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幕 間 社長・不動祐一郎の独り言 (1)

36 面白すぎるにもほどがある②

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「は、はのっ、めんれすにひまひた!」

 額と鼻の頭をさすりながら、茉莉は立ち上がって自分が面接に来たことを告げた。その視線は、俺よりも頭一つ分低い位置にある。

 子供のころも同年代の子に比べて小柄だったが、身長に関しては成人した今もさほど目覚ましい成長はしなかったようだ。

――うん? この視線、なんだか見覚えがある気がする。
 そう、ごく最近、こんな視線で見上げられたような……。

 俺を見上げるクリクリとした大きな瞳が、記憶の中の何かに引っかかって眉根を寄せる。

 そんなことを考えていたら、不明瞭な言葉が俺に理解できなかったと思ったのか、茉莉は顔をさすっていた手を外すと、もう一度同じセリフを繰り返した。

「面接に、来まひた!」
「ああ、面接ね……」

 そうだった。まずは面接だ。

 記憶を掘り起こすのを中断した俺が無意識に腕時計に視線を走らせれば、午後四時一分。俺の動作につられたのか、茉莉も自分の腕時計を見て青くなったり赤くなったりしながら百面相をしている。そして最後に「遅くなって、すみません……」と言って、肩をがっくり落とした。

 それはもう、絵にかいたようなわかりやすい「反省」ポーズ。

 なんだこれ、面白い。

 子供のころもクルクルと表情が良く動く女の子だったが、そのまま純粋培養したようなその反応に、思わず笑いそうになって口元を引き締め、努めて冷静に対応を心がける。

 茉莉は、俺がお隣に住んでいた「祐兄ちゃん」だとは知らないし、知らせるつもりもない。あくまで、私情を挟まずに雇用主として対応しようと決めていた。

「じゃあ、こちらへどうぞ。履歴書は持ってきましたか?」
「あ、はいっ!」

 くるりと踵を返して部屋の中に入れば、茉莉は後ろから慌ててついてくる。まるで、お隣に住んでいたころに戻ったみたいな錯覚を覚えて、思わず苦笑い。

――子供と動物には勝てないというが、面接をする前からほだされてどうするよ、俺。

「どうぞ、お座り下さい。私が面接をします、不動です」
「篠原茉莉です! よろしくお願いします!」

 社長室兼応接室のソファーに座るように促せば、茉莉はきちんと視線を合わせてから、元気いっぱいのあいさつを返してきた。

 あいさつは、社会人として必要な最低限のマナーだ。茉莉のあいさつは、口先だけではなく心からの言葉だと感じられる。うちのような接客業には、必要な資質だ。

――まずは、第一段階クリアだな。

 俺は、心の中で茉莉の面接チェックシートに、最初の合格スタンプを押した。


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