上 下
28 / 138
第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ

28 社長は、まさかの憧れの人?③

しおりを挟む

 美由紀が紹介してくれた仕事先が、昔のお隣さんの会社だった。それも、その会社の社長さんが、大好きだったあの優しい『祐兄ちゃん』。なにその、ものすごい偶然。

……偶然、なの?

 ふとよぎった疑問に首を傾げている私をよそに、社長と父の会話は続いている。

『咲子さんの……。もちろん覚えているが、なぜ君の所に娘が?』
「実は偶然、お嬢さんが私の会社に面接に来られまして」

――偶然。

 そうだよね。
 ただの偶然、なんだよね?

『ああ、面接に行くと言っていたが、君の会社だったのか……』
「はい。それで、来週の月曜から夜勤で来てもらうことになったんですが……」
『夜勤、ですか?』
「はい。夕方五時から深夜二時までの夜勤です」
『……』

『夜勤』に思うところがあるのか、スマホの向こうの父は考えこむように沈黙している。

「今日は面接だけの予定だったんですが、急きょ人員を確保しなければならなくなり、茉莉さんに助っ人をお願いしたんです」

 淡々と、そしてよどみなく、社長は事の経緯を説明していく。

「きちんと連絡を差し上げるべきでした。こちらの配慮が足らずに、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

――あ、謝った。

 スマホを片手に、電話の向こう側の父に向かって頭を下げる社長の姿。その行動の意外性に驚いてしまう。

 昔の『祐兄ちゃん』ならともかく、今のこの人が、他人に対して簡単に頭を下げるような人には見えなかったから、よけいに驚いた。

『……そうでしたか。経緯はわかりました。こちらこそ娘を雇っていただいて、ありがとうございます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします』
「どうそ、ご心配なく」
『娘に、代わってもらえますか?』
「わかりました」

 はい、と、社長にスマホを差し出され、ぺこりと頭を下げて受け取る。耳に当てれば、父の特大のため息が響いてきて、申し訳なさでいっぱいになる。ただでさえ、会社のことで大変なのに、よけいな心配をさせてしまった。

「お父さん、心配かけて、ゴメンね……」

 他に言葉が見つからずそう言うと、さっきの剣幕はどこへやら、いつもの穏やかな父の声が耳に響いて来た。

「事情は分かったから、気を付けて帰ってきなさい。慌てないでいいからな……」

 あまりに優しい響きに、思わず鼻の奥がツンと熱を帯びる。

「うん。分かった。じゃあね」

 ぷちり、と通話を切れば、その場には沈黙が落ちた。

「良いお父さんだね」

 沈黙を破ったのは、スマイリー主任の穏やかな声。私は、小さく頷いた。

「はい。自慢の父です」
「ほらほら社長も、そんな仏頂面してないで、何か言ってあげたら?」

 ニコニコと、スマイリー主任が社長に話しを振れば、社長は面白くもなさそうにボソリと言う。

「……この顔は地だ」
「それは、分かってますけどねー。少しは努力しないと、女の子にモテませんよ? せっかく地は良いのにもったいないなぁ」
「うるさいぞ、守。彼女が待ってるんだろう? お前は、さっさと家に帰れ」

 しっしっ!

 っと、社長の、犬を追い払うようなジェスチャーにも、気を悪くする様子もなく。

「はいはいはい。ボクは、愛しい彼女の元へ帰りますよ。それじゃ、また来週ね、茉莉ちゃん」
「はい、また、よろしくお願いします!」

 しっかりと腰を折ってお辞儀をすれば、スマイリー主任は、笑顔全開で手を振りながら、足取りも軽く社長室を出ていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R-18】SとMのおとし合い

臣桜
恋愛
明治時代、東京の侯爵家の九条西家へ嫁いだ京都からの花嫁、大御門雅。 彼女を待っていたのは甘い新婚生活ではなく、恥辱の日々だった。 執事を前にした処女検査、使用人の前で夫に犯され、夫の前で使用人に犯され、そのような辱めを受けて尚、雅が宗一郎を思う理由は……。また、宗一郎が雅を憎む理由は……。 サドな宗一郎とマゾな雅の物語。 ※ ムーンライトノベルズさまにも重複投稿しています ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【R18】まさか私が? 三人で! ~社内のイケメンが変態だった件について~

成子
恋愛
長身でスタイル抜群の倉田 涼音(くらた すずね)は今年で三十一歳。下着会社の企画部に勤めていて今は一番仕事が楽しい時期だった。仕事一辺倒の毎日で、彼氏といった男性の姿は特になく過ごす毎日。しかし、涼音が慰安旅行で社内の一位、二位を争う男性と関係を持ってしまう。しかも二人と同時に。そして、この二人の正体はとんでもない男だった。 ※複数で絡む話です。ご注意ください。 ※ムーンライトノベルズに掲載しているものの転載です

【R18】マッチングアプリで弊社社長とマッチングされました!?

玄野クロ(星屑灯)
恋愛
 普通のOL【東条ゆあ】27歳。 押しに弱く、男性との付き合いも経験もあったが、それはどこか自分の望んでいたものではないと感じていた。 周りも結婚していき、異性との出会いも減ってきた頃、巷で成約が多いと噂のマッチングアプリ「DE@E-デアッテ-」への登録をした。 だが興味本位で登録したということもあり、なかなかピンと来る人もいない。  そんな中、DE@Eでパーティーイベントが行われることに。 思い切って参加したゆあが出会ったのは、イマイチパッとしないもののどこか安心感のある一人の男性だった。 彼の名前は【成瀬ハルト】。 意気投合した二人は、実際にマッチングアプリでマッチを試みると相性抜群、話も合いイベント後にお酒を飲み直すもゆあは安心感で潰れてしまう。 当然、そんな二人の間に何もないはずがなく……。  翌日、少しばかりの罪悪感を抱えたまま会社に出社すると、突然社長から呼び出されたゆあ。 恐る恐る訪ねると、そこには見覚えのある顔が――! 「僕と結婚してほしい」  その声も仕草も顔も、前日一夜を共にしたハルトと全く同じものだった。  了承したゆあだったが、社内で人気、しかも社長となれば、簡単に物事が進むはずもなく。。。 ※※※※※※※※※※ ※R18回は、話のタイトルの頭に「*」をつけていますので、目安としてください。 ムーンライトノベルズ(小説家になろう)、ノベルピア及びpixivでも同様に連載しています(敬称略) Key Word*** アダルト 18禁 エロ エッチ えっち TL NL 日常 R-18 玉の輿 ハイスぺ スパダリ 溺愛

腹黒御曹司との交際前交渉からはじまるエトセトラ

真波トウカ
恋愛
デパートで働く27歳の麻由は、美人で仕事もできる「同期の星」。けれど本当は恋愛経験もなく、自信を持っていた企画書はボツになったりと、うまくいかない事ばかり。 ある日素敵な相手を探そうと婚活パーティーに参加し、悪酔いしてお持ち帰りされそうになってしまう。それを助けてくれたのは、31歳の美貌の男・隼人だった。 紳士な隼人にコンプレックスが爆発し、麻由は「抱いてください」と迫ってしまう。二人は甘い一夜を過ごすが、実は隼人は麻由の天敵である空閑(くが)と同一人物で――? こじらせアラサー女子が恋も仕事も手に入れるお話です。 ※表紙画像は湯弐(pixiv ID:3989101)様の作品をお借りしています。

処理中です...