上 下
22 / 138
第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ

22 衝撃の初仕事①

しおりを挟む

 二階に上がってすぐの所にある授業員控え室。木製のシンプルなドアの中は、何というか不思議な間取りが広がっていた。

 ドアを開けてすぐに、六畳ほどの細長いフロアがあって、突き当たりにキッチンがある。右の壁側には、冷蔵庫、冷凍庫、食器棚と調理台が並ぶ。

 向かって左側は同じく六畳ほどの一段高くなった和室になっていて、壁際にずらりとスチール製のロッカーが並んでいた。で、畳の真ん中に木目の丸いローテーブル。

 たぶん、これって『ちゃぶ台』というやつだ。

 床の間に小さな黒いテレビ。その脇は、押入れになっている。

 なんて言うか……。
 しなびた……じゃなくて、ひなびた、旅館?

「ここのロッカーで着替えて、っていっても、制服の上着を羽織るだけだけどね。今日の所は余ってる制服で我慢して。一応クリーニング済みだから」

 一番端っこのロッカーからスマイリー主任が取り出してきたのは、なんだか見覚えのある白地にブルーの縦縞のラインの入った、上着。

「これって、コンビニの……」

 そう。ここに来る前に寄った、コンビニの制服に似ている。

「デザインは、一緒だね。胸の所のロゴだけ変えてあるんだ」
「あ、ほんとだ」

 胸の所に、濃いオレンジ色でホテルの名前が刺繍されている。

「あそこのコンビニもウチの会社の系列だから。あ、ちなみに、自分はコンビニの店長も兼任しているので、ご贔屓にね」
「店長!? ……さんなんですか?」

 てっきり、アルバイトのお兄さんだとばかり思ってたのに。

「まあ、しがない雇われ店長だけどね。社長には、良いようにこき使われてます、俺」

 ニコッと、満面の営業スマイルが、眩しい。

 コンビニも、ここの会社の系列なのか。
 それにしても、そこの店長さんも兼任だなんて。若いけど、ニコニコマンだけど、なかなか侮れないスマイリー主任。意外と凄い腕利きの、やり手サラリーマンなのかもしれない。

 主任の説明では今日出勤予定の森田さんっていう人が、『よんどころない事情』で急きょ遅刻すると連絡があって、ちょうど面接に来ていた私に白羽の矢が立ったのだとか。

「えー、来週から夜勤の社員で入る篠原麻理さんです。今日は、森田さんが来るまでの数時間ルームメイクの代打に入って貰いますので、みなさん、フォローをよろしく!」
「よろしくお願いします!」

 主任の紹介の後に、私はペコリとご挨拶。もちろん、スマイル、全開。

「よろしくね!」

 と、語尾に音符マークが付いていそうなニコニコ笑顔で声を掛けてくれたのが、高瀬幸子さん、二十七歳。小柄なシュートカットの女性で、自営業のダンナ様と三歳の娘さんがいるのだそう。元気印のお母さんってかんじ。

「うっす」

 どちらかと言うと『ニヤニヤ』と少し粘着質な笑いを浮かべた、黒縁メガネの背の高いひょろっとした男の人は、今井雄三さん、四十五歳。なんと、プロのカメラマンなのだとか。

 初めて、カメラマンなる人種をまじかで見て、思わず感心してしまう。芸術家肌と言われれば、そんな風に見えて来るから不思議だ。

 そして、スマイリー佐藤主任と私。これが、今日のお仕事のメンバー。なんだけど――。

 この期に及んで肝心のお仕事内容が、さっぱり分からないんですが、私。

 やっぱり、まずいよね?

「あの……、すみません。どんな事をするんですか?」

 さすがに、今からするお仕事内容を知らないわけには行かないので、恥をしのんで聞いてみる。

 瞬間、みんなの『え?』っという驚きの視線が集まった。

――あああ。やっぱりね。そうだよね。そうなるよね。

 恥ずかしさで、思わず目が泳ぐ。

「……もしかして、仕事内容を知らないで面接に来たとか?」

 主任が、驚いたように目を丸くしている。

 はい。 
 お仕事内容どころか、どんな会社かも知りませんでした、ごめんなさい。

「あ、あははは……」

 もう、笑って誤魔化そう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】SとMのおとし合い

臣桜
恋愛
明治時代、東京の侯爵家の九条西家へ嫁いだ京都からの花嫁、大御門雅。 彼女を待っていたのは甘い新婚生活ではなく、恥辱の日々だった。 執事を前にした処女検査、使用人の前で夫に犯され、夫の前で使用人に犯され、そのような辱めを受けて尚、雅が宗一郎を思う理由は……。また、宗一郎が雅を憎む理由は……。 サドな宗一郎とマゾな雅の物語。 ※ ムーンライトノベルズさまにも重複投稿しています ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里(うえむらあかり)は、酔い潰れていた所を上司の速見尊(はやみみこと)に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と尋ねワンナイトラブの関係になってしまう。 かと思えば出社後も部長は求めてきて、二人はただの上司と部下から本当の恋人になっていく。 だが二人の前には障害が立ちはだかり……。 ※ 過去に投稿した短編の、連載版です

【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される

Lynx🐈‍⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。 律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。 ✱♡はHシーンです。 ✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。 ✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

冷徹秘書は生贄の恋人を溺愛する

砂原雑音
恋愛
旧題:正しい媚薬の使用法 ……先輩。 なんて人に、なんてものを盛ってくれたんですか……! グラスに盛られた「天使の媚薬」 それを綺麗に飲み干したのは、わが社で「悪魔」と呼ばれる超エリートの社長秘書。 果たして悪魔に媚薬は効果があるのか。 確かめる前に逃げ出そうとしたら、がっつり捕まり。気づいたら、悪魔の微笑が私を見下ろしていたのでした。 ※多少無理やり表現あります※多少……?

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...