテーブルセット。テーブルには、透かし模様の入った、白いレース調のテーブルクロスがかけられている。
センターには、淡い色彩でまとめられた、美しい生花。既に、三人分のテーブルウェアがセットされている所を見ると、食事のお相手は一人のようだ。
――和室じゃなくてよかったーー。
少なくても、食事を終えた時に足がしびれて立ち上がれない、なんて事態には陥らずにすむ。
明るい要素を見い出し、少しだけ、ホッと胸をなで下ろした。
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