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可愛い部下の愛し方【課長視点】
08 再会⑦
しおりを挟む工場での原寸検査を見学していて感心したのは、梓の仕事ぶりの見事さだ。大手ゼネコンの担当監督と設計士を相手にして、迷う様子もなくてきぱきと検査を進めていく。工務課いちばんの古株の名は伊達ではないようだ。
梓は、俺と同じ大学の教育学部にいたから、てっきり学校教師になっているものと思っていたのに。確かに中学の時に交通事故で亡くなったという大工の父親の影響を受けて、ドールハウスや建築模型が大好きではあったが。
まさか、鉄骨建築の加工図面を書いているとは思いもよらなかった。それも、図面を書くだけではなく、こうして自分の工事を受け持ち、検査や打ち合わせを進めていく。
俺が付き合っていたころの梓は、少し引っ込み思案で初対面の相手にはなかなかなじめなくて。他人とのコミュニケーションがあまり得意ではなかったのに。
それはそうか。
もう別れてから九年もたっているのだ。
見てくれは変わっていないように思えても、中身は大きく成長していても不思議じゃない。
梓はもう、俺が知っている十八歳の女の子じゃない。
自分の仕事を責任もってこなしていく、大人のキャリアウーマンなんだ。
その証拠に、俺が自分を手酷く振った元恋人の・榊東悟だとはっきりした後も、俺に対する態度は、あくまで上司に対するものだった。
残念な反面、少しほっとしている自分を否めない。だが、新任の課長とその補佐係としての関係を心地よく感じてもいた。
こうして梓に、加工図面の書き方をレクチャ―してもらうのも、かなり楽しい。
工務課内の最奥にある課長席の隣に、補佐係の梓の席があり、さらにその隣に佐藤さんの席が続く。
「ここの補強プレートの収まりなんだが、これで良いのかな?」
隣から疑問点を問えば、梓は自分の仕事を止めて丁寧に教えてくれる。
「えーと……、はい、これでOKです。でも、本当に初めてなんですか、加工図書かれるの。なんだか、もの凄く素人離れしているんですけど……」
「まあ、少し設計を囓ったくらいだけどね」
「えっ!? 設計って、……まさか建築士の資格、持ってたりするんですか?」
「ああ、ちょっと必要に迫られて一級建築士を取った――というか、会社で取らされたんだ。ペーパー建築士だけどね。でも、こういう設計図から加工図をおこすと言うのは、正真正銘初めてだよ。けっこう、面白いものだね」
まさか、俺が建築士免許を持っているとは思わなかったのか、梓は驚いたように目を丸めた。
その素直な反応に思わず頬が緩みそうになる。
俺が以前どこの会社にいてどんな仕事をしていたのかは、狸親父、もとい大海社長との取り決めでオフレコになっているから詳しいことは言えないが、これくらいはいいだろう。
自分の図面台の方に集中していると、頬に視線を感じて顔を上げた。梓とバッチリ視線がかち合えば、彼女はまるで『だるまさんがころんだ状態』で、ぴきりと動きを止める。
かなり楽しい。
そう感じてしまう俺は、やっぱり彼女に惹かれているのだろう。
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