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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
28 社長は、まさかの憧れの人?③
しおりを挟む美由紀が紹介してくれた仕事先が、昔のお隣さんの会社だった。それも、その会社の社長さんが、大好きだったあの優しい『祐兄ちゃん』。なにその、ものすごい偶然。
……偶然、なの?
ふとよぎった疑問に首を傾げている私をよそに、社長と父の会話は続いている。
『咲子さんの……。もちろん覚えているが、なぜ君の所に娘が?』
「実は偶然、お嬢さんが私の会社に面接に来られまして」
――偶然。
そうだよね。
ただの偶然、なんだよね?
『ああ、面接に行くと言っていたが、君の会社だったのか……』
「はい。それで、来週の月曜から夜勤で来てもらうことになったんですが……」
『夜勤、ですか?』
「はい。夕方五時から深夜二時までの夜勤です」
『……』
『夜勤』に思うところがあるのか、スマホの向こうの父は考えこむように沈黙している。
「今日は面接だけの予定だったんですが、急きょ人員を確保しなければならなくなり、茉莉さんに助っ人をお願いしたんです」
淡々と、そしてよどみなく、社長は事の経緯を説明していく。
「きちんと連絡を差し上げるべきでした。こちらの配慮が足らずに、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
――あ、謝った。
スマホを片手に、電話の向こう側の父に向かって頭を下げる社長の姿。その行動の意外性に驚いてしまう。
昔の『祐兄ちゃん』ならともかく、今のこの人が、他人に対して簡単に頭を下げるような人には見えなかったから、よけいに驚いた。
『……そうでしたか。経緯はわかりました。こちらこそ娘を雇っていただいて、ありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします』
「どうそ、ご心配なく」
『娘に、代わってもらえますか?』
「わかりました」
はい、と、社長にスマホを差し出され、ぺこりと頭を下げて受け取る。耳に当てれば、父の特大のため息が響いてきて、申し訳なさでいっぱいになる。ただでさえ、会社のことで大変なのに、よけいな心配をさせてしまった。
「お父さん、心配かけて、ゴメンね……」
他に言葉が見つからずそう言うと、さっきの剣幕はどこへやら、いつもの穏やかな父の声が耳に響いて来た。
「事情は分かったから、気を付けて帰ってきなさい。慌てないでいいからな……」
あまりに優しい響きに、思わず鼻の奥がツンと熱を帯びる。
「うん。分かった。じゃあね」
ぷちり、と通話を切れば、その場には沈黙が落ちた。
「良いお父さんだね」
沈黙を破ったのは、スマイリー主任の穏やかな声。私は、小さく頷いた。
「はい。自慢の父です」
「ほらほら社長も、そんな仏頂面してないで、何か言ってあげたら?」
ニコニコと、スマイリー主任が社長に話しを振れば、社長は面白くもなさそうにボソリと言う。
「……この顔は地だ」
「それは、分かってますけどねー。少しは努力しないと、女の子にモテませんよ? せっかく地は良いのにもったいないなぁ」
「うるさいぞ、守。彼女が待ってるんだろう? お前は、さっさと家に帰れ」
しっしっ!
っと、社長の、犬を追い払うようなジェスチャーにも、気を悪くする様子もなく。
「はいはいはい。ボクは、愛しい彼女の元へ帰りますよ。それじゃ、また来週ね、茉莉ちゃん」
「はい、また、よろしくお願いします!」
しっかりと腰を折ってお辞儀をすれば、スマイリー主任は、笑顔全開で手を振りながら、足取りも軽く社長室を出ていった。
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