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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
22 衝撃の初仕事①
しおりを挟む二階に上がってすぐの所にある授業員控え室。木製のシンプルなドアの中は、何というか不思議な間取りが広がっていた。
ドアを開けてすぐに、六畳ほどの細長いフロアがあって、突き当たりにキッチンがある。右の壁側には、冷蔵庫、冷凍庫、食器棚と調理台が並ぶ。
向かって左側は同じく六畳ほどの一段高くなった和室になっていて、壁際にずらりとスチール製のロッカーが並んでいた。で、畳の真ん中に木目の丸いローテーブル。
たぶん、これって『ちゃぶ台』というやつだ。
床の間に小さな黒いテレビ。その脇は、押入れになっている。
なんて言うか……。
しなびた……じゃなくて、ひなびた、旅館?
「ここのロッカーで着替えて、っていっても、制服の上着を羽織るだけだけどね。今日の所は余ってる制服で我慢して。一応クリーニング済みだから」
一番端っこのロッカーからスマイリー主任が取り出してきたのは、なんだか見覚えのある白地にブルーの縦縞のラインの入った、上着。
「これって、コンビニの……」
そう。ここに来る前に寄った、コンビニの制服に似ている。
「デザインは、一緒だね。胸の所のロゴだけ変えてあるんだ」
「あ、ほんとだ」
胸の所に、濃いオレンジ色でホテルの名前が刺繍されている。
「あそこのコンビニもウチの会社の系列だから。あ、ちなみに、自分はコンビニの店長も兼任しているので、ご贔屓にね」
「店長!? ……さんなんですか?」
てっきり、アルバイトのお兄さんだとばかり思ってたのに。
「まあ、しがない雇われ店長だけどね。社長には、良いようにこき使われてます、俺」
ニコッと、満面の営業スマイルが、眩しい。
コンビニも、ここの会社の系列なのか。
それにしても、そこの店長さんも兼任だなんて。若いけど、ニコニコマンだけど、なかなか侮れないスマイリー主任。意外と凄い腕利きの、やり手サラリーマンなのかもしれない。
主任の説明では今日出勤予定の森田さんっていう人が、『よんどころない事情』で急きょ遅刻すると連絡があって、ちょうど面接に来ていた私に白羽の矢が立ったのだとか。
「えー、来週から夜勤の社員で入る篠原麻理さんです。今日は、森田さんが来るまでの数時間ルームメイクの代打に入って貰いますので、みなさん、フォローをよろしく!」
「よろしくお願いします!」
主任の紹介の後に、私はペコリとご挨拶。もちろん、スマイル、全開。
「よろしくね!」
と、語尾に音符マークが付いていそうなニコニコ笑顔で声を掛けてくれたのが、高瀬幸子さん、二十七歳。小柄なシュートカットの女性で、自営業のダンナ様と三歳の娘さんがいるのだそう。元気印のお母さんってかんじ。
「うっす」
どちらかと言うと『ニヤニヤ』と少し粘着質な笑いを浮かべた、黒縁メガネの背の高いひょろっとした男の人は、今井雄三さん、四十五歳。なんと、プロのカメラマンなのだとか。
初めて、カメラマンなる人種をまじかで見て、思わず感心してしまう。芸術家肌と言われれば、そんな風に見えて来るから不思議だ。
そして、スマイリー佐藤主任と私。これが、今日のお仕事のメンバー。なんだけど――。
この期に及んで肝心のお仕事内容が、さっぱり分からないんですが、私。
やっぱり、まずいよね?
「あの……、すみません。どんな事をするんですか?」
さすがに、今からするお仕事内容を知らないわけには行かないので、恥をしのんで聞いてみる。
瞬間、みんなの『え?』っという驚きの視線が集まった。
――あああ。やっぱりね。そうだよね。そうなるよね。
恥ずかしさで、思わず目が泳ぐ。
「……もしかして、仕事内容を知らないで面接に来たとか?」
主任が、驚いたように目を丸くしている。
はい。
お仕事内容どころか、どんな会社かも知りませんでした、ごめんなさい。
「あ、あははは……」
もう、笑って誤魔化そう。
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